日本ではまだまだ多いATM。キャッシュレス化の進んだシンガポールではショッピングセンターなどで見掛けるくらいだ(筆者撮影)

シンガポール在住のファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。最近、日本の銀行の苦戦ぶりがよく報道されますが、そもそも「日本の銀行」と「海外の銀行」で、使い勝手に違いはあるのでしょうか。あるとすれば何が違うのでしょうか。日本とシンガポールを行ったり来たりしている私ですが今回はあくまで消費者目線から、その辺りのお話をしていきます。

高いATM手数料で稼ぐ日本の銀行に顧客は不満のはず

まず、ほとんどの日本人は日本の銀行を使っているわけですが、多くの人はいくつかの銀行に複数の口座を持っているのではないでしょうか。しかも、その中には、何年もまったく使われていない口座がきっとあると思います。たとえば、家を引っ越す前に使っていた口座や学生時代にアルバイトで作らされた口座などです。

一方、日本の銀行の特徴の1つで挙げられるのは、時間外などと称してATM(現金自動預け払い機)手数料を頻繁に取ることです。たとえば3000円の引き出しで216円も取られたら、実はものすごいお金を払っていることになります。

では、海外の銀行はどうでしょうか。ほとんどの銀行が口座維持手数料を取っているため、1人でいくつもの銀行の口座を持つことは必要性がなければありません。その分、銀行は最低限の経費削減ができています。利用者側からすれば、どちらの手数料も取られたくありません。いったい、日本と海外、どちらの銀行が顧客主義なのか、それぞれのメリット、デメリットを比較していきましょう。

日本の一部の銀行は、提携する金融機関のATMから預金を引き出す際に手数料をかけたり、手数料が無料になる回数を減らしたりする傾向にあります。たとえば、新生銀行は2018年10月から一部利用客はつねに有料(1回108円)にする予定です。三菱UFJ銀行も一部利用客のコンビニATMの無料利用を月3回から2回に減らしました。預金残高など取引状況に応じて、顧客をランク分けして、その優遇ステージによって判断する金融機関が増えています。

マイナス金利の影響で運用難に陥った金融機関は、顧客からこうした手数料を一段とちまちま取らざるをえない状況にあります。しかし、利用者にとって、利息がほとんどつかないうえに手数料が取られるとあっては、すでに金庫代わりにする以外、利用価値があまり見いだせなくなっていると思います。

さらに、収益源の確保のため、カードローンや、手数料の高い投資信託や保険を窓口で販売することに熱心な金融機関もあります。こうした金融機関の姿勢に、顧客からの不満を聞きます。そのため、フィデューシャリー・デューティー(金融機関が利用者の利益を最大化する義務)の徹底など、金融庁がようやくルールを厳格化しています。であれば、苦境にある日本の銀行が生き残るにはどうすべきでしょうか。海外の金融機関のように、口座維持手数料をとるのも1つの選択肢なのではないでしょうか。

海外の銀行は「口座を使い回すほどお得」

海外では、口座維持手数料を取るのはごく一般的に行われています。たとえば、シンガポールのA銀行では、月間平均総取引残高(月末の残高ではなく、月間を通してどれだけ平均的に残高があったかを見る)が約8万円を下回ると、日本円で換算して月額約160円(税抜き)の口座維持手数料を支払う必要があります。各金融機関によって基準はさまざまですが、おおむね、最低限の預金残高を求める金融機関が多いようです。

もちろん、日本でも口座維持手数料を取る銀行はすでにあります。私は、日本の旧シティバンク銀行(SMBC信託銀行プレスティア)を長年利用していますが、月間平均総取引残高が50万円を下回ると月額2000円(税抜き)の口座維持手数料を支払うという条件になっています。そのため、つねに最低金額を口座に入れています。それでもなぜ維持をしているのかというと、海外送金の際、手数料やそのほかの条件面が有利で、米ドルキャッシュカードなど海外で便利なサービスを受けられるからです。この口座を持っていることで、費用を上回るメリットがあると感じています。

海外では、このように銀行が口座維持手数料を取ることから、やみくもに口座を増やす人はいません。また、預金者は一定の残高を維持しようという心理が強く働くので、おのずと貯蓄に励もうとします。実際、口座を増やしすぎると管理も複雑になったり、銀行からの通知にも対応できなかったりして、信頼関係を損ねることがあります。海外の銀行の場合、たとえ預金額が維持できていても、一定期間内に取引がまったくないと強制的に口座を閉鎖され、お金が払い戻される場合もあるのです。

日本の銀行に慣れていると、海外の銀行は不親切だと思われるかもしれません。しかし、日本の銀行のように窓口で投信や保険を勧められることも少なく、何より、手数料以上のメリットを享受できるのです。たとえば、特に地元シンガポールに本店を置く銀行は各社とも顧客獲得競争を勝ち抜くために、切磋琢磨しています。そのため、給与振込口座に指定したり、取引額や頻度の多い優良顧客に対して、2〜3%の金利を優遇することもあります(金融機関や諸要件によります。ゼロ金利の日本では難しいかもしれませんが)。

たまにカードローンの案内が送られてくることもありますが、日本のように街中でたくさん広告を見ることもありません。こうして、口座維持手数料を取ることで、銀行側は口座維持にかかる無駄な費用が削減でき、コストカットにつながります。その結果の1つとして、顧客に金利や手数料の優遇をする余裕ができる部分もあります。

「現金」や「ATM」から離れて一刻も早く新しいサービスを

海外では、日本よりキャッシュレス化が進んでいる国がたくさんあります。シンガポールもその1つです。ほぼどこでも使えるクレジットカードだけでなく、「タップ式のデビットカード」「QRコード決済」「銀行による個人間送金」(銀行に電話番号やIDを登録すれば相手の電話番号だけで無料で送金可能)なども進んでいるので、現金を頻繁にATMから引き出す必要はありません。

わが家の場合は、日本円にして3万〜4万円程度を、月2〜3回程度引き出すだけです。ベビーシッターや習いごとなどにキャッシュで支払う以外は、ほとんど現金を使わないからです。


そもそも、ATMが日本のように便利ではありません。基本的に、オンラインバンキングや銀行アプリで振り込みなどを行うので、ATMはほぼ引き出し専用です。シンガポールのATMでは機械によっては入金などの複雑な操作ができないATMもあります。日本の通帳に当たるものもなく、オンラインバンキングで入出金明細をダウンロードして管理するのが当たり前です。

もちろん日本でも徐々に普及していますが、日本の金融機関のオンラインバンキングでは入出金の明細がわずか3カ月分しか出ない場合もあります。しかし通帳をなくしてもいいので、全期間の明細を出してくれるほうがありがたいのではないかと感じます。

日本の銀行は勢力拡大するためにATMをどんどん設置してきましたが、さすがに現在は縮小過程に入っています。しかしまだ街中にATMがあふれています。シンガポールではATM専用の店舗などほとんどありませんし、ATMはショッピングモールなどの片隅にちょこんと1台置かれている程度です。利用者も少なく長時間使う人もいないので、長蛇の列になることもありません。しかも基本的に24時間利用ができます。日本のクレジットカードを使ったり、海外で引き出すなどといったことをしないかぎり、手数料を取られることも基本的にはありません。

もちろん日本の銀行が海外の銀行に勝っている部分がゼロではないでしょう。しかしこれからは、フィンテック(金融とITの融合)の進化によって、取引も融資も銀行を介さずして成立する時代です。ですから、日本の銀行も海外の銀行のように、バッサリとコストカットしながら、一刻も早く預金者が一段と喜ぶサービスを提供する必要があります。そうしないと「終わったコンテンツ」のオワコンならぬ、「オワ銀」になってしまいます。