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不正に改造したiPhoneを売ったとして、富山市の20代男性が9月29日、商標法違反の疑いで千葉県警に逮捕された。

報道によると、男性が売っていたのは、OSを改造することで、出荷時に制限された操作を可能にした「脱獄iPhone」と呼ばれているものだ。インターネットのオークションサイトなどで6台を販売した疑いが持たれている。

脱獄iPhoneをめぐって、商標法違反で摘発されたのは全国初だと報じられているが、ネット上では「脱獄って逮捕なのか」「なぜ商標法違反なのか」といった声が多数あがっている。なぜ商標法違反での逮捕となったのか。商標にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。

●「商標」の機能とは?

「今回の摘発は、商標権侵害に対する裁判所の考え方に基づくかぎり、特異な事例ではないというのが私の感想です。

今回の事件を理解するにあたっては、商標が果たす役割を理解しておく必要があります。

まず、商標は、多くの人が感覚的に理解しているとおり、『誰が提供している商品か』あるいは『誰が提供しているサービスか』を特定する機能、つまり商品・サービスの出所を表示する機能(出所表示機能)をもっています。

たとえば、アップル社の『りんご』のマークが付された商品を目にすれば、それがアップル社によって販売されているものであると判断することができます。

また、商標には、商品やサービスの出所を表示する機能だけでなく、品質を保証する機能(品質保証機能)も備わっています。

たとえば、アップル社の『りんご』のマークが付されていれば、改めて検証するまでもなく、多くの人が期待する品質を備えた商品であると判断することができます。

そして、商標権を侵害するということは、出所表示機能や品質保証機能といった商標が有している機能を害することをいいます。逆にいえば、商標の出所表示機能や品質保証機能を害する行為を商標権侵害ということができるのです」

●適法に購入して、そのまま転売すれば「商標権侵害」にならない

「今回の問題を理解するにあたって、もう一つ理解しておかなければならないことがあります。商標が付された商品を適法に購入し、そのまま転売したとしても商標権侵害にならないということです。

これは、『ファースト・セール・ドクトリン』と呼ばれている考え方です。

商標権者は、商品を販売する際に、商標権者から商品を購入した以降の人が、商標を使用する対価を合わせて取得しておくことができるため、商標権者から商品を購入した人がさらに転売したとしても、転得者に対して商標権を行使することができないというものです。

この考え方も、多くの人が経験上理解しているところでしょう。ただ、おそらく、この考え方を今回の問題にもあてはめて考えてしまうため、違和感を覚えることになるのです」

●改造を加えて、再販すれば「商標権侵害」になる

「以上のように、商標には、品質保証機能が備わっており、商標の品質保証機能を害した場合、商標権侵害になることは先に説明したとおりです。

そして、『ファースト・セール・ドクトリン』が適用できるのも、商標権者から商品が転々売買される際に、商標の品質保証機能が害されていないということ前提になっています。つまり、商標権者から取得した状態で商品が転々売買されることが前提となっているのです。

一方で、商標権者から取得した商品に改造するなど、手を加えてしまうことで、商品の品質が変更されてしまい、商標の品質保証機能も害されているということになります。

この結果、商標権者から適法に取得した商品であっても、改造を加えて転売すると商標権侵害と評価されることになるのです。

商標が付された商品に改造を加えて、再販する行為が商標権侵害になるという考え方は、裁判所においても比較的古くから採用されています。改造に限られず、消耗部品の取換え、商品の小分けなどについても、裁判所においては商標権侵害と考えられています。

また、故意に商標権を侵害する行為は刑事罰の対象となり、今回のように商標が付された商品に改造を加えて販売すると、故意に商標権を侵害したと評価されます。

以上から、今回の摘発は、特異な事例ではないと考えます」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授
多くの知的財産侵害事件に携わり、知的財産間に関する著書・論文等の発表、知的財産に対する理解を広める活動にも従事。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。
事務所名:スター綜合法律事務所
事務所URL:http://www.star-law.jp/