Facebookは、Watch向けの動画に対してますます厳しい条件を求めてきており、Facebookが完全購入する番組にもこれが適用されていると、ある情報筋は語る。これによって、パブリッシャーがFacebookで得られる利益が制限される可能性もあるという。

Facebookは2018年に向けて、Facebookが完全所有できる大規模予算の動画番組を購入することにますます力を入れようとしていると、複数のFacebookのWatchパートナーは語る。
パートナーによると、「スポットライト」番組と呼ばれる短いシリーズ動画の購入などの、Facebookによる投資の第一の波があった一方で、プラットフォーム上ではスポットライトの名のつく動画やフォーマットを排除し、より大規模な予算で作られる長編番組にフォーカスする計画があるという。Watchのあるパートナーが語ったところによると、Facebookは自身が購入・所有する番組を「ヒーロー」番組と分類し、また動画制作メーカーが独自に制作してWatchにアップロードした動画を「エコシステム」番組と分類しているという。

「現在、我々は今後の多くの番組の扱いについて交渉している最中だが、Facebookは契約条項を変更しつつあると言ってきている。基本的には、これまでにスポットライト契約として知られているものはなくなる予定だ」と、このWatchパートナーは語る。

情報筋によると、Facebookは、ヒーロー番組は15分以上の尺であることを求めてきている。Facebookはこれらのプロジェクトに対して予算の提供を惜しまないという。もちろん予算の金額はさまざまだが、1エピソードあたり6桁(およそ1000万円単位)に及ぶこともあると、複数のWatchパートナーは語る。それでもFacebookは、これまで以上にこうした番組を所有したがっているという。これはつまり、エンターテイメントスタジオが制作したテレビ番組でプロデューサーが得られる利益は、全体の利益の10〜15%程度のマージンだけになってしまうことを意味している、と情報筋は言う。

Facebookは、この件へのコメント依頼には応じてくれなかった。

知的財産権の問題



「作り手からすると、得られる利益は少なく、あらゆる部分で締めつけが厳しい。昔ながらのメディア制作会社がこのモデルを採用するのは難しいだろう」と、別のWatchパートナーは語る。「それでも、これは新しい収益の流れを生み出すことにもつながる。必ずしも広告ベースではないし、現時点では需要も高い」。

デジタルのプラットフォームやリニアTV向けの番組を制作しているデジタルメディア会社にとって、知的財産権を所有する重要性が増している。番組の所有権をパブリッシャーが留保する場合、のちにほかの配給会社へその番組を再販売したりパッケージングし直すことで、さらなる収入を得ることが可能となる。また、その番組が大きな成功を納めた場合には、関連グッズを作ることもできる。

コンテンツのすべての所有権を持とうとしている配信元はFacebookだけではない。たとえばNetflix(ネットフリックス)は、より顕著にこうした動きをみせている。だがFacebookは当初、特に短いスポットライト番組で、最初の2週間をFacebook上での限定配信とすることを条件に、パブリッシャーに番組の著作権の保有を認めていた。最近の契約では、Facebookが要求する限定配信の期間は以前よりも長くなっている。

費用対効果の問題



Facebookは2018年に向けて、バックエンド側で得られた利益を分配する意向だ。番組の利益が制作コストを上回った場合には、プロデューサーにとって追加報酬になると、あるWatchパートナーは語る。だが、これが大きな意義のある収入源となるかどうかは未知数だ。ほとんどのバックエンド契約は、プロデューサーに全体の利益の1〜2%が分配されるというもので、バプリッシャーが大きな見返りを得るためには、初期の制作コストを上回る多額の利益を得なければならないことを意味している。

Facebookのミッドロール広告のアドブレイクプログラムは、いまだパブリッシャーパートナーのあいだで有効に機能していない。FacebookにはWatch内でプレロール広告をテストする計画があり、2018年には、Facebookとパブリッシャーの双方にとって、Watch関連の収入が増える可能性がある。だが、ほとんどの視聴者がWatchの番組をいまだにニュースフィード内で見つけており、ニュースフィード内の動画にはプレロール広告が出てくることはないため、これが成功するかどうかの確証はない。

要するに、Facebookの契約条件変更は、パブリッシャーがWatch番組から収益を得るには制作マージンに頼るしかなくなるであろうということを意味している。

「これは結局、費用対効果の問題に尽きる」と、そのWatchパートナーは語る。

「私が番組を制作する場合にまず最初に確認しておきたいのは、時間をかけて作ったものの知的財産権を持てるかどうかと、のちにそれを使ってマネタイズできるかどうかだ。その時点で高い金額を提示してきた相手に売るだけでは、利ざや以外に何も残らない」。

マーケティング面



こうした制約があったとしても、番組を制作するパブリッシャーには利益を得る手段がそのひとつしかない、ということにさえなければ、Facebookのような巨大な配信プラットフォームを相手にする制作会社であることには価値があると主張する者もいると、パブリッシャーの情報筋は語る。

「(番組制作は)規模の大きい多方面のメディアビジネスに携わる会社にとっては良いことだ」と、デジタルスタジオのルースター・ティース(Rooster Teeth)で番組ディレクターを務めるエバン・ブレッグマン氏は語る。「我々は決して、知的財産権を販売するだけの会社になるつもりはない。それはあくまで、主に手がけていることのひとつだ」。

加えて、多くの視聴者にリーチできるポテンシャルのある番組をプラットフォーム上に持つことは、マーケティング面での価値もある。

「誰もが、『ゴー90(Go90)』のような利用者の少ないFacebook以外のプラットフォームと契約を交わすよりは、少しだけ取引条件が悪くてもFacebookと契約したがっている」と、別のWatchパートナーは語る。「だが、そこには制約もある」。

ビジネス上のリスク



Watchでのマネタイズには改善の兆しがある。アドエイジ(Ad Age)の最近の報告によると、Facebookはパブリッシャーに対して、Watch向けの番組内でのアドインベントリの販売を許可することを検討しているという。これはパブリッシャーがFacebookに対して強く要求してきたことだ。

だが、仮にFacebookがパブリッシャーにそれを許可したところで、制作した番組から即座に利益を得られるという確証はない。動画への方針転換は難しくなっているが、エンターテイメントへの方針転換に向けて先行投資を行うためには、さらに強い忍耐力と意志が必要だと、アバブ・アベレージ(Above Average)のCEO、マーク・ハスベット氏は語る。

「携わるのはサービス関連のビジネスなのか、それともエンタメ関連なのか、はっきりさせる必要がある」と、ハスベット氏。「両方やるのももちろんいいが、エンタメ関連のフランチャイズ構築に関して言えば、それはヒットビジネスだ。良い働きをするいくつかの番組以外は、本当にヒドいありさまとなるだろう。これこそがこのビジネスに携わるうえでのリスクであり、いろいろなビジネスモデルのポートフォリオが必要な理由だ」。

Sahil Patel(原文 / 訳:Conyac)