7月24日、キリンビールは、ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)の主力ブランド「バドワイザー」の国内製造・販売を2018年末で終了することをロイターなどが報道、19年からはABIの日本法人が販売を行うこととなりました。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、日本のビール業界を取り巻く環境等を詳細に分析するとともに、ABIによる我が国でのM&Aの可能性についても考察しています。

キリンの「バドワイザー」生産終了は「バドガール」の復権となるか?

キリンビールはビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)の主力ブランド「バドワイザー」の日本での製造・販売を2018年末で終了すると「ロイター」などが報じました。19年以降はABIの日本法人が輸入・販売を行っていく見通しです。

そうしたなか、ネットでは日本での「バドガール」の行方に注目が集まっています。バドガールはバドワイザーの柄を大きくデザインしたワンピースの衣装「バドスーツ」を着用した女性のことで、製品の販促活動を担っています。

かつて、タレントの梅宮アンナさんがバドスーツ姿でテレビCMなどに出演し話題になりました。また、バドガールが接客する飲食店も続々とオープン。そうした中でバドガールが製品の普及に大きな役割を果たしてきました。

バドガール ワンピース(Amazon.co.jp)

ただ、近年はバドガールを見ることがめっきり少なくなりました。バドワイザーの認知度は十分高まっているため、バドガールで大々的に宣伝する必要がなくなっており、日本では役割を終えた存在になっているといえます。

そうしたなか、ABIがバドガールを日本でどのように位置づけるのかに注目が集まります。完全に無視する可能性もあります。また、リブランディングの切り札としてあえてバドガールを大々的に活用する可能性も否定できません。

バドワイザーは世界で屈指の販売量を誇る世界的なビールブランドです。しかし、日本では近年苦戦を強いられています。「日本での年間販売量が90年代のピーク時と比べ2割以下の8,000キロリットル前後に落ち込んだ」(7月25日付日本経済新聞)といいます。そこでバドガールを積極的に活用して盛り返しを図ることが十分考えられます。

もっとも、日本ではビール市場自体が縮小しており、厳しいのはバドワイザーだけではありません。キリンによると、16年のビール消費量(ビール・発泡酒・新ジャンル計)は525万キロリットルで、10年前と比べ17%減っています。そのような状況下でABIは日本市場で挑戦しようとしています。

日本ビール市場に存在するチャンス

厳しい状況が続く日本のビール市場ですが、一方でチャンスも存在します。

ビールの消費量が減っているとはいえ、日本が有数のビール消費国であることには変わりありません。キリンによると、16年の日本のビール消費量の国別順位は7位となっており、世界でも有数のビール消費国であることがわかります。また、金額ベースの消費規模だと世界で3位になるともいわれています。そのため、ABIには日本市場が魅力的に映っているようです。

酒税の一本化もチャンスといえるでしょう。ビール系飲料の酒税は現在、350ミリリットル入り缶でビールが77円、発泡酒が46.99円、第3のビールが28円となっていますが、26年までに段階的に54.25円に一本化されます。ビールの酒税は20円強下がるため、ビールであるバドワイザーの価格競争力は増すことになります。

高価格帯のプレミアムビールの市場が拡大したことも追い風です。サントリービールによると、03年に3.5%にとどまっていた国内プレミアムビールの市場シェアが、近年は15%程度にまで拡大しているといいます。さらなる拡大も見込め、プレミアムビールの存在感が高まっているのです。

そうしたなか、アンハイザー・ブッシュ・インベブはプレミアムビールの分野でも、「コロナ」「ヒューガルデン」「グースアイランド」といった強力なラインアップがあるため、戦略次第では販売を大きく伸ばすことが可能といえるでしょう。

ABIはこうしたことを総合的に勘案し、日本で自社販売への切り替えを進めているとみられます。切り替えはバドワイザーだけにとまらず、今年1月には、アサヒビールに委託していた「ヒューガルデン」「ステラ・アルトワ」「レフ」のブランドを自社販売に切り替えています。

ABIはこのように着々と日本市場攻略のための準備を進めています。しかし、世界最大手のビールメーカーではあるものの、日本ではその名はあまり知られていません。これまではキリンやアサヒなどのビッグネームを活用して製品を販売し、販路を開拓してきましたが、自社販売に切り替えた製品に関してはそれができなくなります。このことが今後大きなネックとなりそうです。

バドガールの露出が増えそうな理由

ただ、一方で「バドワイザー」の名は日本で広く知れ渡っています。これは、バドワイザー以外のブランドの販路開拓においても有利に働く武器になるといえるでしょう。「バドワイザーの会社」と認知されれば営業をかけやすいためです。

そこで、バドワイザーの認知度をさらに上げるために、バドガールを有効活用することが十分考えられます。バドガールはやや廃れた感がありますが、懐かしさを消費者に感じさせる「ノスタルジアマーケティング」で訴求することも十分可能です。コンテンツとして有効活用できないことはないでしょう。

いずれにしても、アンハイザー・ブッシュ・インベブは日本市場を攻略する上でABIの名を高めることが不可欠といえます。15年に日本法人を設立し、着々と地盤固めを進めてはいますが、本格的なマーケティングの展開はこれからとなりそうです。

そうした中で、ABIによる日本でのM&A(企業の合併・買収)の行方に注目が集まっています。ABIはこれまで積極的なM&Aを行うことで成長し、世界一のビールメーカーの地位に上り詰めたという経緯があります。

たとえば、16年には同業2位の英SABミラーの買収手続きを完了させています。買収には約790億ポンド(約10.1兆円)の巨費を投じ、高い資金調達力を見せつけました。食品では最大級のM&Aとなっています。

こうした実績があるため、日本でもM&Aを仕掛けてくる可能性が十分あります。ABIによるアサヒの買収は欧州で独占禁止法に抵触する恐れがあるため難しいものの、キリンはその心配がなく、また、キリンホールディングスの時価総額が約2.7兆円とABIが買収できないとは言いきれない規模のため、ABIがキリンを買収して日本市場を攻略する可能性を捨てきれません。

キリンはバドワイザーをABIに手放すことを余儀なくされ、今後はABIのバドワイザーとも戦わなくてはならなくなりました。また、ABIによる買収の脅威も高まっています。キリンはABIの一挙手一投足に気を揉む日々が当面続くことになりそうです。

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