聖パウロ学園高等学校(東京)

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 この春、ベスト16入りを果たし躍進を遂げた聖パウロ学園。2009年から本格的に野球部がスタートして、6年、着実にレベルアップを遂げてきた。聖パウロ学園の野球部の中身に迫り、この夏の目標を選手たちに語ってもらった。

競争する意識がバットを振らせる

フリー打撃(聖パウロ学園高等学校)

 2009年に就任した勝俣 秀仁監督の指導の下、着々と実力を上げてきた聖パウロ学園。周囲を山と緑に囲まれた東京都八王子市にある私立高校で、野球部には現在53名の部員が在籍しているが、そのほとんどは、中学時代にボーイズやシニアでレギュラーになれなかった選手達だという。

「キャプテンの小倉 寛人は、中学の頃は試合に出られない選手でしたし、春季大会で活躍した菅野 岳史もレギュラーじゃなかった。サードの笠井 優に至ってはベンチにも入っていなかった。そういう選手達の伸びしろをいっぱいまで伸ばしてあげたいんです」と、勝俣監督は話す。

 そんな選手達の実力を上げる為に必要な、大前提となるものが「野球が上手くなりたいという気持ち」だ。「野球への向上心があれば、どんな選手でも上手くなる。レギュラーじゃなかった選手は野球に飢えているので、毎日、腹いっぱいになるまで野球をしてもらう。そういう環境を与えれば、みんな前のめりで練習してくれるんですよ。よく『えっ、あの選手があんなに上手くなったの?』って言われる事があるのですが、その言葉を聞いた時は監督冥利に尽きますね」

 選手のやる気を刺激し、結果も残せるようになってきた聖パウロ学園。今年の春季都大会ではベスト16に進出し、夏のシードを獲得した。その秘訣となったのはバッティングの強化だった。「冬場はとにかく振ってきました。冬になるとグラウンドには霜が降りて使えなくなってしまうんですけれど、地面が凍っている朝と夜は長靴を履いてバットスイングとティーバッティング。昼はウエイトトレーニングをしていました」

 スイング練習を実りあるものにする為の工夫もこらした。「選手達を競争させるようにしています。簡単な表を作って、スイングした分をどんどん塗りつぶしていくんですが、そうすると周りの選手達との差が分かるので、誰が一番、スイングしたのかを争わせたんですね。このやり方の方が選手は振ってくれて、多い時は朝と夜の個人練習で1日2000回くらいスイングしていましたね」

 その成果は春季大会ですぐに表れた。

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ミーティングの様子(聖パウロ学園高等学校)

 春季大会で聖パウロ学園は1回戦から3回戦まで12点、9点、9点と大量得点。小倉 寛人主将も「得点が取れたので、手応えはあります」と口にし、投手陣の中心である小澤 海翔も「一度、火が付いたら止まらない打線なので心強いです」と信頼を寄せる。

 しかし、4回戦の日大三戦は一筋縄ではいかなかった。9回に6点を奪われるなど1対13で大敗。勝俣 秀仁監督が試合を振り返る。「日大三は別次元でしたね。特にピッチャーが良かった。うなる速球をきちんとアウトコースに3球続けてくる。『勝ち上がっていくと、こういうピッチャーが出てくるんだな』と思いました」

 とはいえ、チームは良い経験を得る事ができた。「確かに負けたんですけれど、全然、駄目だったという感じではなかった。次に戦った時、こうしたらもっと上手くいくんじゃないかというヒントは掴めたと思うんです。選手達も、これまではこういう負け方をすると、へこたれてしまう事が多かったんですが、今年のチームは押し返そうとする選手がいるので心配していません」

 また、勝俣監督は春季大会で結果を出せた理由がもう一つあると感じている。それは2月の終わり、対外試合の解禁を目前にしたある日。監督は下水溝に落ちたままのボールを見つけ、選手達を烈火のごとく叱りつけた。「その時に野球の道具を全部、没収しました。ボールを管理できないのに、野球なんて出来る訳が無いですから」

 練習をしない期間は2週間ほど続いた。「その時の選手達は私の顔色をうかがっているだけで、何がいけなかったのかを理解していなかったんですね。でも、しばらくして、選手達がボール係や救急箱係などの班を作り直して、責任者を決めてきたんです。それで練習を再開したんですが、この出来事を経て選手達は責任感を学んだと思います。野球では責任感が大切です。『バントを失敗したけど、別に仕方ないや』では駄目ですからね」

 選手達の練習に打ち込む姿勢も変わった。小倉主将は「春の大会がどんどん近づいていて、練習をしなきゃっていう焦りが裏目に出てしまいました。それで野球以外のところで問題が起きてしまいましたが、それからは道具を徹底して管理する事はもちろん、グラウンド内はダッシュをするとか、野球の面でも基本から徹底するように変わりました」と話す。確かに、ふとグラウンドに目を向けると、ボールやバット、トンボなどの道具はすべて綺麗に並べて置かれていた。

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ティー打撃の様子(聖パウロ学園高等学校)

 普段の聖パウロ学園は16時半から18時半の2時間ほどしか練習時間を取る事ができない。そこで、練習ではバッティング班やウエイトトレーニング班などに選手を班分けし、効率良く練習できるようにしている。また、より実戦的な練習も心掛けている。「投手が投げ込む時はバッターを立たせ、守備練習では走者を付けてノック。フリーバッティングでは打者が『ノーアウト、ランナー一塁』などとシチュエーション宣言し、バントやバスターや右打ちなどケースバッティングをするようにしています」(勝俣監督)

 そして、6月22日から夏の大会が終わるまで、聖パウロ学園は学校の宿舎で長期合宿に入っているのだが、勝俣 秀仁監督の意図とは……。

「この時期に合宿をするようになったのは昨年からなんですが、ある選手が『この合宿は良いな』って、ボソッと言ったんですね。その選手は緊張するタイプで、大会中は調整練習で早く終わったりするんですけれど、練習をした方が良いのか、休んだ方が良いのか分からなかったんですね。でも、合宿をしていれば、練習をやりたければやれるし、不安な気持ちも分かり合えるから、すごく良いと言うんです。だから、チームワークとか結束力を高めるという点で、合宿には大きな効果があると思います」

 合宿の基本的なスケジュールは、16時半から18時半まで全体練習。夕食休憩を挟み、20時半からは照明を灯して内野の守備練習やバッティング練習をしている。主力打者の一人である菅野 岳史は「練習は22時くらいまでやるんですが、その後は6時50分の起床時間まで自由なので、朝や夜にスイングをしたりしています」と話す。

 朝から夜まで、学校や勉強以外はまさに野球漬けの日々となるのだが、勝俣監督はこういう環境を作りたかったのだという。「こうやって野球に打ち込む時期があるっていうのは、良い経験になると思います。そして、ウチの3年生は大学でも野球を続けたいという選手はほとんどいないんですよ。だから、『この合宿でお前達の野球は終わるんだぞ』って話をしました。そうしたら顔つきがピリッと変わりましたね」

 3年生にとって野球人生、最後の夏を駆け抜ける覚悟はできたようだ。

リベンジと甲子園……、2つの目標は1つに

 夏は炎天下での試合になるが、その対策として勝俣監督は、もう一度、選手の体を作り直している。「冬場に体を作ってきましたが、春季大会が終わって選手の体重が落ちたりしているので、今はたくさん食べて、バットを振ったり、トレーニングをしたりして体を作っています。この冬からは練習中でも食事をとるようにしているのですが、効果が出そうなので今後もずっと継続してやっていこうと思っています」

 そんな勝俣監督の夏の目標は?「これまでベスト8に入った事がないので、それ以上を狙いたいんですが、本音を言うと日大三に勝ちたいですね。やっぱり悔しいんで、日大三にリベンジしたいです」

 選手も気持ちは同じだ。「春季大会はベスト16で日大三に負けたんですけれど、夏は借りを返したいと思っています。一つ一つしっかり勝っていって、初の甲子園を目指したいです」(小倉主将)

「自分達3年生は最後の夏ですし、監督から背番号1を任されたので、一戦一戦をしっかり戦い抜いて、甲子園に行けるように頑張りたいです」(小澤 海翔投手)

 西東京大会の組み合わせを見ると、聖パウロ学園が日大三と対戦する為には決勝戦まで勝ち上がらなければならない。つまり宿敵を倒すという事は、甲子園行きの切符も同時に手に入れるという事になる。2つの目標が1つに重なった聖パウロ学園。いざ、夏の最終決戦へ。

(取材・文=大平 明)