北海道日本ハムファイターズ 大谷 翔平投手 vol.1「目標に向かって真剣に」
もはやその活躍に説明は不要だ。花巻東高校からプロの世界に入って3年目。 “二刀流”を続ける姿から「実現不可能」というイメージは消え去った。その凛々しく、疲れを感じさせないプレーに、投手と野手の両方を楽しんでいるようにすら見える。しかしふと冷静に考えれば、過去誰もなしえなかった前人未踏の道を日々歩んでいるのだ。そんなスーパースター・大谷 翔平選手に、野球から私生活までを聞いた。その答えを総合すると、見えてきたのはある一つのベクトルだった。
大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)
「僕は電話とか嫌いなんです(笑)」なんとも“らしい”話だった。1994年7月生まれのまだ21歳の若者が、どうして理路整然とした思考法を既に身につけていて、プロ野球の第一線で活躍できているのか。しかも投手としても野手としても、だ。そのどれもこれもが不思議だった。だからストレートに質問してみたときの答えである。
「思考法に関しては、他の人の考え方が分からないので一概に比較はできません。ただ、僕自身のことだけで言えば、無駄なことが嫌いなんです。例えば、お風呂に入っている時も本を読んだり、できるなら2つ同時進行でやりたい。効率は常に求めてきたことです。だから電話とか嫌いなんです。何かしながら電話はできないじゃないですか」
何か一つのことに没頭するほど集中し、一途に努力を重ねてことを成し遂げる。プロ野球選手に限らず、どの分野にしても何かを成し遂げた、一流に登り詰めた方にお話を聞いた際、ほぼ共通するストーリーである。それが成功の法則のようなものだと、密かに思っていたりもした。大谷選手も同様ではあろう、が、他の方とは違う側面も少なくない。どこか違う雰囲気を感じさせるエピソードだった。
高校卒業と同時にプロ野球の世界に入り、投手、野手の両方で1年目から活躍してきた。2年目には投手として10勝、野手として10本塁打を記録、そして3年目2015年は投手として最多勝、最優秀防御率、最高勝率の3冠を達成。高卒で“二刀流”を維持するだけでも常識外なのにこの結果。その出色の活躍ぶりはもはや言い尽くせない。なぜ大谷 翔平選手だけはそれができるのか。この大きな疑問を納得させる理由の一端が見えた気がした。
[page_break:目標を設定する真の効果とは]目標を設定する真の効果とは大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)
日本のプロ野球に進路を決めてから今まで、周囲からはずっと評価を受け続けているように見える。前人未踏の選手像なのだから、それはそれで当然だが、本人はいたって謙虚だ。「終わったシーズンのことは特に…。ただ開幕投手を務めた開幕戦でもCSでも、まだ“勝ってほしい”という期待の方が多かったのかなと。今後のことは、もちろん自分自身にかかってくるんですけど、新たな舞台の経験を積み上げることで安心して送り出してもらえる選手にならなければいけないな、と思っています」
プロ野球選手にとって、「タイトル獲得」というのはひとつの「達成」ととらえられるものだ。そのタイトルを3つも獲得した今シーズンだったが…。「いい数字を残すことも、タイトルを獲ることも、できるに越したことはないですし、評価されるべきポイントではあるのですごくうれしいです。でも、それだけのためにやっているわけではないので。ひとつでもできない技術があればできるようにして、少しでも上手くなりたい。
その目標の延長線上に例えば勝ち星があり、タイトルがあるということで、タイトル自体がゴールではありません。だから僕としては、タイトルはそんなにこだわるところではないかな、と」
今回聞きたかったのが「目標」の立て方についてだった。花巻東高時代、名将・佐々木 洋監督のもと「日本一」「高校生最速の163キロを投げる」といった大目標を掲げたのは有名な話だ。目標の立て方には2通りある。ひとつは将来的な大目標を立て、その目標に近づくために逆算して日々の取り組みを見出していく方法。もうひとつは日々の目標を立て、その先の結果を追い求めていく方法。大谷 翔平選手の場合はどちらなのか。ここまでの話だと、前者のようにも思えたが…。
「どちらでも間違いではないですし、両方できれば一番いいと思います。大きな目標を掲げて中間目標、短期目標を立てるのもいい。できる目標を立ててひとつずつクリアしていくのも一手です。自分の場合は、特に明言はしていませんが大目標は持っていて、そこに向けてステップアップしていこうとしています。また、逆にシンプルに『今日できなかったことを明日できるようになる』という単位の目標も持ってやっています」
この柔軟性も、二刀流を実現させている秘訣の一つに思えてくる。目標の“立て方”は問わない。目標を持つことにまず“きっかけ”があり、さらに目標へ向かって具体的に取り込むことこそが“大事”なのだと言う。
「高校の頃からそうでした。160キロを投げたい、甲子園に行きたい、優勝したい、という目標を持ってトレーニングの一個一個のメニューに取り組む。同時にひとつひとつのスキルを身に着けるためにどうすべきかを考えながらやる。漠然と上手くなりたい、甲子園で優勝したいと練習するより、これをどう野球に結びつけるのか、どうやったら上手くなるのか、これができれば甲子園に一歩近づくことになるのかと考えながらやるのでは、同じことをやっていても全然違います。しかも、ただ目標を立てればいいかというとそういうことでもありませんよね。いかに目標に向かって真剣にできるかが大事で。その点を間違えている人は、すごく多いと思います」
[page_break:ボールを自分に合わせるイメージ]ボールを自分に合わせるイメージ大谷 翔平投手(北海道日本ハムファイターズ)わずか5、6年前は、プロ野球選手に憧れを抱く一人の青年だった。それが今や、全国の野球少年から高校球児まで、あらゆる世代の憧れの的になった。誰もが大谷選手のようになれればなりたい。ただその全てを聞こうとするには、あまりにも質問が多くなりすぎるし漠然としすぎる。そこで「どうやったら速いボールを投げられるようになるんですか?」という質問をしてみた。その答えに、また一種独特な方法論が見えた。
「単純に球速を伸ばすだけですか?アプローチの仕方は個々によって違うと思っているので“これさえやれば”ということはないですね。投げ方しかり、体格しかり、個々に合ったものであると思うので。速い球を投げようと思えば、それだけケガのリスクも高まりますし、なおさら高校生ではまだ体ができていないので。無理に投げる必要はないのかなと思いますけど」
と、リスク面を最初に強調した後、である。「それでも速い球は憧れる部分であることはわかります。となると、正しい自分の投げ方を身に着けることが大切かなと」
この取材前、練習を拝見させてもらった際にそのキャッチボールの丁寧さが印象深かった。一球一球、時間をかけて投げ方を確認するようにボールを放る。ここにヒントがある、と個人的に感じていたが――実際は違った。
大谷投手インタビューVol.2 (1月2日公開)は、速球を投げる上でこだわりにしていること。さらには、プロ選手に必要な身だしなみの意識についても伺いました。
(インタビュー・文/伊藤 亮)
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