独特の感性が光る栗原類が抱えていた「“つまらない”という生きづらさ」
『春のめざめ』は、100年以上前に書かれたとは思えないほど現代と親和性のある物語だ。ドイツのギムナジウムに通う少年少女たちは自分に戸惑い、葛藤する。
その姿を通して思春期の生と性を赤裸々に描き、2年前に大評判をとった白井晃の演出版が、待望の声を受けて再演の幕を開ける。新メンバーが加わったこの再演で、初演に引き続きモーリッツ役を演じるのが栗原類さんだ。
不安や重圧を感じる
誰もが共感できる役
「14歳は、自分の身体の成長に心が追いつかなかったり、世間に対する考え方がわからなかったり、いわゆる“中二病”が発症する時期。僕の演じるモーリッツは、親からの期待や社会からの重圧に自分の脳が追いつけずにパンクしてしまうんですね。
僕はNHKの『#8月31日の夜に。』という、夏休み最後の日の生放送に2年連続でかかわらせていただきましたが、その時期になると登校が嫌で、自殺してしまう学生さんたちが増えている。そのことを実感しました。この戯曲のモーリッツは、いまのそういう状況とリンクしています。不安やプレッシャーを感じているすべての人が、共感できると思うんです」
栗原さん自身、発達障害のひとつであるADD(注意欠陥障害)と診断され、それまで暮らしていたニューヨークから帰って間もなかった日本での中学時代は、つらい時期だったという。
「僕の場合は、モーリッツとは違う種類のつらさでした。親からの重圧はなくて“無理に勉強しなくても、最低限のことをやっていればいいよ”と言われていましたから。ただ、僕自身にも問題はあったんですけど、聴いている音楽や読んでいる本、育った文化が違ったりして、周りから相手にされていない自分がいました。周りと価値観が合わない。僕の場合は危機感ではなく、“つまらない”という生きづらさでした」
栗原さん自身のパーソナリティーは、モーリッツより、性的衝動で過ちを犯してしまう大人びた同級生、メルヒオール(伊藤健太郎さん)のほうに近いとか。
「僕はニューヨークにいたときは、日本より目にする機会が多いからか、性に関するシーンを母親と一緒に見ていました。そういうときは母親が、そのシーンの意味や必要性について説明してくれたんです。
モーリッツのセリフに“羞恥心って教え込まれるもの”というのがありますが、僕は早い段階から教え込まれていたので、14歳になって初めて知るという感覚がわからなくて。自分が腑に落ちたうえでせりふを言うのが難しいです」
いつかハリウッドで仕事を認められたい
こうして自分の過去を振り返ることも、役へのアプローチにつながっている。
「『どうぶつ会議』のときに共演した池谷のぶえさんがおっしゃっていたのですが、“結局は、自分という存在でしか表現できない。
他人になりきるなんてことは無理で、自分がこういう顔で身長だから、それで表現しないといけないんだ”って。結局は栗原類という人間が演じるしかないんだったら、自分自身の経験をベースに、そこから加えたり引いたりすることしかできないんです。だから、自分と向き合うことは避けて通れません」
今回、栗原さんが目指しているのは「初演とは違ったモーリッツを表現したい」ということ。
「再演とはいえ演者が変われば完全に新作。根っこは初演と同じですが、そこから出てくる芽が違うし咲く花が違うから、初演にとらわれたくないと思っています。でも下手に変えようとすると違和感があって、気持ち悪いと感じてしまう」
そういうもがき苦しみはやりがいあってこそだし、稽古を楽しめてはいるのでしょうか?
「正直な話、ないです。役者って苦しみしかないと思います。自分がどういう表現をするのか楽しみな部分はありますが……。あまりに長い期間、答えが見つからない状態が続くと、僕は気持ちが落ち込んでしまいます。
ある意味、役者って報われない職業だと思っています。でも楽しいという部分もあるから、だったら悔いがないように、苦しみながら楽しむのが正解なのかな」
でも観客の心を動かしたり拍手をもらえたら、報われるところもあるのでは?
「そうだと思います。でも、僕は役者をするにあたって誰かの心を動かしたいなんて欲望はまるでないので。この台本、このセリフ、演出家の言葉を聞いたうえで、どういう表現ができるか。毎回技量を試されるような仕事だから、考えるプロセスはすごく苦しいです。
報われたと感じるのは、自分が考えたものを演出家や監督に“よかった”と言われるとき。そう言っていただけて初めて、達成感を感じますね」
独特の感性があってストイックで、ときには役者らしくない発言もあるけれど、仕事に懸命な栗原さんは、「ネガティブすぎるイケメンモデル」と言われた過去の彼とはまるで違う。それは彼の“目標”を聞いても明らかだ。
「僕はいろいろな人と、特に僕自身が昔から知っている監督や脚本家、演出家と仕事がしたいと思っています。コメディーが好きだからもっとやりたいし、いつかは自分の作・演出で舞台や映画を作ってみたい。
最終的な目標は、ハリウッドで仕事をして認められること。アカデミー賞が100周年を迎えるまでには、あの授賞式に賞の候補者として参加したいですね」
『春のめざめ』
ドイツの劇作家、フランク・ヴェデキントが1891年に発表した戯曲を、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督を務める白井晃が演出。2017年に大好評を博した舞台の再演だ。ドイツの中等教育機関、ギムナジウムを舞台に、社会の抑圧の中で葛藤する若者たちの姿を赤裸々に描く。4月13日〜29日 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて上演。以後、東広島、兵庫公演あり。
公式HPは(https://www.kaat.jp/d/harumeza2019)
<プロフィール>
くりはら・るい◎1994年12月6日、東京都生まれ。雑誌『MEN'S NON-NO』などでモデルとして活躍。その後、バラエティー番組でブレイクし、2012年に俳優デビューを果たす。主な出演作に映画『新宿スワン2』『ハナレイ・ベイ』『青のハスより』、舞台『GO WEST』『Take Me Out2018』『気づかいルーシー』『どうぶつ会議』などがある。
<取材・文/若林ゆり>