なぜか北朝鮮国民から「洗濯物」のあだ名で呼ばれ始めた金正恩氏
「朝鮮労働党委員長であらせられ、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長であらせられ、朝鮮人民軍最高司令官であらせられる、わが党、国家、軍隊の最高領導者、金正恩同志におかれましては…」
北朝鮮メディアでは、金正恩党委員長を呼ぶ際に、まるで寿限無のように肩書を羅列する。一方で、庶民は「幼稚園児」「デブ」「ブタ」など、さすがに言いすぎではないかと思えるほどの呼び方をしている。5月以降、そのような傾向がさらにひどくなったというのだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音)
両江道(リャンガンド)の情報筋によると、北朝鮮の人々は正恩氏に対して抱いていた淡い期待が裏切られたことで、激しい不満を持つようになった。
「最初は経験不足だからしょうがない、労働党創建70周年(2015年10月)と朝鮮労働党第7回大会(2016年5月)までは我慢しよう、今年の太陽節(4月15日)が過ぎればよくなるだろうと思っていたが、完全に期待はずれだった。しかも政治的行事が終わってもなお、住民の勤労動員が続いている」(情報筋)
そうして正恩氏に付けられた新たなあだ名が「ソダビ」、方言で「洗濯物」という意味の言葉だ。
「公式の場所でない限り、誰が金正恩氏を『将軍様』などと呼ぶものか。友だちの間では『ソダビ』で通じる」(情報筋)
なぜ洗濯物なのかは不明だが、おそらく「汚物」という意味が込められているのだろう。
慈江道(チャガンド)の情報筋によると、正恩氏に対して露骨に不満を示す人が増えたのは5月初め頃からだ。それも過去に比べ、いっそう大胆になっている。
「かつては非常に親しい友だち同士ではなければできなかった金正恩批判だが、最近では7〜8人集まった場でも悪口が普通に飛び出すようになった」(情報筋)
国や指導者を批判する行為は、収容所送りにされる可能性があるほどの重罪だ。たとえプライベートな席でも、迂闊なことを言えば、国家保衛省(秘密警察)のスパイや協力者に密告される。よほど親しい相手でなければ、政権批判はできなかった。
しかし、状況は変わりつつある。若者たちは、舌禍事件が起きれば、友人の中から密告者を徹底的に洗い出し、激しい報復を加えるようになったのだ。物理的な暴力は振るわれないとしても、仲間はずれにされれば、コネ社会の北朝鮮では生きていけなくなる。このようにして、密告システムを無力化するのだ。
このような不満の渦は、庶民層から生まれることが多いが、今回は中間クラスの幹部や、トンジュ(金主、新興富裕層)から始まったと情報筋は指摘する。どうやら、彼らの間ですら、5月初めごろから食事を抜いたり、コメがなくてトウモロコシを食べたりする家庭が増えているようなのだ。
例年なら、6月に麦の収穫が始まり、食糧事情が好転することで不満は収まるが、国際社会の制裁が一段と強化された現状の下、そうなるかは不透明だ。