日体荏原高等学校(東京)

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 昨年、学校創立110周年を迎えた日体荏原高等学校。日本体育大学の系列校ということで、部活動はとても盛んだ。プロゴルファーの丸山 茂樹氏など数多くのプロゴルファーを輩出している他、体操のお兄さんこと佐藤 弘道氏も同校のOBである。

 野球部もまた、1965年(荏原高校)、1969年の選抜大会、1976年の選手権に出場するなど東京を代表する伝統校だ。甲子園からはしばらく遠ざかっているものの、今年は、頼れるキャプテンを中心に勝ちあがりが期待されている。

今年は投手陣と守備が軸のチーム

 今年は前チームから主力投手の鈴木 健介が残っていたが、チームの成績は苦しいものになった。秋はブロック予選で東亜学園に1対4で敗戦。そしてこの春は、成立学園との代表決定戦で勝利したものの、迎えた本大会では都立千歳丘に2対3の逆転負け。ノーシードで夏を迎えることとなった。率いる本橋 慶彦監督は、今年のチームについてこう評する。「このチームは、守備と投手陣のチームですね。エースの鈴木 健介は失点を計算できる投手ですし、また他の投手もそれなりに計算できます」

 エースの鈴木は最速141キロを誇る右の本格派。1年から伸びのある直球を武器にする投手であったが、最近は練習試合でストレートを捉えられることが多くなったため、カーブを取り入れ、緩急自在な投球を心掛けている。「元々ストレートで押して、それで抑えられていた投手でしたが、打たれたことで、新たなピッチングを覚えようとしています」(本橋監督)

左から投手陣の中島 将輝、鈴木 健介、柴田 大地、櫛山 快人(日体荏原高等学校)

 また、鈴木だけではなく、今大会は状況に応じて複数の投手を投げさせる予定だ。まず、ケガ明けだが、1年秋からマウンドに登っている柴田 大地(3年)も好調時ならば鈴木以上のストレートを投げる投手で、球速は最速140キロを超える。本番までに、ケガ前の状態までの調子を取り戻すことが課題となっている。また試合が作れる濱田 彪史(2年)、投球フォームのバランスが良く、キレのある直球、変化球を出し入れできる右腕の櫛山 快人(2年)も鈴木に次ぐ投手陣だ。

 本橋監督も、投手4人に対しそれぞれ何をウリにするのかを問い続けている。この日は、実戦練習で鈴木や櫛山が登板したが、本橋監督は、「その場面でその配球は打たれるよ!」「打者はさっきのボールで、完全に弱点を見せているのに、なぜそのコースに投げないんだ?」など配球面について厳しく注文をつけながら、バッテリーと打者との駆け引きを覚えさせている。

 また投手を盛り立てる意味でも、守備力強化が欠かせない。それは本橋監督が就任当初から大事にしていることである。その根本を作っているのはキャッチボールだ。「どこの学校もそうですけど、守備が上手くなりたいならキャッチボールから。送球がダメな選手で、守備が上手い選手はいないと思っています。うちの場合、キャッチボールと呼びません、スローイング練習と呼んでいます」

 キャッチボールだと肩慣らしというイメージになってしまい、実戦的なキャッチボールができないことが理由だ。だが、解釈の違いで、人間は行動そのものも変わってきてしまう。スローイング練習と聞けば、スローイングを磨かなければならない気持ちになる。その様子を見てみると、ボールを地面に置いたところから投げたり、また投げるフォームを意識したりしている。この日は見られなかったが、グラブの芯で捕球するために素手でのキャッチボールをすることもある。すべては、試合のため。実戦を意識した練習で、日々、実力を高めているのだ。

[page_break:課題は「つなぎの打撃」の実践]課題は「つなぎの打撃」の実践

トス打撃を行う選手たち(日体荏原高等学校)

 投手陣のレベルの高さだけではなく、安定した守備力を築ける土壌、方法論も日体荏原にはある。この春も3試合で失点は7点。これも計算の内だ。そうなると夏、勝ち上がるためには、打撃強化が求められてくる。点を取るためのバリエーション、また状況に応じた打撃が、春が終わってからの日体荏原の課題でもあった。

「能力的なものは非常に高い選手が多い。ですが、打線で言えば、線としてつなげることができていない。春季大会でいえば、負けた試合は、相手投手が四球を出さなかった。四球を出さない投手を打ち崩すのは確かに難しいですが、そこからどうかき回していくのか、そういう戦略面の構築が必要だと考えています」

 バットを振れば、高い確率でオーバーフェンスにできる打者は、そう多くはいない。その場合は、いかに相手投手にとって嫌な打撃ができるかが重要となる。取材した日も実戦練習で投手が投げ込む「甘い球」をしっかりと捉えることと、配球を読んで打ち崩すことにこだわっていた。

 今年の日体荏原の打線のキーマンとなるのは、3番を打つ丸岡 銀河(3年)、4番保坂 重頼(3年)、5番で主将の高橋 海人(3年)である。丸岡は、ミートセンスが優れた左打者。本人も、「どのポイントで鋭い打球を打ち返せるのか理解しています」と語るように、常に芯で捉えて鋭い打球が打てている。出塁率も高く、チームメイトも、首脳陣も高く評価している。

 そして4番の保坂は、180センチ81キロと恵まれた体格を誇り、高校通算本塁打も10本を超えている。好調時は、左中間、右中間にも長打が打てるスラッガータイプだ。また中学時代は投手を務めていたこともあり強肩のライトで、まさに攻守の要である。課題は走者を置いてから。「練習の時から走者を置いて、打席に立ち、常に得点圏で打席に立つことをイメージしながら打っています。最初はなかなか打てなかったのですが、徐々に打てるようになってきました」と少しずつ手応えを掴んでいる。

 本橋監督も、「保坂は非常にまじめな選手。打撃を難しく考えすぎて、ここぞという場面でしっかり振れていないこともあるので、失敗することを恐れずに、どんどん自分のスイングをしてほしい」と期待を込める。また、5番に昇格した高橋は、勝負強い打撃ができて、さらに右打ちができる好選手だ。この3人を中心に機能できるか。

 主将の高橋に、つなぎの打撃ができるために大事にしていることは何かと伺うと、次のような答えが返ってきた。「これは一例ですが、例えば一塁走者が出てランナーがアウトにならない程度に大きくリードを取っていけば、変化球を投げる確率は減っていきますよね。また足が速い走者と分かれば、その確率はさらに減っていきます。僕たちは来たストレートをしっかりと打ち返すなど、駆け引きをしながら、相手のミスを呼び込んだり、それを逃さない攻撃ができればと思います」

 普段の実戦練習の中でも目的意識を持って取り組んでいるからこその答えだろう。

[page_break:熱いスピリッツを持った主将の下、100人が一体となれるか]熱いスピリッツを持った主将の下、100人が一体となれるか

高橋 海人主将(日体荏原高等学校)

 本橋 慶彦監督や主将の高橋 海人も話していた「つなぎの意識」というのは、個々の意識が高くなければなかなか実現できない。また、日体荏原は部員が100人もいる大所帯のチーム。その中で、目的意識を明確にし、チームをまとめるのは難しい。それでも高橋は、部員たちから厚い信頼を寄せられている。

 高橋が主将に就任したのは、春季大会が終わってから。本橋監督は、高橋主将について、「いまどき珍しいしっかりと叱れる主将」と評価している。「高橋は、選手たちにしっかりと叱れる選手なんです。私がグラウンドの中にいたら集合をかけて選手たちに注意するところを、高橋は私に言われずに先に集めて注意ができるので、本当に大きな存在ですよ」

 この日の練習でもミスが続いた場面があった。そこで高橋はプレーを止めて、マウンド上で選手たちを集めて、叱りながら選手たちに注意していた。どうしても同い年となると遠慮がちになってしまうが、きちんと伝えるべきことを伝えられるところが素晴らしい。熱いスピリッツを持った人物である。

 チームメイトは、そんな高橋についてこう語ってくれた。「僕の10倍ぐらい主将にふさわしいやつです。笑顔がいいですし、面白いやつですけど、選手たちをしっかりと叱れる。そういう二面性が良いと思います」

 そんな高橋が主将として大事にしていることは、「自分から動くこと」だと話す。「やっぱり自分が動かないと、周りは動かないので、主将をやって思うのは、どれだけミスをカバーできるかということかなと思いました。ミスは出てしまうんですけど、それを味方がどれだけカバーできるか。野球だけじゃないですか。ミスが出てもカバーをしながら勝てるスポーツは」

 確かにその通りである。投手が打たれれば野手が打ってカバーし、野手が打てなければ投手が持ちこたえる。互いが信頼しあって勝ちを目指すものである。今年は例年に比べ、ややチーム作りが遅れた面があったようだ。だからこそ、高橋のようにまとめられる存在は大きい。

 本橋監督は、「あとは選手たちが高橋にどれだけついていくことができるかだと思います。そうなったとき、すごい力を発揮してくれると期待しています」大所帯のチームで怖いのは一体感と、その活気だ。

 初戦は都立の強豪・都立紅葉川と対戦することが決まり、いきなり厳しい戦いが予想される。「今年は勝ち進みながら強くなっていければ理想です」と本橋監督が語るように、夏の球児たちは、1週間〜2週間で劇的に成長する可能性も秘めている。また、それほど日程が詰まった中で勝ち進んできた勢いというのはなかなか止められない。昨年は、上位進出が果たせなかった先輩たちの分まで大暴れを誓う。

(取材・文=河嶋 宗一)