なんか物足りないのはなぜだ「新・牡丹と薔薇」8話

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「新・牡丹と薔薇」(東海テレビ、フジテレビ 毎週 月〜金 ひる1時25分〜)12月9日(水)放送。第8話「衝撃のファーストキス」より
脚本:中島丈博 演出:西本淳一


ちょいと古めかしい台詞


「世の中には私たちの知らない不思議な世界があるのよ」
生活感のある勤労青年・多摩留(戸塚純貴)と出会って、こんなふうに思う美輪子(逢沢りな)。
だじゃれ連発(今日はなかったけど)する、あなたのほうが不思議ですよと言ってあげたい美輪子は、いたって素直に、おもしろキャラ多摩留を気に入り、さっさと呼び捨て、ドレスアップしてイギリス大使館へ出かけ、最初のデートでキスまでしてしまう。しかも好きっていうわけでもなくノリでしただけ。
それを聞いたぼたん(黛英里佳)は激しくうろたえ、やけになって婚約者候補の瀬尾綱輝(片岡信和)と正式につきあおうとする。
美輪子に対するぼたんの過剰な思い入れは、牡丹と薔薇と百合と言った感じ。
この美人姉妹の浮世離れっぷりを、ちょいと古めかしい台詞が彩っている。
8話だけでもこんなに羅列できる。
「【歯がゆい】のよ、とても」
「【こんこんと】言い聞かせておかなきゃねえ」(世奈子/田中美奈子)
「【一足飛び】にデートだなんて」
「【幻惑】されてるんでしょうけど」
「要するに【勤労青年】ってことでしょう」
「いやね、へんに感情が濃密で、起伏が激しくて」
「お母さんの眼差しって、ちょっと距離をおきながら、【そこはかとなく哀愁を帯びていて】」
「なんて【不謹慎】な」
「その【舌の根も乾かないうちに】」
「【蝶よ花よ】と」(ぼたん←ぼたんの台詞の古めかしさ率高い!)

「私は【まっぴら】です」
「【密告】はルール違反よ」(美輪子)

「【国際色豊かな大人の社交場】」(崑一/岡田浩暉)

旧作のほうが引き込まれる


こんなふうに、ひとつひとつの言葉は面白い。
でも、物語として、なんだか物足りない。
なぜなんだろう。

同じ8話でも、多くの視聴者を熱狂の渦に放り込んだ旧「牡丹と薔薇」の8話は、「新・牡丹と薔薇」第1話にゲストで出てきた川上麻衣子が、病院から生まれたばかりの赤ちゃんを誘拐してしまうエピソードが描かれていた。
全60話の旧作と、41話予定の新作では、時間の流れは違ってくるだろうが、
圧倒的に旧作のほうが引き込まれる。
新作の物足りなさは、なんだろう。
「新・牡丹と薔薇」の登場人物には、罪を犯す川上麻衣子の切実さのようなものがないのだ。
あるのは、今のところ、愛でもない恋程度と欲の熱に浮かされたおバカな人しか出てこない。だから、そんなことまでしちゃうのか! という驚きがない。

とんでもなさが面白いと言っても、こういうのじゃないんだよな、もっと追いつめられた人が見たいのに。雷とか歌とかスピード展開とかダジャレとかおもしろキャラとか、そういう外的要素じゃなくて、人間のどうしようもない衝動を描いてこその昼ドラではないのか。“世の中にある私たちの知らない不思議な世界”ってそれじゃないのか。
これは、中島先生の現代に対する絶望なのかもしれないと思ったりもしながら、
それとも、まだこれからですか、と期待する。
ただ、41話(予定)しかないんだから新作のほうが急ぐ必要があるはずですよね。
(木俣冬)