『IPPONグランプリ』オフィシャルホームページより

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【ラリー遠田のお笑いジャーナル】

 先日放送された、芸人同士が大喜利でバトルする『IPPONグランプリ』(フジテレビ)。松本人志が大会チェアマンを務め、12回目を迎えた今回の優勝者は有吉弘行だった。有吉の優勝はこれで二度目。第1回から最新回までの優勝者を順番に並べると以下の通りになる。

バカリズム設楽統バカリズム小木博明バカリズム堀内健千原ジュニア秋山竜次堀内健有吉弘行秋山竜次有吉弘行

 こうして並べてみると気付くのは、大会初期に3回優勝しているバカリズムが、最近は優勝していないということだ。ほぼ毎回出場はしているのだが、他の芸人との競り合いに負けて、惜しくも優勝を逃しているケースが多い。今大会でも、最終決戦まで進み、あと一歩というところまで迫りながらも、最後の最後に有吉に優勝をさらわれてしまった。

 バカリズムほど大喜利がうまい芸人はいない、というのはお笑いファンなら誰もが認めるところだろう。どんなお題に対しても、的確で面白い解答を次々に繰り出してくる。正確無比で発想の切れ味も鋭い彼の実力は圧倒的だ。それなのになぜ、彼は最近の大会で優勝できていないのか。そこには何か理由があるのだろうか。

 その答えとして考えられるのは、『IPPONグランプリ』というものの持つ二面性だ。この番組は大喜利ナンバーワンを決める大会であると同時に、1つのバラエティ番組である。一般的な大喜利の実力だけが求められているわけではないのだ。

 大喜利には原理原則がある。お題が与えられたら、そのお題に沿った答えを返すというのが基本的なルールだ。バカリズムは、比較的このルールを忠実に守るタイプの芸人だと言える。だが、人々が笑うのは、必ずしも原則通りの形だけとは限らない。あえて原則を外した解答をしたり、フレーズや言い方の面白さだけで攻めてみたりする。それをどこまで認めるべきかということについてはさまざまな考え方があるが、『IPPONグランプリ』では割と何でもありという方針が採用されているように見える。なぜなら、この大会は、万人が楽しむためのバラエティ番組でもあるからだ。楽しければOK、面白ければOK、という方針になるのは当然のことだ。

 その結果、有吉弘行、堀内健、秋山竜次、小木博明といった、他のバラエティ番組などで本人のキャラクターが知れ渡っている人たちは、そのキャラクターを大喜利にも生かすことができる。この人がこういう答えを出すから面白い、という形の攻め方ができるのだ。『IPPONグランプリ』では、いわゆる原理原則に従ったオーソドックスな大喜利とは違う次元で戦いが行われている。

本質から大きくかけ離れた『IPPONグランプリ』の大喜利

 そして、大会が進むにつれて、芸人側も見る側も、そういったキャラクターありきの大喜利の面白さを知ってしまった。だから、その手法がすっかり広まってしまったいま、基本に忠実なタイプの大喜利職人であるバカリズムが、他を圧倒して勝ち切ることができなくなってきているのだ。

 2013年4月28日放送の『ボクらの時代』という番組では、いとうせいこう、バカリズム、小林賢太郎が出演。そこでも小林がこんなことを語っていた。

「『IPPONグランプリ』出ないんですか? って言われることあるんだけれども。僕、大喜利大好きだし。ただし、あそこに出てる人たちは大喜利もやってるし、テレビに出るっていう職業もやってるじゃないですか。それは別のプロフェッショナルがいるっていうことで、観客の人には分かりづらかったりするんですよね。でも、僕らにしてみればそれは違う職業である。だからそこは僕は敬意を表して、テレビの前でただ楽しんでいる」

 大喜利の形は1つではない。『IPPONグランプリ』で行われているのは、テレビで活躍する芸人たちが、自分たちのキャラクターを全面的に生かして臨む、特殊な形の大喜利なのだ。

ラリー遠田

東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある