スマートデイズ(旧スマートライフ)のパンフレットより抜粋。

写真拡大

シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる投資トラブルで、大半のオーナーに取得資金を融資したスルガ銀行の審査手続きに「改竄データ」が使われていることがわかった。融資書類のひとつである銀行通帳の画像データが、巧妙に書き換えられていたのだ。今回プレジデントオンラインでは、その「改竄データ」を入手した。手口の詳細を報告する――。

■1棟あたり約1億円の融資を受けて購入

約700人の「サラリーマン大家さん」が破産の危機に瀕している。

問題となっているのはスマートデイズ(旧スマートライフ)が運営する女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」。「頭金は不要」「30年間の家賃収入を保証する」などと勧誘された会社員など約700人が、1棟あたり約1億円の融資を受けてシェアハウスを購入した。一括借り上げで家賃を保証する「サブリース」という仕組みで、「大家さん」は副収入を得たい30〜50代の会社員。その大半が横浜市内のスルガ銀行の支店から取得資金を借りていた。

今年に入ってスマートデイズからの家賃支払いがとまり、オーナーたちはスルガ銀行への返済に窮している。今回、そうしたオーナーのひとりである田中さん(仮名)から、スルガ銀行の融資審査に重大な問題があるのではないか、という情報提供を得た。田中さんが融資書類のひとつとして不動産仲介業者に提出した銀行通帳の画像データが、田中さんの知らないところで巧妙に書き換えられていたというのだ。

■頭金はゼロで、全額を融資でまかなうスキーム

スマートデイズは顧客を集めるため、複数の不動産仲介業者を通じて、物件を販売していた。田中さんは、2016年秋に仲介業者と接触し、約1カ月後にシェアハウス1棟を購入した。価格は土地と建物をあわせて約1億3000万円だった。頭金はゼロで、取得資金の全額をスルガ銀行からの融資でまかなう。毎月のローンの支払額は66万円。ただしスマートデイズが一括借り上げをするため、毎月78万円が家賃として保証されると説明を受けていた。差額の12万円が田中さんの副収入となるはずだった。

2017年秋に建物が完成。間もなくスマートデイズからの入金が始まった。ところが2018年2月分から一切の入金がなくなってしまったという。「30年間の家賃収入を保証する」という約束は簡単にほごにされた。

■口座残高を「211万円」から「2935万円」に改竄

田中さんはほかのオーナーと連絡をとるなかで、融資書類の改竄の疑いを強めていった。弁護士を通じて、仲介業者に融資書類の提出を求めたところ、銀行通帳の画像データが送られてきた。提出した画像データには「211万円」という残高が記載されているはずだが、送られてきた画像データの口座残高は「2935万円」で、そこから「1060万円」を支払っていることになっていた。いずれも田中さんには身の覚えのない入出金だという。

「身に覚えのない金額が書かれており、本当に驚きました。物件の購入にあたり、販売会社からは『頭金は一切不要です』と説明を受けていました。ところが、送られてきた通帳の画像データには1060万円の支払いをした形跡があるのです。あとで弁護士からは『本来、1億円程度の物件を購入するには、1000万円以上の頭金が必要です』と聞きました。私には購入物件の頭金を支払えるような貯蓄はなく、通常の融資審査が行われていれば、融資は下りなかったはずです」(田中さん)

■「原本」での残高は514万円になっているが……

どういうことなのか。田中さんの銀行通帳の画像データをみてみよう。

現在も田中さんの手元にある「原本」では、3ページ目の最初に「繰越残高 514万円」とあり、5ページ目の最後は「11月2日 2183円 ガス料」の引き落としとなっている。口座残高は211万円だ。

■改竄後は「3214万円」から始まっている

ところが、もうひとつの画像は、3ページ目の最初に「繰越残高 3214万円」と記されている。5ページ目には原本と同じ「11月2日 2183円 ガス料」という引き落としがあるのだが、口座残高は2935万円になっている。さらに、その下には仲介業者の名前と、1060万円の引き落としが記載されている。最下段は「540円 振込手数料」となっており、残高が1875万円となったところで記帳は終わっている。

だが田中さんには頭金などを支払った記憶はない。最後の2行は架空の取引なのだ。

「私の物件の入居率は0%。つまり全部屋が空室で、家賃収入は0円です。土地と建物のローンで毎月66万円の支払いが必要で、私の給与では支払えません。弁護士からは破産をすすめられました。スマートデイズからの入金は期待できないので、現在、独自に入居者を募っています。スマートデイズ、不動産仲介業者、スルガ銀行の3者にだまされたと感じています。今後、私のような被害者が出ないことを願っています」(田中さん)

■データを劣化させて再構成するなど手口は巧妙

3者のうち、だれが画像データの改竄を行ったのかは、まだわからない。ただ手口はかなり巧妙だ。改竄後の画像データはドットが粗く、にじみがある。改竄の痕跡を消すために、わざと画像データを劣化させているものとみられる。また3ページ目から5ページ目まで、残高の数字はすべて書き換えられているが、金額のつじつまはあう。最後の2行だけを書き加えたのではなく、全体を再構成しているのだ。

■なぜ融資が特定の支店に集中していたのか

スマートデイズをめぐっては、物件を不当な高値で購入させられ損害を被ったとして、購入者13人が、スマートデイズや建築業者などを相手取り、3月27日に約2億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。提訴についてスマートデイズは「訴状が手元に届いていないため、回答は差し控えたい」としている。

また金融庁は、大半の所有者の取得資金を融資したスルガ銀行に対して、銀行法に基づく報告徴求命令を出している。田中さんのケースのように、審査が通りやすくなるように書類を改竄したケースがほかにもあるからだ。金融庁は不正を見抜けなかった審査体制の実態のほか、特定の支店に融資が集中している点についても、スルガ銀行に報告を求めている。

スルガ銀行は返済が難しくなったオーナーに対して返済を事実上猶予したうえで、オーナーへのアンケートを行うなど社内調査を進めている。スルガ銀行は取材に対し「現在、社外の弁護士などと実態調査を進めている。時期は未定だが、調査結果がまとまり次第、公表したい」としている。

■金融庁の森長官はスルガ銀を高く評価していた

被害者の会によると、スマートデイズの「かぼちゃの馬車」では、土地や物件の価格が上乗せされていたため、満室になっても毎月の返済資金をまかなえない事例もあったという。情報の非対称性を利用して、消費者をカモにする手口はゆるされない。また融資審査に問題があったとすれば、銀行の社会的責任も問われる事態となる。

金融庁の森信親長官は、現在異例の在任3年目に入っている。持論は地銀の再編だ。このため講演などでは「大きくなることが唯一の解決策ではない」として、スルガ銀行の名前をあげ、そのビジネスモデルを高く評価してきた。地銀が独自のビジネスモデルを築くことは重要だ。だが、その実例が「消費者をカモにする不正融資」だとすれば、銀行に対する信頼を毀損することになる。監督官庁の対応に注目が集まっている。

(プレジデントオンライン編集部)