EntamePlex

写真拡大 (全8枚)

リストラ、無差別殺傷、一家崩壊……絵に描いたような日本的家庭がじりじりと崩壊していくさまを丁寧に描写した映画『葛城事件』が、公開中だ。こう聞くと凄惨なストーリーのようだが、そこはかつて映画『その夜の侍』で高い評価を受けた赤堀雅秋氏が監督・脚本を受け持つだけあって、シリアスな中にもコミカルさがあり、主演・三浦友和が演じる父親の滑稽な姿に、観客は苦笑いせずにはいられないだろう。人間の生きざまは、ドラマチックなだけじゃない。壮絶な事件の裏側で垣間見える人間の本質ともいえる無様さや狂気までをあぶり出している。



そんな本作で葛城家の長男役を務める個性派俳優・新井浩文と、無差別殺傷事件を起こす次男役で、新進気鋭の俳優・若葉竜也の2人にインタビューし、この映画の魅力を語ってもらった。しかし取材が進むにつれ、なぜか“赤堀監督イジリ”に発展していき……。

――映画の撮影期間はどれくらいでしたか?

若葉竜也(以下、若葉)「全体が1カ月半ぐらいだと思います。撮影最後の日は、僕と田中麗奈さんのふたりでした」

新井浩文(以下、新井)「うちも撮影期間は同じくらいかな。映画『その夜の侍』のときは赤堀さん泣いていたけど、今回も泣いたかどうか確認できなかったのが残念ですね。絶対、泣いていたと思いますけど(笑)」



――共演者の三浦友和さんや南果歩さんも「精神的にきついものがあった」との感想をもらしています。現場の雰囲気はどのようなものだったのでしょうか?

若葉「僕は毎日緊張していました。だけど、徐々になじんでいく感じで。全体的に殺伐とした空気ではなかったですね」

新井「精神的なきつさはまったくなかったですね、しんどいとも思わなかったですし。むしろ、うちから見ればコメディの印象が強いんですよ」

――無差別殺傷事件や家族崩壊など、凄惨なテーマが満載ですが……。

新井「かつてうちはこの映画の舞台版にも出演していますが、赤堀さんの(脚)本はどうしても笑いのツボに入っちゃうんですよね。三浦さんが演じるお父さんは、怖いんだけれど情けなくて、だらしないけれど憎めないキャラです。赤堀さんはそういう人物を描くのが抜群にうまいんですよね。現場でも吹き出すのをこらえていましたし、試写では爆笑していました」

――若葉さんはオーデョションからの参加とのことですが。

若葉「もともと赤堀さんの作品はいろいろと見ていて、マネージャーからこの話を聞いたとき、これは絶対取りたい! とすぐに新井くんにも相談したんです。そしたら『あ、誰も決まらなかったらうちやるよ』って平然と言ってきて(笑)。くっそー! 意地でも奪ってやるって感じでしたね」

新井「監督にもそう伝えていたんですよ。オーデョションでいい人がいれば任せるし、いなければうちがやるって。でも、うちも含めて満場一致で『これは若葉くんでしょ』って感じでしたね」

若葉「うれしい……(笑)」

新井「役者って自分のイメージを壊す役に出会えるかどうかがすごく大事だと思うんです。でも、映画って大規模でメジャーになるほど、“安パイ”な役者を選びがちですよね。その点、今劇は若葉くんが演じることで、面白さが出ているんじゃないでしょうか」



――若葉さんには、赤堀監督からかなり激しい演技指導があったと聞きました。

若葉「『それは稔(次男)の生理じゃないよね。若葉くんの生理だよね』とか『まだ、先に頭で考えている』とか。何が正解か分からなくなっていって……」

新井「たぶんね、赤堀さんもわかってないと思う(笑)。イメージをガチガチに固める人じゃないんで、現場でその都度加えていく感じですよ」

若葉「そうですね。拘置所のシーンでオーケーが出たのと前のテイクが全然違いすぎていたりして……」

新井「ね(笑)」

――なんだか監督イジリみたいなインタビューになってきましたが……。新井さんに演技指導は?

新井「昔、亡くなった原田芳雄さんに『遊び相手の監督を見つけるのは人生で5人いればいいほうだ』と言われましたが、赤堀さんという人はまさに一生の遊び相手のひとりです。だから阿吽の呼吸で、向こうが何を求めているかすぐに分かるんです。演技指導は必要ありませんでした。でも、四六時中そんなに深く考えていませんよ、あの人(笑)」



――なんだか、どんどん赤堀監督のイメージが……。

新井「さっきも別室で難しそうな顔でインタビューに答えていましたけどね、何も考えてないですよ“監督風”を装ってますけど(笑)」

――でも、それなのにこんな脚本を書けるのはすごいですね。

新井「いえ。だからこそ書けるんですよ。うちらの日常ってドラマとは違うじゃないですか。シリアスな中に滑稽さもある。赤堀さんって、そういう空気感を出すのがものすごくうまいんです。セリフを噛んでもそれが自然であればオーケーを出しますし」



――なるほど。それでは、キャストについてお伺いします。それにしても、父親を演じた三浦友和さんはすごい迫力でしたね。

新井「でもうちは笑っちゃうんです。三浦さんはもちろん笑わそうと思って演じていないので、なおさら赤堀さんの狙いが浮き彫りになって、人生の愚かさが浮かび上がるというか」

――無差別殺人を犯す次男の稔ですが、新井さんは舞台で、若葉さんは映画でそれぞれ演じています。彼についてどう思いますか?

新井「稔のモデルはそれぞれ違って、舞台では(附属池田小事件の)宅間守なんです。でも映画の場合は……」

若葉「いくつかの事件をミックスしているとのことでした」

新井「うちも演じる上で彼のことを調べましたが、それをモデルにした稔についてどう思うか、と聞かれたら正直言って共感はできませんよ。彼は小学生を大量殺人したことを尋ねられたとき『幼稚園ならもう少し殺せた』って言ったんです。彼だけじゃないです。犯罪者を演じるとき、何の共感性もありません」

若葉「確かに稔に完全に共感できるかと言われれば疑問ですが、たとえば家族に『何を食べたい?』って聞かれて何とか答えようとする気持ちとかはすごくわかります」



――お互いの「ここがすごい!」と感じた部分はありますか?

新井「声がいいと思いました。若葉くんはインスタでたまに歌の投稿しているんですよ。理由を聞いたら『わりと評判がいいから』って……」

若葉「何の話ですか(笑)」

新井「いや、たまらないんでしょうね。若葉ファンからすると。それはさて置き、余計なことをしませんよね、若葉くんは。カンもいいし。だからこっちも気持ちよく芝居ができる。すごいですよ」

若葉「僕はまだ小さい頃から映画『青い春』なんかで、“俳優・新井浩文”を見てきたので、すごく怖い人だってイメージが強かったです。でも、初めてお会いしたときに敬語で話しかけられて……、そのギャップに驚きました。そうでありながら、芝居でのあの存在感は決して真似できないものがありますよね。『葛城事件』も見ていてすごかったですね。それを目の前で感じることができてうれしかったです」

――しかし、あれだけの重いテーマにメンタルを引っ張られずにいるのはすごいです。

新井「うーん……あのですね、そもそもメンタルを引っ張られる俳優ってダメじゃないかなって。役に入り込む、なんて話もありますけどね、アプローチとしてはいいですけど、じゃあ殺人犯を演じるときには実際に人を殺さないといけないですからね、そういう人は。死ぬ役では死ななきゃいけない」

――確かにそうですね。

新井「でもうちらはモラルを守って、ここから先は進んじゃいけないって線引きをしなきゃいけない。そりゃ、言いかたとしてはカッコイイですよ。『役がなかなか抜けなくって……』なんて」

――新井さんは“憑依”したことはないと?

新井「ないですね。うちは演じてお金をもらってメシを食ってるわけです。極論ですが、その線引きができないとプロとして失格だと思いますよ。若葉くんなんか精神安定剤飲んで……」

若葉「飲んでないですよ(笑)。でも、打ち上げのときに顔つきが晴れやかになったね、とは言われましたけど」

新井「それはあるよね。プレッシャーとかから解放されてお酒も飲みたくなる。若葉くんは酒グセが悪いから飲まないけど」

若葉「またそういう……(笑)」



映画『葛城事件』は、新宿バルト9他にて全国公開中!

配給:ファントム・フィルム

©2016『葛城事件』製作委員会