府立大塚高等学校(大阪)【前編】
昨秋、創部初となる府大会ベスト8進出を果たし、21世紀枠候補にも名を連ねた大塚。春季大会においても準々決勝で履正社に敗れたものの二季連続の大阪8強入り。着々と歩を進め、激戦区で存在感を増す新鋭校を訪ねるべく、学校のある大阪府松原市へ足を運んだ。
どんな状況でも最善を尽くせるチーム!室谷 明夫監督の話を聞く選手達(府立大塚高等学校)
6月中旬のある火曜日の放課後。校舎に隣接する大塚高校の練習グラウンドに到着すると、2ヵ所でのバッティング練習が始まっていた。「こんにちは!打撃ゲージの横にイスを用意してありますので、どうぞ!」出迎えてくれたのは就任6年目の室谷 明夫監督だ。
「グラウンドは他の部との共用のため、放課後に打撃練習が行えるのは平日では火曜日だけなんですよ」大塚高校のグラウンドの形状は長方形。その影響で本塁からライトフェンスまでの距離が目測で70メートル程度と極端に短い。加えてライトフェンスの先は民家。「学校で試合を行うことはさすがにできないです…」フリー打撃を行う際は、打席の上方にネットを吊り下げることで角度のついた打球が前に飛んでいかないよう、工夫が施されていた。
3学年合わせた現在の部員数は87名。プラスチックボールやバドミントンの羽を用いてのバッティング練習を、小スペースで行っているグループも目に付く。バント練習や素振りを行っている選手もいれば、強化トレーニングに励んでいる者もいる。練習時間を持て余しているような選手は皆無だ。
「17時になったら一時間ほど、陸上部がトラックを使用することになっているんですよ」よくよく見ると長方形のグラウンドの大部分は陸上用のトラックでもあった。楕円形のラインは野球部のホームベース付近にまでしっかりと及んでいるため、野球部はトラックの内側を使用しての練習に移行。内、外野の連係プレーを主テーマとしたノックが突如始まった。トラックに沿って走っている陸上部員にノックの打球が当たらぬよう、1年生部員の数名がトラックに沿って、外野フェンス役を務めている。
陸上部員が走るトラックの内側で野球部がノックをしている光景は滅多に見ることはない。決して恵まれているとはいえない練習環境で大阪ベスト8という結果を叩きだす大塚。大切なのは、与えられた環境でいかに最善を尽くすか、だということがよく分かる。
[page_break:追求しているのは「しっかり、強く振れる打線」 / ポイントはトレーニング直後の技術練習]追求しているのは「しっかり、強く振れる打線フリー打撃の様子(府立大塚高等学校)
「ディフェンスがいくらよくても、打力がない限り大阪で上位進出を果たすのは難しい。守りをしっかりと固めつつ、打ち勝っていける攻撃力が必要」室谷 明夫監督はきっぱりとした口調でそう言った。
大塚が激戦区大阪で上位進出を果たした大きな要因のひとつが、公立校であることを一切感じさせない、力強さ満載のオフェンス力だ。「追求しているのは『しっかり強く振る』という部分。たとえ凡打に終わっても、しっかり振ることで、相手バッテリーに怖さを植え付けられれば、こちらに有利な流れを作ることが出来る。強く振れないチームはやっぱり怖くないですから」
となれば、強いスイングを生んでいる源がどうしても知りたくなる。室谷監督は、「うちは練習時間もそんなに豊富じゃないし、打撃練習をする時間も限られているので、そんなにバットを振る数自体は多くないんだけど…」と前置きした後、こう続けた。「技術練習をする直前のトレーニングを大事にしています」
その話、もっと具体的に教えてください!「ウエイトトレーニングって技術練習の後に行うケースが多いと思うんですけど、うちでは20分、30分という短めのウエイトトレーニングの時間を技術練習の前に設けるスタイルが基本です。例えば上半身の大きな筋肉をベンチプレスでたっぷりと刺激した後、すぐさま30本の連続ティーを5セットやらせたりします」
ポイントはトレーニング直後の技術練習「ウエイトした後にすぐにバットを振る動作を行うところがミソ」と室谷監督。その理由とは?「ウエイトで培ったパワーを野球の動きにすぐさま変換・記憶させるためです。『今やったウエイトトレーニングはこのスイングを力強くするために行ったんだよ』と、自分の体に言い聞かせながら、体に刷り込んでいくイメージですね。このやり方を3年ほど前に導入してから、打撃力が確実にレベルアップした感覚があります」
以前、あるプロ選手が「ウエイトトレーニングの直後に素振りをし、向上したパワーを野球の動きとして体に記憶させると良い、というアドバイスを金本 知憲さん(元阪神ほか)から頂いた」と話していたことを思い出した。この理論を実行に移していた大塚。
堺原仁輝主将(府立大塚高等学校)
室谷監督は続けた。「大学時代、練習の最後にウエイトトレーニングを行い、翌日になってバットを振ろうとすると体がガチガチで、どうにもぎこちないスイングになってしまうことが悩みだった。そこでトレーニング直後の、筋肉がパンパンの状態ですぐさまバットを振ると、ウエイトトレーニングによって得たパワーを野球の動きにうまく変換できている感覚が芽生えた。指導者になった暁にはぜひこのやり方をとり入れたいと思っていました」
大塚ナインを引っ張る堺原 仁輝主将は次のように証言する。「トレーニング直後にバットを振ることの効果はものすごく感じています。上半身の筋肉を追い込んだ後にロングティーなどをすると上半身が疲れているため、いやがおうでも体が下半身をしっかり使おうとする、という効果も僕自身は感じています。うちの打撃力が向上している大きな要因であることは間違いないですね」
(取材・文=服部 健太郎)
府立でも屈指の打撃力を誇る大塚。夏へ向けてキーマンとなる選手が、意気込みを語っていただきます。お楽しみに!