憲法を改正した首相を暗殺、美少女ロボの妊娠手塚治虫は実はヤバい

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『紙の砦』『時計仕掛けのりんご』『罪と罰』『リボンの騎士1』が月間Kindleセールで99円だ。
大傑作そろいなので順次紹介していこう。


『時計仕掛けのりんご』は、ダークでエロくてヤバい手塚治虫の短篇集だ。
『プレイコミック』『週刊ポスト』『漫画サンデー』『ヤングコミック』に掲載された8編が収録されている。

実は、以前にも99円セールになっていて「再び!」なのである。
「いま、ぜひ、これを読んでほしい!」という手塚治虫プロダクションからのメッセージではないかと妄想する。
それぐらい、今のニッポンを予言したかのような内容なのだ。

たとえば、問題作「悪魔の開幕」。
“丹波首相は 自衛隊をはっきり軍隊といいきり……国民のすべての反対をおしきって憲法を改正してしまった”
安倍晋三首相が自衛隊を「我が軍」と言い官房長官もそれを肯定するニュースを想起せざるをえない。
“映画もテレビも新聞までも検閲され手紙も開封される”というディストピア的な未来が舞台も、高市総務相が「テレビが政治的に公平性を欠いた発言をすれば、電波停止もありうる」という発言をした今や絵空事ではない。
描かれるのは首相の暗殺だ。
都立劇場でバレエ鑑賞するシャンデリアを使った首相暗殺の派手な演出、捻りの効いた展開。
作品が発表されたのが1973年だとは思えないビビットな傑作である。

「イエロー・ダスト」の主人公はベトナム帰還兵だ。
那覇市からの小学校バスが襲われ、学園児が人質なってしまう。
立て籠もったのは、“むかし日本軍がひとり残らず自殺したってえ地下壕”だ。
一回で子供をひとり助けてやると迫り、女教師を抱く。
しかも、彼は、こどもを返してやると見せかけて、後ろから撃ち殺すのだ。
このあたりの手塚描写、容赦ない。
米軍が地下壕に突入するのだが、帰還兵、子供たち、女教師の運命は……。

「聖女懐妊」は、暴力と復讐、愛と社会の物語だ。
「化粧したのか? ほんとうに化粧下のか? 信じられん……!!」
女性形アンドロイドロボットのマリアが化粧し、それに驚く男。
星の基地で、ふたりで暮らして七年目だ。
「おれと結婚してくれ」
「そんなことは不可能ですわ」
「なぜ無理だ? ロボットと人間の結婚がなぜ悪い?」
そして結婚式である。ここまでで3ページ。あれよあれよと展開していくテンポが気持ちいい。
愛しあうふたり、特殊刑務所から脱走してきた男たち、暴力、復讐。
神々しいラストシーンまでイッキだ。

『人工知能は人間を超えるか』『人工知能は私たちを滅ぼすのか』『機械との競争』『ロボットの脅威』『ポスト・ヒューマン誕生─コンピュータが人類の知性を超えるとき』『ザ・セカンド・マシン・エイジ』『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』などなど。「人工知能やロボットの進化が、人類の脅威となるのか恩恵になるのか」が、リアリティを持って考えられる時代になった今こそ読むべき短編。

他の短編も強く感情を揺さぶる。
自衛隊のテロ事件を描いた表題作「時計仕掛けのりんご」。
五分後に銃殺される男の奇妙な独白からはじまり皮肉なオチへと突き進む短編「処刑は3時におわった」。
一億円強奪犯とタクシー運転手、タクシーの中だけでサスペンスが展開する「バイパスの夜」。
医療奇譚であり恋愛ストーリーでもある「嚢」。
美女エイリアンがお色気で人間達に復讐する「帰還者」。

月間Kindleセール99円『紙の砦』『時計仕掛けのりんご』『罪と罰』『リボンの騎士1』オススメです。(米光一成

『紙の砦』の紹介記事はこちら→黒人差別だ俗悪だ低俗だ…手塚治虫は世間の声とどう戦ったか