クズ漫画家とドS編集者のリアル出版業界漫画『ラブコメのバカ』
『重版出来』や『バクマン。』など、映像化作品も多い出版業界漫画。そんな中、編集に“クズ”と呼ばれるダメ漫画家を主人公にしたのが現在「ARIA」(講談社)で連載中の『ラブコメのバカ』だ。
作中には実在の人物をモデルにしたキャラが多数登場。ドS編集者に説教される漫画家や部数決定における編集と担当販売の攻防など出版業界のリアルを描く。同時に目を引くのが作者自身の失敗を元にしたクズエピソードの数々だ。漫画家の櫻井しゅしゅしゅさん、担当編集のHさん、Sさんに話をうかがった。
――主人公の佐倉すずは漫画家としての才能はあるけれど、常識外れなことばかりやらかします。24時間遅刻というのも実際の出来事だそうですが、24時間何をしていたのですか?
櫻井しゅしゅしゅ(以下:櫻井) 「行くぞ行くぞ行くぞー」って気合を込めていました。準備をしつつ「行かなきゃ、うん、行くよ」って。まぁその間寝てたりするのですが。
担当編集H(以下:担当H) 何度電話をしても櫻井さんがお出にならないので「どうせ寝てるかサボってんだろう」と思いながら普通に仕事をしていました。いつものことなので。その間にシャレで「櫻井さんが行方不明です。ご存知の方はご一報ください」と「ARIA」の公式アカウントからツイートしたりして(笑)。夜になってもこなかったのでサクッと帰りました。
担当編集S(以下:担当S) その時僕は担当ではなかったので「大変だな〜櫻井さんの担当って(笑)」とか言ってヘラヘラしていました。でもHさんと一緒にやっていた人が産休に入っちゃってまさかの担当に…。
――作中ですずはいつも締め切りを破っていますが、これも本当なのですか?
担当H そうですね。櫻井さんには「ARIA」が創刊した5年前から描いていただいていますが、ほぼ毎回破っています。他社の編集さんから「あの櫻井さんから毎月どうやって原稿あげてもらっているんですか!?」と聞かれるくらい元々悪名高い方で。そう聞いてくる方が1人や2人じゃないんですよ、櫻井さん?
櫻井 マジですか〜。
担当S ほっとくと他社さんの締め切りをトバそうとするのでそれを含めたスケジュールを組むハメになります。チーフアシスタントさんも一緒になってがっちりかためています(笑)。
――なぜいつも締め切りギリギリなのでしょう? ネームや作画が遅いんですか?
櫻井 サボるからですね!
担当H・S 堂々と何を言ってるんだ…。
櫻井 講談社さんに泊まっていても土日は編集さんがいないので気が緩んじゃって。3ヶ月くらい居続けた時は講談社さんから東京ドームにライブを観に行ったりしていました。音羽から近いじゃないですか、ドーム。疲れたらタクシーでちょっくらラクーアへ。安いクリーニング屋さんを見つけた時は「大発見だ! 無限にここに住める!」と思いました。
担当S 缶詰を満喫しているのが信じられません。しかもラクーア行ったの締め切り直前だったし。
櫻井 電話がガンガンかかってきていたのですが、もうお金を払った後だったので出てからかけ直したら「今すぐ帰ってこい」と怒られました。すずの担当編集である長谷川が口にした「時間は命なんだ」というセリフは、私がHさんに実際に言われたことです。
担当H 締め切りを守らないこともひどいですが、そういう時の言い訳がまたひどい。土日で16枚マストという状況で2コマしか上がっていなくて理由を聞いたら「だってね! シャーペンが紙に引っかかってんスよ! 紙が私を拒否してるから描けないんです! 紙に言ってください!」って。ぶっ飛びすぎていて「はぁ? 意味わかんねー」ってなりましたよね。
櫻井 実際そうだったんですって〜。
担当H それが理由で遅れても誰も納得しないですよ(ニコリ)
担当S スマホゲームにハマった時は「期間限定のイベントがあるんです!」って言ったり。その時は確かスマホを預からせてもらいましたよね〜。締め切りを守ることもありますが、本当に稀です。櫻井さん、ビリだった時のことは忘れて守った時のことしか覚えてないし。
――ビリじゃない時があるんですね。
櫻井 ありますよ! 半年にいっぺんくらい!(笑)
担当H ビリから 2番目だった時は「私ってお尻を合わせる人間なんです」とドヤ顔で言い放って。「全然合ってねえから!!」と呆れました。
担当S 印刷所の人とかにお尻を合わせてもらってるんです!
――櫻井さんは、長年担当されているHさんのことが大好きだとうかがったのですが本当ですか?
櫻井 毎日Hさんのことを考えていますね。
担当H 面と向かって言われたので「気持ち悪いです。今すぐ考えるのをやめてください」とお伝えしました。ついこの前も「担当を替わりたい、本当に」と言ったら腰にすがりつかれて。
櫻井 こんなに好きだと言っているのに「そうは言っても櫻井さんはそんなに好きじゃないですよ。あなたのやっていることは好きな人間にすることじゃありません」と言われたので「そんなことないです! 大好きです!」というやりとりを5・6回繰り返しましたよね。
――Hさんのどんなところがお好きなのですか?
櫻井 仕事に対する姿勢です。ダメなことはダメと理由まで含めてはっきり話してくれるところを尊敬しています。コミックスのキャッチひとつにもこだわって、どうしたら『ラブコメのバカ』が売れるかを考えて闘ってくださっているんですよ。長谷川は私の理想を詰め込んだ架空のキャラではありますが、彼の仕事への考え方はHさんがモデルです。
Hさんだけでなく、もちろんSさんのことも尊敬しています。2巻発売にあわせて書店用のポスターをつくっていただいたのですが、講談社から出ているほぼ全部の漫画雑誌の編集長コメントが載っていて本当に感動しました。同じ会社とはいえ別の部署の長にお願いするなんてとても大変だったと思うんです。『ラブコメのバカ』のために私の知らないところでここまでしてくださるのかと。
担当S 自分が担当していることを抜きにしても、僕は『ラブコメのバカ』が好きなんですよ。
担当H 実はコミック販売部も『ラブコメのバカ』には期待してくれているんです。作家さんの頑張りが「売れる」ということに直結するわけではないし、我々編集も売れるために何ができるのか試行錯誤しています。でも櫻井さんはまっすぐな目で「売れたい」とおっしゃるので我々の迷いも吹き飛びますね。『ラブコメのバカ』では長谷川がすずに裏方の事情を説明していますが、本来なら締め切りを守ってくださる作家さんにはお話ししません。まあ、櫻井さんには話さなければならないと思ったのでお話しましたが。締め切りを破るとどれだけ迷惑をかけ、どれだけの人の頑張りによって読者の方のお手元に届いているのかということをわかってほしかったので。
櫻井 印刷会社さんにも見学に行かせてもらいました。編集さんだけでなく、デザイナーさんやコミック販売部の方、印刷会社の方など、この漫画には実際に私の漫画のために頑張ってくださっている人たちをモデルにしたキャラがたくさん出てきます。自分で描いたものですが、一生懸命に仕事をしているキャラを見ていると感じるものがあるんですよね。ちゃんとしよう。この人たちに見捨てられないよう面白い漫画を描こう、と。この漫画を描いたことでまっとうな人間になれてきたと思っています。
担当H 何言ってんだか…。
担当S 確かに待ち合わせにはくるようになりましたけど、印刷会社さんに行って「締め切り守ります!」って約束した直後の入稿、ビリでしたよね!?
――櫻井さんは普段から編集部でHさんにお説教されているそうですが、お三方は漫画家と編集者の関係をひと言で言うなら何だと思いますか?
担当S 僕と櫻井さんの関係ですと、“同じ目線”でしょうか。それこそ作中の島田とすずの関係みたいに気負いのない関係でいさせてもらっているのはとてもありがたいです。
担当H 「Hさんに怒られますよ〜?」とか言いながら2人でキャッキャしてる。
担当S す、すみません(笑)。出版社も漫画家さんもしたいことがあって、読者の方も読みたいものがある中で、その全員が幸せになれるような作品を漫画家さんとつくっていければいいなと僕は思うんですよ。
担当H 私は作品という子供を挟んでの母親と父親だと思っています。子供の親権っていうのは常に母親である漫画家さんにある。作家さんが男性だろうと女性だろうとそれは変わりません。
櫻井 Hさんはいつもそうおっしゃいますよね。
担当H 編集者はクリエイターである漫画家さんの近くでお仕事させてもらっていますが、クリエイターではないので。子育ては母親に任せて自分は外で金を稼いでくるという版元としてのお仕事をするビジネスライクな人もいますし、子育てにはまったく手をつけない人やその逆もいます。本当に千差万別です。編集者って二酸化マンガンみたいなものかもしれないですね。過酸化水素水に二酸化マンガンを入れると化学反応が起こって酸素が発生するように、実際に変化されるのは常に作家さんですが作家さんに何かしらのきっかけを与えられる存在でいたいと思っています。
櫻井 そう思ってくださっているのはとてもうれしいです。私は一人では何も生み出せないし、一つのものを皆でつくるのが漫画の醍醐味だと思っているので。
編集H 実際一人でも生み出せるという漫画家さんもいらっしゃいますから、櫻井さんがそう思ってくださることは我々にとって幸運なことではあります。
櫻井 私は、漫画家と編集さんの関係は恋愛に近いと感じています。恋愛だと一緒にいることが幸せだったりしますよね。私もHさんやSさんと一緒に作業をしていることがとても幸せです。互いに信じあって同じところを目指して一緒に頑張ってさらに高みを目指せたら最高じゃないですか?
――打ち合わせではどんなやりとりをするのですか?
櫻井 私が「こうなってああなってすずと長谷川がちょっといい感じになって…」とバーっと喋ったことに対して意見をもらう感じですね。
編集H 櫻井さんはすぐ2人をくっつけたがるのでそこはバッサリと「ない」と伝えます。
――Hさんは端々の言い方が本当に長谷川のまんまですね(笑)。
編集H 長谷川がすずのことを好きになると力説されても「こんな漫画家と恋に落ちるとかありえねえから!!!」と言い返します。それでも櫻井さんは全然めげない。すべての漫画家さんと編集者が我々のように「それボツ!」と言い合っているかというとそうではないと思います。櫻井さんが全裸でぶつかってくる人なので我々としても素直に意見を言えるというのはありますね。ある意味櫻井さんがどうかしてるから…いえ、度量がすごく大きいからですね。
櫻井 よく言うと。
編集H うん、よく言うと。悪く言うとこの人はクソ鈍感なんです。
櫻井 鈍感力には自信がありますからね!
担当S 僕はそんな2人のやりとりが大好きなので、ニヤニヤしながら横で見ています(笑)。
――『ラブコメのバカ』の今後の見所は、どうやってすずが長谷川を落とすか、ですね。
櫻井 長谷川は完璧に近いイケメンなので、そんな人に好きになってもらえる要素がすずにないといけません。そのためにはすずの成長が不可欠で読者の方にはそこを期待して欲しいですね! でも、すずの成長には私の成長も必要だったりして…。
編集H 長谷川に好きになってもらえるよう、櫻井さんが現実世界で頑張るっていうね。
櫻井 そうですね(笑)。今、私はこんな感じでとても楽しくこの漫画を描かせてもらっています。ただそれだけでは内輪向けの話になってしまうので、読んでいただいた方の心に引っかかるものを描いていけたらと思っています。『ラブコメのバカ』は恋愛だけでなくお仕事漫画としての顔もあります。「わかる」という共感でも「ありえない」という負の感情でも構いません。何か感じてもらえたら幸せです。そして、描いている人間はこんなやつですが、成長できるよう頑張るので見捨てないでいただければ…! これだけ関係各所の方々にご迷惑をかけているのに楽しいとかまだ成長過程とか言葉もないのですが(笑)。
――では、その迷惑をかけている方々へひと言。
櫻井 キタ――――――――――!!
編集H それそのまま使ってもらいましょう。
編集S すずみたいに差し入れ持って土下座するとかどうですか?
――写真差し込めますよ。
櫻井・編集H・S ではそれで。
講談社コミックプラスでは実際に被害を受けた関係各所からの声をまとめた特集記事が公開中。『ラブコメのバカ』の試し読みはコチラ。
ちなみに「ARIA」の締め切りは毎月15日だそうです。
『ラブコメのバカ』1巻(コミックス/Kindle)、2巻(コミックス/Kindle)
【ガチ証言集】少女漫画家Sさんって、本当にクズなの?(講談社コミックプラス)
「マガジン」「モーニング」「なかよし」……講談社コミック誌編集長から櫻井しゅしゅしゅへラブコール殺到中!?
(松澤夏織)
作中には実在の人物をモデルにしたキャラが多数登場。ドS編集者に説教される漫画家や部数決定における編集と担当販売の攻防など出版業界のリアルを描く。同時に目を引くのが作者自身の失敗を元にしたクズエピソードの数々だ。漫画家の櫻井しゅしゅしゅさん、担当編集のHさん、Sさんに話をうかがった。
悪名高き漫画家
――主人公の佐倉すずは漫画家としての才能はあるけれど、常識外れなことばかりやらかします。24時間遅刻というのも実際の出来事だそうですが、24時間何をしていたのですか?
櫻井しゅしゅしゅ(以下:櫻井) 「行くぞ行くぞ行くぞー」って気合を込めていました。準備をしつつ「行かなきゃ、うん、行くよ」って。まぁその間寝てたりするのですが。
担当編集H(以下:担当H) 何度電話をしても櫻井さんがお出にならないので「どうせ寝てるかサボってんだろう」と思いながら普通に仕事をしていました。いつものことなので。その間にシャレで「櫻井さんが行方不明です。ご存知の方はご一報ください」と「ARIA」の公式アカウントからツイートしたりして(笑)。夜になってもこなかったのでサクッと帰りました。
担当編集S(以下:担当S) その時僕は担当ではなかったので「大変だな〜櫻井さんの担当って(笑)」とか言ってヘラヘラしていました。でもHさんと一緒にやっていた人が産休に入っちゃってまさかの担当に…。
――作中ですずはいつも締め切りを破っていますが、これも本当なのですか?
担当H そうですね。櫻井さんには「ARIA」が創刊した5年前から描いていただいていますが、ほぼ毎回破っています。他社の編集さんから「あの櫻井さんから毎月どうやって原稿あげてもらっているんですか!?」と聞かれるくらい元々悪名高い方で。そう聞いてくる方が1人や2人じゃないんですよ、櫻井さん?
櫻井 マジですか〜。
担当S ほっとくと他社さんの締め切りをトバそうとするのでそれを含めたスケジュールを組むハメになります。チーフアシスタントさんも一緒になってがっちりかためています(笑)。
――なぜいつも締め切りギリギリなのでしょう? ネームや作画が遅いんですか?
櫻井 サボるからですね!
担当H・S 堂々と何を言ってるんだ…。
櫻井 講談社さんに泊まっていても土日は編集さんがいないので気が緩んじゃって。3ヶ月くらい居続けた時は講談社さんから東京ドームにライブを観に行ったりしていました。音羽から近いじゃないですか、ドーム。疲れたらタクシーでちょっくらラクーアへ。安いクリーニング屋さんを見つけた時は「大発見だ! 無限にここに住める!」と思いました。
担当S 缶詰を満喫しているのが信じられません。しかもラクーア行ったの締め切り直前だったし。
櫻井 電話がガンガンかかってきていたのですが、もうお金を払った後だったので出てからかけ直したら「今すぐ帰ってこい」と怒られました。すずの担当編集である長谷川が口にした「時間は命なんだ」というセリフは、私がHさんに実際に言われたことです。
担当H 締め切りを守らないこともひどいですが、そういう時の言い訳がまたひどい。土日で16枚マストという状況で2コマしか上がっていなくて理由を聞いたら「だってね! シャーペンが紙に引っかかってんスよ! 紙が私を拒否してるから描けないんです! 紙に言ってください!」って。ぶっ飛びすぎていて「はぁ? 意味わかんねー」ってなりましたよね。
櫻井 実際そうだったんですって〜。
担当H それが理由で遅れても誰も納得しないですよ(ニコリ)
担当S スマホゲームにハマった時は「期間限定のイベントがあるんです!」って言ったり。その時は確かスマホを預からせてもらいましたよね〜。締め切りを守ることもありますが、本当に稀です。櫻井さん、ビリだった時のことは忘れて守った時のことしか覚えてないし。
――ビリじゃない時があるんですね。
櫻井 ありますよ! 半年にいっぺんくらい!(笑)
担当H ビリから 2番目だった時は「私ってお尻を合わせる人間なんです」とドヤ顔で言い放って。「全然合ってねえから!!」と呆れました。
担当S 印刷所の人とかにお尻を合わせてもらってるんです!
まっとうな人間になってきました
――櫻井さんは、長年担当されているHさんのことが大好きだとうかがったのですが本当ですか?
櫻井 毎日Hさんのことを考えていますね。
担当H 面と向かって言われたので「気持ち悪いです。今すぐ考えるのをやめてください」とお伝えしました。ついこの前も「担当を替わりたい、本当に」と言ったら腰にすがりつかれて。
櫻井 こんなに好きだと言っているのに「そうは言っても櫻井さんはそんなに好きじゃないですよ。あなたのやっていることは好きな人間にすることじゃありません」と言われたので「そんなことないです! 大好きです!」というやりとりを5・6回繰り返しましたよね。
――Hさんのどんなところがお好きなのですか?
櫻井 仕事に対する姿勢です。ダメなことはダメと理由まで含めてはっきり話してくれるところを尊敬しています。コミックスのキャッチひとつにもこだわって、どうしたら『ラブコメのバカ』が売れるかを考えて闘ってくださっているんですよ。長谷川は私の理想を詰め込んだ架空のキャラではありますが、彼の仕事への考え方はHさんがモデルです。
Hさんだけでなく、もちろんSさんのことも尊敬しています。2巻発売にあわせて書店用のポスターをつくっていただいたのですが、講談社から出ているほぼ全部の漫画雑誌の編集長コメントが載っていて本当に感動しました。同じ会社とはいえ別の部署の長にお願いするなんてとても大変だったと思うんです。『ラブコメのバカ』のために私の知らないところでここまでしてくださるのかと。
担当S 自分が担当していることを抜きにしても、僕は『ラブコメのバカ』が好きなんですよ。
担当H 実はコミック販売部も『ラブコメのバカ』には期待してくれているんです。作家さんの頑張りが「売れる」ということに直結するわけではないし、我々編集も売れるために何ができるのか試行錯誤しています。でも櫻井さんはまっすぐな目で「売れたい」とおっしゃるので我々の迷いも吹き飛びますね。『ラブコメのバカ』では長谷川がすずに裏方の事情を説明していますが、本来なら締め切りを守ってくださる作家さんにはお話ししません。まあ、櫻井さんには話さなければならないと思ったのでお話しましたが。締め切りを破るとどれだけ迷惑をかけ、どれだけの人の頑張りによって読者の方のお手元に届いているのかということをわかってほしかったので。
櫻井 印刷会社さんにも見学に行かせてもらいました。編集さんだけでなく、デザイナーさんやコミック販売部の方、印刷会社の方など、この漫画には実際に私の漫画のために頑張ってくださっている人たちをモデルにしたキャラがたくさん出てきます。自分で描いたものですが、一生懸命に仕事をしているキャラを見ていると感じるものがあるんですよね。ちゃんとしよう。この人たちに見捨てられないよう面白い漫画を描こう、と。この漫画を描いたことでまっとうな人間になれてきたと思っています。
担当H 何言ってんだか…。
担当S 確かに待ち合わせにはくるようになりましたけど、印刷会社さんに行って「締め切り守ります!」って約束した直後の入稿、ビリでしたよね!?
漫画家と編集者の関係性は?
――櫻井さんは普段から編集部でHさんにお説教されているそうですが、お三方は漫画家と編集者の関係をひと言で言うなら何だと思いますか?
担当S 僕と櫻井さんの関係ですと、“同じ目線”でしょうか。それこそ作中の島田とすずの関係みたいに気負いのない関係でいさせてもらっているのはとてもありがたいです。
担当H 「Hさんに怒られますよ〜?」とか言いながら2人でキャッキャしてる。
担当S す、すみません(笑)。出版社も漫画家さんもしたいことがあって、読者の方も読みたいものがある中で、その全員が幸せになれるような作品を漫画家さんとつくっていければいいなと僕は思うんですよ。
担当H 私は作品という子供を挟んでの母親と父親だと思っています。子供の親権っていうのは常に母親である漫画家さんにある。作家さんが男性だろうと女性だろうとそれは変わりません。
櫻井 Hさんはいつもそうおっしゃいますよね。
担当H 編集者はクリエイターである漫画家さんの近くでお仕事させてもらっていますが、クリエイターではないので。子育ては母親に任せて自分は外で金を稼いでくるという版元としてのお仕事をするビジネスライクな人もいますし、子育てにはまったく手をつけない人やその逆もいます。本当に千差万別です。編集者って二酸化マンガンみたいなものかもしれないですね。過酸化水素水に二酸化マンガンを入れると化学反応が起こって酸素が発生するように、実際に変化されるのは常に作家さんですが作家さんに何かしらのきっかけを与えられる存在でいたいと思っています。
櫻井 そう思ってくださっているのはとてもうれしいです。私は一人では何も生み出せないし、一つのものを皆でつくるのが漫画の醍醐味だと思っているので。
編集H 実際一人でも生み出せるという漫画家さんもいらっしゃいますから、櫻井さんがそう思ってくださることは我々にとって幸運なことではあります。
櫻井 私は、漫画家と編集さんの関係は恋愛に近いと感じています。恋愛だと一緒にいることが幸せだったりしますよね。私もHさんやSさんと一緒に作業をしていることがとても幸せです。互いに信じあって同じところを目指して一緒に頑張ってさらに高みを目指せたら最高じゃないですか?
――打ち合わせではどんなやりとりをするのですか?
櫻井 私が「こうなってああなってすずと長谷川がちょっといい感じになって…」とバーっと喋ったことに対して意見をもらう感じですね。
編集H 櫻井さんはすぐ2人をくっつけたがるのでそこはバッサリと「ない」と伝えます。
――Hさんは端々の言い方が本当に長谷川のまんまですね(笑)。
編集H 長谷川がすずのことを好きになると力説されても「こんな漫画家と恋に落ちるとかありえねえから!!!」と言い返します。それでも櫻井さんは全然めげない。すべての漫画家さんと編集者が我々のように「それボツ!」と言い合っているかというとそうではないと思います。櫻井さんが全裸でぶつかってくる人なので我々としても素直に意見を言えるというのはありますね。ある意味櫻井さんがどうかしてるから…いえ、度量がすごく大きいからですね。
櫻井 よく言うと。
編集H うん、よく言うと。悪く言うとこの人はクソ鈍感なんです。
櫻井 鈍感力には自信がありますからね!
担当S 僕はそんな2人のやりとりが大好きなので、ニヤニヤしながら横で見ています(笑)。
――『ラブコメのバカ』の今後の見所は、どうやってすずが長谷川を落とすか、ですね。
櫻井 長谷川は完璧に近いイケメンなので、そんな人に好きになってもらえる要素がすずにないといけません。そのためにはすずの成長が不可欠で読者の方にはそこを期待して欲しいですね! でも、すずの成長には私の成長も必要だったりして…。
編集H 長谷川に好きになってもらえるよう、櫻井さんが現実世界で頑張るっていうね。
櫻井 そうですね(笑)。今、私はこんな感じでとても楽しくこの漫画を描かせてもらっています。ただそれだけでは内輪向けの話になってしまうので、読んでいただいた方の心に引っかかるものを描いていけたらと思っています。『ラブコメのバカ』は恋愛だけでなくお仕事漫画としての顔もあります。「わかる」という共感でも「ありえない」という負の感情でも構いません。何か感じてもらえたら幸せです。そして、描いている人間はこんなやつですが、成長できるよう頑張るので見捨てないでいただければ…! これだけ関係各所の方々にご迷惑をかけているのに楽しいとかまだ成長過程とか言葉もないのですが(笑)。
――では、その迷惑をかけている方々へひと言。
櫻井 キタ――――――――――!!
編集H それそのまま使ってもらいましょう。
編集S すずみたいに差し入れ持って土下座するとかどうですか?
――写真差し込めますよ。
櫻井・編集H・S ではそれで。
講談社コミックプラスでは実際に被害を受けた関係各所からの声をまとめた特集記事が公開中。『ラブコメのバカ』の試し読みはコチラ。
ちなみに「ARIA」の締め切りは毎月15日だそうです。
『ラブコメのバカ』1巻(コミックス/Kindle)、2巻(コミックス/Kindle)
【ガチ証言集】少女漫画家Sさんって、本当にクズなの?(講談社コミックプラス)
「マガジン」「モーニング」「なかよし」……講談社コミック誌編集長から櫻井しゅしゅしゅへラブコール殺到中!?
(松澤夏織)