世界一のチンピラ声優・高木渉の億泰が登場「ジョジョの奇妙な冒険」
今回はこんなお話
アンジェロのスタンド能力は、謎の「弓と矢」によって後天的に与えられたものだった。それが宿敵DIOと関係あると知った承太郎と仗助は、町を守るために弓と矢のゆくえを追う。それから数日後、仗助と一緒に帰宅していた康一は、仗助の家の前にある空き家に人影を見て、とんでもないことに巻き込まれる…。
虹村億泰の声は『真田丸』の小山田茂誠
杜王町の空は黄色かった。それも原作通りッ! 『週刊少年ジャンプ』での巻頭カラーの際の色まで再現している第四部のアニメ化は、第一部からブレることなく「誰よりもジョジョが好き」という黄金の精神で貫かれている。
そしてニコニコ動画の配信で「(虹村)億泰の声が原作通りだ!」と弾幕が乱れ飛んだ第三話……ノックしてもしもお〜し、なんで音のない漫画で“声”が原作に忠実だっての?
そんな野暮なツッコミは、ジョジョファンは誰もやらない。少なくともアニメファンであれば、虹村億泰の声は声優・高木渉さんの声で本当に聞こえていたからだ。
虹村億泰は敵としてデビューするが、「全力でブチのめされたらマブダチ」のポルナレフの法則によって仲間になるレギュラーの一人。性格は直情径行、単純かつヤンキー。世界一のチンピラ(を演じるのがうまい)声優・高木渉さんを置いてほかにはいない! 一応ほめてます。
本職は声優で『機動新世紀ガンダムX』の主役に抜擢されたこともある、元ガンダムパイロット。最近だと『名探偵コナン』の元太と高木刑事の一人二役が有名で、数々のアニメや『シャークネード3』ほか洋画の仕事も多い。
『真田丸』出演のきっかけは、三谷幸喜さんの人形劇『新三銃士』でポルトス役にまで遡る。数年後も人形劇『シャーロック・ホームズ』でワトソン役を演じたところ、そのプロデューサーだった吉川邦夫さんと三谷さんから声がかかって…といういきさつ。純粋に「演技力」が決め手だったのだ。
世界一のチンピラ声優・高木渉の安定した億泰クォリティ
OVA、CM、ゲームなど映像化=声がつく機会が多いジョジョシリーズは、同じキャラでも作品ごとに声優が変わったりする。その中で不動の億泰ポジションを守る高木渉さんの、安定した億泰クォリティ。2012年10月からの第一期シリーズで流れたジョジョ展(荒木飛呂彦原画展)CMでも、億泰がハマりすぎ!と大評判だった。
その翌年のPS3用ゲーム『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』でも東方仗助役の羽多野渉さん(これも素晴らしくハマってた)とのコンビで続投。うん、掛け合いのデモは良かったよ、声は完璧ですよね(ゲーム本編から目をそらし)。
今回の第四部アニメでは、ついに億泰の長丁場の芝居が見られる喜び。ちょっと惜しいのは、高木さんの持ち味の一つであるアドリブが、「原作通り」を最上位とするジョジョアニメでは控え目、ないし入る余地がないかもしれないこと。
コナンの刑事役だって最初は名前がなかったキャラが、高木さんのアドリブで「高木」と命名され、それが原作漫画にも逆輸入。ニコニコ界隈では広く知られてると思うが、『ビーストウォーズ』シリーズでの子安武人さんや千葉繁さん、山口勝平さんとのアドリブ合戦も凄まじかった。イボンコペッタンコ!というやつ。
エイジャの赤石ばりに死守すべき「原作通り」も分かる。でも、高木さんのディ・モールト ベネ!なアドリブも聞きたい。おそらくトニオ(原作ファンは分かるはず)の回に期待じゃないかな。
ザ・ハンドの恐ろしさと仗助の頭脳プレー
前回が法で裁けない極悪人アンジェロを料理する下ごしらえで、今回がグレートに埋め込んでおくアンジェロ岩の完成編。いかにしてムショでスタンド能力を身につけたかという昔語りでは、「となりの房の野郎がエロ本のえぐいピンナップを隠し持って?」の下りがカット。IQ160ありながらゲスいことしか考えないアンジェロのいい話だったんですが、尺の都合か。
でも、学生服の男が現れて弓矢を向けられたときの「キンタマがちぢみあがるってやつさッ!」はイキ。そっちはアリなんだ! 学生服の男の髪型が“本人”(後で出ます)に準拠して修正されてるのがアニメ版ならでは。
原作にて康一くんが杜王町のデータを語ったモノローグは、「図書館で調べもの」という体になった。そんなに几帳面にノートを取る子だったら、「成績が悪くて」というあの話はどうなるんでしょう。それにしてもデータ本の「杜王町白書」……ほ、ほしい。
光一くんが怪しんでのぞき込んだ元・空き家は、タイトルにもなっているスタンド使い・虹村兄弟の住む家だ。仗助の家の前でご近所さんという設定は、原作ファンでも忘れやすい。というか忘れてました。
康一くんの首を挟むように門を閉めた足は、待望の虹村億泰ッ!!! 原作で登場した当時はメチャ悪そうなチンピラ顔で、後ろの髪ももっとピンピン跳ねてたんだが、後期の陽気なチンピラ顔に調整されている。いずれにせよチンピラ感が揺るぎない億泰。
そのスタンドはザ・ハンド。空間ごと削り取る右手を持つ恐るべき能力だが、使い手がボンクラ。兄貴に「能力と根性のないウスラボケはどんなモンスターマシンに乗っても〜」と戦いの最中に説教される子は、昔も今も億泰だけ。
ザ・ハンドの「モンスターマシン」たる力はフルに描かれ、「ギャオン!」という書き文字とともに効果音も絶品だ。「立入禁止」の“入”が削られて「立禁止」となるシーンは、もう一枚の「立入禁止」看板が配されて分かりやすくなっている。
「どこに行こうがてめーは常に、俺の射程距離にいる」というセリフは原作にないオリジナルだが、億泰のキャラにハマってる。空間を削り取る!引き寄せて殴るずっと億泰のターン。ハンドで削らず自分の拳で殴るのが億泰の優しさか、それともバカなのか。
そうしたオリジナル要素が、しっかり原作の補完になっている構成の見事さ。仗助は殴られながら「射程距離」を測っていたから、意識してポジションを取り、植木鉢を引き寄せさせて億泰をノックアウトできた。原作ではあっけなかった決着が「億泰の見せ場」と「仗助の頭脳プレー」に繋がっている。
矢で射られて虫の息の康一くんがさらわれ、仗助はついに億泰の兄・虹村形兆と対峙。原作を読めば結末はわかりきってるのに、こんなに来週が待ち遠しいアニメは稀な存在だろう。HBの鉛筆をべキっ!とへし折るようにッ見られて当然!とは思えない幸せなのだ。
(多根清史)