3万時間のコンサルティングで解明した個人の成長を加速させる「日本発の方法論」
今よりもっと成長したい。ビジネスパーソンなら誰しもがそう思っているはずだ。
しかし、その思いとともに、成長するための方法論がわからないという悩みも多くの人が抱えている。
新しい組織開発のコンサルティングを通して、12000人以上の企業リーダーを支援してきた組織開発のプロフェッショナル、荻阪哲雄氏がその悩みを解決する著書、『成長が「速い人」「遅い人」』(日本経済新聞出版社刊)を上梓した。
荻阪氏は、成長を加速させるためには「学び方を学ぶ」ことで「気づける力」を伸ばすことが不可欠であると説く。では、「学び方を学ぶ」とはどういうことなのか。荻阪氏にお話をうかがった。
(取材・文:大村佑介)
■師弟が互いに学びあうことで成長は加速する
――本書では、成長が「速い人」と「遅い人」を比較した56の特徴が紹介されています。その中のひとつに「成長が速い人は、師匠を定め、私淑して、智恵を掴む」とあります。師匠を定め、学び方を学んでいく際、曲解した学びや自分にとって都合の良い学びにしないためのポイントはありますか?
荻阪哲雄(以下、荻阪):これには3つの「学び方のツボ」があります。
まず、第1のツボは「曲解した学び方、都合の良い学び方」を変えるために、師匠を選ぶということです。自分の曲解する学び方を「変えるための学び」が必要になるわけです。
第2のツボは、職業の道を学ぶ「知的プロフェッショナルの師匠」がいることを知るということです。
日本には柔道や茶道のように、古来より「道(way)」という考え方があります。それは実践の学び方です。「道の世界」では、言葉だけではなく、人間の存在そのものからも学びます。それは、「後姿」であったり、「眼差し」であったり、「呼吸」であったりします。
プロフェッショナルが世の中にいて、その存在すべてから学び抜き、気づける力を学んでいくということが重要なのです。
3つ目のツボは「我流では知恵はつかめない」ということを押えるのです。
特に若い頃は、我流では曲解・ご都合主義の学び方になりやすい傾向にあります。でも、我流でできるのは一握りの天才だけ。凡人は学びのプライドを捨てないと知恵はつかめません。
そもそも「教えてもらう」と「学び方を学ぶ」は違います。「学び抜こう」ということは受け身ではなく、自立した行動です。自分が目的を持って相手から学ぶときに、学び方を学び抜くことができます。
もしそれが重要な学びにならなかったとしても、それもひとつの学びになります。「それは重要ではない」と一つ学ぶことができる。「うまくいかなかった学び方」を自分で気づけたということです。
また、師匠を選ぶためには、「自分が弟子になる」という覚悟を持たないとできません。
私は、大学で教えていますが、これからの「師匠」と「弟子」の関係は、古い閉鎖的な関係ではありません。師匠も弟子のことを「師」として学び、一緒に高めあっていこうとする姿勢が必要であり、それが、智恵を掴む「新しい師弟関係の姿」です。
■学びを深める「実践知」と「謙虚さ」
――また、本書の中に「成長が速い人は、目的の達成へ、自分で動く経験を積んでいく」という話があり、そこで AIでは代替できない「実践知」の大切さを説いています。AI時代を目の前にしている今、荻阪さんがもっとも懸念することはなんでしょうか?
荻阪:分からないことがあったら、調べることは当たり前です。でも、調べただけで止まってしまい、現場に行って確かめる、やってみるという行動が少なくなってしまうことを懸念しています。
旅行に行かないで景色の写真を見るのと、実際に行って見るのとでは体験が全然違います。ちょっと知ったら、「はい次」となって深められない。だから、知識があっても智恵になっていかないし、仕事で活かせない。
それは、生身の人間への興味が深まっていかないことにもつながっていきます。
たとえば、私が学生に「○○さんという面白い人がいるから会いに行ってみたら」と語れるのは、相手を知っているからです。生身の付き合いがあるから伝えられる。学生は生身の私を知っているから、「じゃあ行ってみよう」とアクションが起こせる。その相手も生身の私を知っているから、学生の子を本気で相手してくれる。
そこで起きる対話は、インターネットでちょっと関わった人同士が話すのとは全然違います。そういった体験、実践知がなくなり、「学び方を学ぶ」機会がなくなることを懸念します。
――本書後半でたびたび出てくる、「謙虚さ」という言葉が印象的です。これも「学び方を学ぶ」うえで必要な姿勢だと思いますが、「謙虚さ」を持つためにどうすればいいでしょうか?
荻阪:私も含めて人間は、物事が上手くいっていれば驕り高ぶりますから、増上慢な自分をいかに見つめるか。そのことに気づくためには、「謙虚ということを考える」ことが必要になるわけです。
そのためには、まず「自分自身が相手から学んでいるかどうかを振り返る」こと。
誰かと会って、話して、学び、それを別の人にそこで得た学びとして教えられなかったら、それは相手から深く学んでいなかったということになります。
次に、「自分自身の働く姿勢を見つめる」ということです。たとえば、上から目線で話していなかったか、などを常に振り返るわけです。
その上で、次の「自分の成長課題」を、自分の言葉へ変えていくことが謙虚な学び方に繋がります。今の自分を乗り越えていくために、常に次の成長課題を意識する。その課題に向かっていけば、謙虚さを失うことはありません。
――最後に「自分は成長が遅い」と危機感を持っている人にメッセージをお願いします。
荻阪:「自分は成長が遅い」と悩むことは、悪いことではないのです。成長が遅いと感じているということは、素晴らしい成長の種を持っているという証なのです。
「成長なんてどうでもいい。そんな綺麗事より儲けることが大事だ」と、「自分の成長」と「職業の結果」を出すことを切り離している人もいます。確かに所得は大事ですが、人間としての成長がない限り、仕事を通して結果を変えることはできません。
所得格差が話題になっていますが、所得は結果です。その手前に「人間の成長格差」があるのです。
成長する個人、成長する職場、成長することを讃え合う組織文化をつくらない限り、日本の所得格差は解決しない。それは私がこの本に込めた社会の課題を解決する、もうひとつのメッセージでもあります。
自分と社会の接点を見つめることが自分の成長の始まりです。そして、私自身も成長の道半ばです。だからこそ、その道を御一緒に歩んで行きたいと伝えたいです。
(了)
インタビュー前編:成長が「遅い人」から「速い人」へ変わる「気づける力」とは?
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しかし、その思いとともに、成長するための方法論がわからないという悩みも多くの人が抱えている。
新しい組織開発のコンサルティングを通して、12000人以上の企業リーダーを支援してきた組織開発のプロフェッショナル、荻阪哲雄氏がその悩みを解決する著書、『成長が「速い人」「遅い人」』(日本経済新聞出版社刊)を上梓した。
荻阪氏は、成長を加速させるためには「学び方を学ぶ」ことで「気づける力」を伸ばすことが不可欠であると説く。では、「学び方を学ぶ」とはどういうことなのか。荻阪氏にお話をうかがった。
■師弟が互いに学びあうことで成長は加速する
――本書では、成長が「速い人」と「遅い人」を比較した56の特徴が紹介されています。その中のひとつに「成長が速い人は、師匠を定め、私淑して、智恵を掴む」とあります。師匠を定め、学び方を学んでいく際、曲解した学びや自分にとって都合の良い学びにしないためのポイントはありますか?
荻阪哲雄(以下、荻阪):これには3つの「学び方のツボ」があります。
まず、第1のツボは「曲解した学び方、都合の良い学び方」を変えるために、師匠を選ぶということです。自分の曲解する学び方を「変えるための学び」が必要になるわけです。
第2のツボは、職業の道を学ぶ「知的プロフェッショナルの師匠」がいることを知るということです。
日本には柔道や茶道のように、古来より「道(way)」という考え方があります。それは実践の学び方です。「道の世界」では、言葉だけではなく、人間の存在そのものからも学びます。それは、「後姿」であったり、「眼差し」であったり、「呼吸」であったりします。
プロフェッショナルが世の中にいて、その存在すべてから学び抜き、気づける力を学んでいくということが重要なのです。
3つ目のツボは「我流では知恵はつかめない」ということを押えるのです。
特に若い頃は、我流では曲解・ご都合主義の学び方になりやすい傾向にあります。でも、我流でできるのは一握りの天才だけ。凡人は学びのプライドを捨てないと知恵はつかめません。
そもそも「教えてもらう」と「学び方を学ぶ」は違います。「学び抜こう」ということは受け身ではなく、自立した行動です。自分が目的を持って相手から学ぶときに、学び方を学び抜くことができます。
もしそれが重要な学びにならなかったとしても、それもひとつの学びになります。「それは重要ではない」と一つ学ぶことができる。「うまくいかなかった学び方」を自分で気づけたということです。
また、師匠を選ぶためには、「自分が弟子になる」という覚悟を持たないとできません。
私は、大学で教えていますが、これからの「師匠」と「弟子」の関係は、古い閉鎖的な関係ではありません。師匠も弟子のことを「師」として学び、一緒に高めあっていこうとする姿勢が必要であり、それが、智恵を掴む「新しい師弟関係の姿」です。
■学びを深める「実践知」と「謙虚さ」
――また、本書の中に「成長が速い人は、目的の達成へ、自分で動く経験を積んでいく」という話があり、そこで AIでは代替できない「実践知」の大切さを説いています。AI時代を目の前にしている今、荻阪さんがもっとも懸念することはなんでしょうか?
荻阪:分からないことがあったら、調べることは当たり前です。でも、調べただけで止まってしまい、現場に行って確かめる、やってみるという行動が少なくなってしまうことを懸念しています。
旅行に行かないで景色の写真を見るのと、実際に行って見るのとでは体験が全然違います。ちょっと知ったら、「はい次」となって深められない。だから、知識があっても智恵になっていかないし、仕事で活かせない。
それは、生身の人間への興味が深まっていかないことにもつながっていきます。
たとえば、私が学生に「○○さんという面白い人がいるから会いに行ってみたら」と語れるのは、相手を知っているからです。生身の付き合いがあるから伝えられる。学生は生身の私を知っているから、「じゃあ行ってみよう」とアクションが起こせる。その相手も生身の私を知っているから、学生の子を本気で相手してくれる。
そこで起きる対話は、インターネットでちょっと関わった人同士が話すのとは全然違います。そういった体験、実践知がなくなり、「学び方を学ぶ」機会がなくなることを懸念します。
――本書後半でたびたび出てくる、「謙虚さ」という言葉が印象的です。これも「学び方を学ぶ」うえで必要な姿勢だと思いますが、「謙虚さ」を持つためにどうすればいいでしょうか?
荻阪:私も含めて人間は、物事が上手くいっていれば驕り高ぶりますから、増上慢な自分をいかに見つめるか。そのことに気づくためには、「謙虚ということを考える」ことが必要になるわけです。
そのためには、まず「自分自身が相手から学んでいるかどうかを振り返る」こと。
誰かと会って、話して、学び、それを別の人にそこで得た学びとして教えられなかったら、それは相手から深く学んでいなかったということになります。
次に、「自分自身の働く姿勢を見つめる」ということです。たとえば、上から目線で話していなかったか、などを常に振り返るわけです。
その上で、次の「自分の成長課題」を、自分の言葉へ変えていくことが謙虚な学び方に繋がります。今の自分を乗り越えていくために、常に次の成長課題を意識する。その課題に向かっていけば、謙虚さを失うことはありません。
――最後に「自分は成長が遅い」と危機感を持っている人にメッセージをお願いします。
荻阪:「自分は成長が遅い」と悩むことは、悪いことではないのです。成長が遅いと感じているということは、素晴らしい成長の種を持っているという証なのです。
「成長なんてどうでもいい。そんな綺麗事より儲けることが大事だ」と、「自分の成長」と「職業の結果」を出すことを切り離している人もいます。確かに所得は大事ですが、人間としての成長がない限り、仕事を通して結果を変えることはできません。
所得格差が話題になっていますが、所得は結果です。その手前に「人間の成長格差」があるのです。
成長する個人、成長する職場、成長することを讃え合う組織文化をつくらない限り、日本の所得格差は解決しない。それは私がこの本に込めた社会の課題を解決する、もうひとつのメッセージでもあります。
自分と社会の接点を見つめることが自分の成長の始まりです。そして、私自身も成長の道半ばです。だからこそ、その道を御一緒に歩んで行きたいと伝えたいです。
(了)
インタビュー前編:成長が「遅い人」から「速い人」へ変わる「気づける力」とは?
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