これはガチ。ディー・エヌ・エー主催のゲーム業界就職説明会レポ
◆就活のアレコレをガラガラポン! 学生と企業と学校の関係を再発明する「HEAT渋谷」レポ
ゲーム業界に就職するには、どうしたら良いんでしょうか?
答えは簡単で、エントリーシートを送って会社説明会に出席して筆記試験を受けて面接を受けて・・・他の業界と同じなんですね。あえて言えば、企業によってポートフォリオ(作品集)やゲームの企画書、デモプログラムなどを送付する必要があるくらい。ゲームはマンガやアニメなどと違い、社員クリエイターによって制作されるからです。
ところが、いわゆる「新卒一括採用」スタイルが社会全体で制度疲労を起こしているのはご承知の通り。ゲーム業界でも一部の大手ゲーム会社に求人が集中する一方で、大多数のゲーム開発会社は社名すら認知されず、応募数が乏しい現状があります。地方の学生にとっては、説明会ごとに上京するだけでも相当な負担です。
そこで、こうした状況を打破すべく、ゲーム会社10社と大学・ゲーム専門学校8校が参加した合同説明会「HEAT渋谷」が5月16日に開催されました。旗振り役はソーシャルゲーム大手のディー・エヌ・エーで、会場も渋谷ヒカリエの本社で実施。当日はゲーム業界志望の学生350人以上が参加し、賑わいを見せていました。
フロアは企業説明会&学生のポートフォリオ講評会エリアと、企業や学校単位に区切られて、詳細な説明や面談などが受けられるエリアに分かれていました。学校ブースでは企業の担当者がポートフォリオをチェックし、気になった学生に直接コンタクトをとる姿もちらほら。企業・学生共に、さまざまな出会いがあったようです。
またイベントの最後には、リズ磯野貴志、ランド・ホー塚本昌信、ヴァンガード杉山智則、アールフォース・エンターテインメント横山裕一が登壇し、ディー・エヌ・エー馬場保仁のモデレートでパネルディスカッション「社長トーク」を実施。歯に衣着せぬ本音トークが炸裂し、学生に対して熱いメッセージが投げかけられました。
パネルの内容さることながら、一番のポイントは各社が「新卒一括採用」ではなく、優秀な人材なら新卒・既卒の区別なく、いつでも採用する「通年採用」を行っていたことでしょう。大手企業は別として、中小のゲーム会社では一般的なのですが、学生にはいわゆる「就活」イメージがあるのか、新鮮に映ったようです。
また希望する人材像についても「主体的で利他的で誠実な人。そのうえで最低限の技術がある人」(杉山)、「会社の理念が共有できてゲームが本当に好きな人」(塚本)、「メンタルが強い人」(磯野)、「お客様の顔をリアルに思い浮かべられる人」(横山)など、技術面よりも人格面や基礎力を重視する声が目立ちました。
これにはゲーム業界に固有の事情もあります。技術の変化が非常に早く、どんな職種でも一生勉強が必要だが、社内教育システムに乏しいこと。ヒット作の有無で会社の業績が極端に変わるため、即戦力よりも「将来のヒット作」を生み出せる人材が求められること。そしてアメリカなどと異なり、社員を簡単にリストラできないこと・・・などです。
つまり会社側からすれば、長く会社に在籍してくれることが前提。その上でフィーチャーフォンからスマホ、そしてPCブラウザゲームと激しく変わるトレンドに柔軟に対応し、自己研鑽や学習に主体的に取り組みつつ、ヒット作を作り出せる人材が必要。そうした人材なら既卒も新卒も関係ない。特に新卒は「可能性重視」というわけです。
いや、でもそんなスーパーマン、滅多にいないんですよ。しかも「可能性」なんて目に見えないもの、どうやって選考するのか。ポートフォリオなどもスキルの一端を垣間みせるにすぎず、たかだか数十分の面接で人柄がわかるわけがない。学生も不透明な選考基準に翻弄され、消耗中。ともに答えを模索中というのが実情です。
一方ゲームエンジンの普及などで、プロとアマチュアの垣根がどんどん崩れていく中、中小ゲーム会社の優秀な人材を登用したいという思いや、将来に対する危機感はますます高まっています。少子化の影響などで、学校側の危機意識も相当なものがあります。そうした、さまざまな思いが絡み合って、今回のイベントに繋がったと言えるでしょう。
神奈川工科大学准教授で、元『ことばのパズル もじぴったん』プロデューサーの中村隆之は「学生は卒業制作で伸びるが、今はその前に就活せざるを得ない。卒業研究をもって就職活動に臨めるのが一番良いが・・・」と語りました。また「企業での面接」というアウェーな環境に、本来の力が出せないまま沈む学生もいるそうです。
実際に学年で随一の学生でも内定が取れず、卒業式で企業に推薦したこともあったとか。その学生は新人らしからぬ無双ぶりを発揮して、入社後3ヶ月目と6ヶ月目で二度も昇級する快挙を実現。企業からたいへん感謝されたといいます。落とした会社に見る目がなかったのか、学生が悪かったのか、就活システムが悪いのか、おそらく全てでしょう。
リズの磯野も「弊社は新人をインターンで育てて社員に採用しており、専門学校生では可能だが、学業優先の大学生では難しい。大学の既卒生にアプローチしたいが、なかなか難しい」と語りました。大学生の既卒って、つまり就活の負け組ですよね。でも、そうした人材を求めている企業も、中にはあるんです。
ポイントは今の「就活」スタイルがベストなものではないと、みんな気づき始めていること。そして企業と学生のニーズが新たな形で充足される可能性があること、です。
そもそも前述の社長連にしても、まともに就職活動をしたのは塚本だけで、磯野はアルバイトあがり、杉山はフリーランスの仲間を集めて起業、横山にいたっては喫茶店でアルバイトしながら就職活動をして、全滅したから起業したという経歴の持ち主。それでもしっかり結果を出している。業界の入り方なんてどうでもいいんですよ。
それが、いつの間にかゲーム業界でも、世間様でいう「就活」が一般的になった。この矛盾を解消し、学生と企業と学校を新たな形で繋ぎ直そう、そんな気概が感じられるイベントだったといえるでしょう。参加した学生が何を持ち帰ったのか。彼らが生み出すであろう、未来のヒット作に期待したいところです。
(小野憲史)
ゲーム業界に就職するには、どうしたら良いんでしょうか?
答えは簡単で、エントリーシートを送って会社説明会に出席して筆記試験を受けて面接を受けて・・・他の業界と同じなんですね。あえて言えば、企業によってポートフォリオ(作品集)やゲームの企画書、デモプログラムなどを送付する必要があるくらい。ゲームはマンガやアニメなどと違い、社員クリエイターによって制作されるからです。
そこで、こうした状況を打破すべく、ゲーム会社10社と大学・ゲーム専門学校8校が参加した合同説明会「HEAT渋谷」が5月16日に開催されました。旗振り役はソーシャルゲーム大手のディー・エヌ・エーで、会場も渋谷ヒカリエの本社で実施。当日はゲーム業界志望の学生350人以上が参加し、賑わいを見せていました。
フロアは企業説明会&学生のポートフォリオ講評会エリアと、企業や学校単位に区切られて、詳細な説明や面談などが受けられるエリアに分かれていました。学校ブースでは企業の担当者がポートフォリオをチェックし、気になった学生に直接コンタクトをとる姿もちらほら。企業・学生共に、さまざまな出会いがあったようです。
またイベントの最後には、リズ磯野貴志、ランド・ホー塚本昌信、ヴァンガード杉山智則、アールフォース・エンターテインメント横山裕一が登壇し、ディー・エヌ・エー馬場保仁のモデレートでパネルディスカッション「社長トーク」を実施。歯に衣着せぬ本音トークが炸裂し、学生に対して熱いメッセージが投げかけられました。
パネルの内容さることながら、一番のポイントは各社が「新卒一括採用」ではなく、優秀な人材なら新卒・既卒の区別なく、いつでも採用する「通年採用」を行っていたことでしょう。大手企業は別として、中小のゲーム会社では一般的なのですが、学生にはいわゆる「就活」イメージがあるのか、新鮮に映ったようです。
また希望する人材像についても「主体的で利他的で誠実な人。そのうえで最低限の技術がある人」(杉山)、「会社の理念が共有できてゲームが本当に好きな人」(塚本)、「メンタルが強い人」(磯野)、「お客様の顔をリアルに思い浮かべられる人」(横山)など、技術面よりも人格面や基礎力を重視する声が目立ちました。
これにはゲーム業界に固有の事情もあります。技術の変化が非常に早く、どんな職種でも一生勉強が必要だが、社内教育システムに乏しいこと。ヒット作の有無で会社の業績が極端に変わるため、即戦力よりも「将来のヒット作」を生み出せる人材が求められること。そしてアメリカなどと異なり、社員を簡単にリストラできないこと・・・などです。
つまり会社側からすれば、長く会社に在籍してくれることが前提。その上でフィーチャーフォンからスマホ、そしてPCブラウザゲームと激しく変わるトレンドに柔軟に対応し、自己研鑽や学習に主体的に取り組みつつ、ヒット作を作り出せる人材が必要。そうした人材なら既卒も新卒も関係ない。特に新卒は「可能性重視」というわけです。
いや、でもそんなスーパーマン、滅多にいないんですよ。しかも「可能性」なんて目に見えないもの、どうやって選考するのか。ポートフォリオなどもスキルの一端を垣間みせるにすぎず、たかだか数十分の面接で人柄がわかるわけがない。学生も不透明な選考基準に翻弄され、消耗中。ともに答えを模索中というのが実情です。
一方ゲームエンジンの普及などで、プロとアマチュアの垣根がどんどん崩れていく中、中小ゲーム会社の優秀な人材を登用したいという思いや、将来に対する危機感はますます高まっています。少子化の影響などで、学校側の危機意識も相当なものがあります。そうした、さまざまな思いが絡み合って、今回のイベントに繋がったと言えるでしょう。
神奈川工科大学准教授で、元『ことばのパズル もじぴったん』プロデューサーの中村隆之は「学生は卒業制作で伸びるが、今はその前に就活せざるを得ない。卒業研究をもって就職活動に臨めるのが一番良いが・・・」と語りました。また「企業での面接」というアウェーな環境に、本来の力が出せないまま沈む学生もいるそうです。
実際に学年で随一の学生でも内定が取れず、卒業式で企業に推薦したこともあったとか。その学生は新人らしからぬ無双ぶりを発揮して、入社後3ヶ月目と6ヶ月目で二度も昇級する快挙を実現。企業からたいへん感謝されたといいます。落とした会社に見る目がなかったのか、学生が悪かったのか、就活システムが悪いのか、おそらく全てでしょう。
リズの磯野も「弊社は新人をインターンで育てて社員に採用しており、専門学校生では可能だが、学業優先の大学生では難しい。大学の既卒生にアプローチしたいが、なかなか難しい」と語りました。大学生の既卒って、つまり就活の負け組ですよね。でも、そうした人材を求めている企業も、中にはあるんです。
ポイントは今の「就活」スタイルがベストなものではないと、みんな気づき始めていること。そして企業と学生のニーズが新たな形で充足される可能性があること、です。
そもそも前述の社長連にしても、まともに就職活動をしたのは塚本だけで、磯野はアルバイトあがり、杉山はフリーランスの仲間を集めて起業、横山にいたっては喫茶店でアルバイトしながら就職活動をして、全滅したから起業したという経歴の持ち主。それでもしっかり結果を出している。業界の入り方なんてどうでもいいんですよ。
それが、いつの間にかゲーム業界でも、世間様でいう「就活」が一般的になった。この矛盾を解消し、学生と企業と学校を新たな形で繋ぎ直そう、そんな気概が感じられるイベントだったといえるでしょう。参加した学生が何を持ち帰ったのか。彼らが生み出すであろう、未来のヒット作に期待したいところです。
(小野憲史)