舞台「マジすか学園〜京都・血風修学旅行〜」の情報も盛りだくさんの「月刊AKB48グループ新聞」5月号は、全国のコンビニや駅売店などで発売中

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先週木曜から渋谷のアイアシアタートーキョーで上演されてきたSKE48の松井玲奈とAKB48の横山由依の主演による舞台「マジすか学園〜京都・血風修学旅行〜」が、本日5月19日に千秋楽を迎える。17日の昼と夜の公演は全国の映画館でもライブビューイングが行なわれ、私も名古屋の劇場で観てきた。

この公演中に発売された「月刊AKB48グループ新聞」5月号には、主演の2人の稽古場での対談が掲載されている。それによると横山は、パンチの稽古をしていたら、演出の茅野イサムから「人殴ったことあるだろ」と言われたとか。実際には横山は人を殴ったことをないというから、よっぽど真に迫っていたのだろう。本番でも見事な殺陣を見せていた。

「マジすか学園」はもともとはAKB48グループのメンバー出演によるテレビドラマだ。2010年から12年にかけてテレビ東京系で第1〜第3シリーズが、今年には第4シリーズが日本テレビで放送されている。第1シリーズの開始時期がちょうどAKB48のブレイクと重なったこのドラマは、各メンバーが周知されるにも一役買ったことは間違いない。

今回の舞台で松井演じる「ゲキカラ」はドラマの第1シリーズから、横山演じる「おたべ」は第2シリーズから登場したキャラだ。いずれも馬路須加女学園(マジ女)の最強武闘集団ラッパッパのメンバーである。この2人以外にドラマと舞台版で重なるキャラは小嶋真子の「カミソリ」と大和田南那の「ゾンビ」のみ(いずれも第4シリーズに登場)、ほかはキャラもストーリーも、ドラマの世界観を引き継ぎながらも完全にオリジナルである。なお今回の出演者は松井と客演の小林美江(ゲキカラの母親などを演じた)をのぞけば全員AKB48のメンバーで、脚本は劇団「黒色綺譚カナリア派」主宰の赤澤ムックが手がけている。

物語はゲキカラが少年院から出所する場面から始まる。それを出迎えたおたべは、様子のおかしい彼女を心配し、自分の故郷である京都に誘うと、手下の「チームケバブ」の面々をともない修学旅行に出かけた。そこに待ち受けていたのが壬生尾土(みぶびつち)高校の軽音楽部「デンデケ」だ。かつての仲間であるおたべを裏切り者として恨むデンデケのメンバーたちは、彼女と再会するとさまざまな攻撃を仕掛けてくる。こうして両者の戦いの火ぶたが切られたのだった。

劇中、ゲキカラが出所したのち二度と暴力を振るうまいと耐えに耐えながら、最後の最後でキレて敵地に乗り込むという展開は、高倉健がスターだった往年の東映やくざ映画を思い起こさせる(同じ東映の昔の人気シリーズになぞらえるとするなら、学園内外で抗争が繰り広げられる第1〜第2シリーズは「仁義なき闘い」、監獄が舞台だった第3シリーズは「網走番外地」とでもなるだろうか)。

また、カーテンコールでの出演者紹介といい、ケレン味たっぷりなところはつかこうへいの舞台を思わせた。ちなみに本作の企画・原作も担当する48グループの総合プロデューサー・秋元康は、高校時代に小劇場で観た「熱海殺人事件」などのつか作品にハマったというから(この体験がのちのち「小さな劇場で毎日アイドルが公演をする」というアイデアを生んだとか)、本作にもその影響はあるのかもしれない。田野優花が演じる「ガッツ」(チームケバブのメンバーの一人)など、まるでつか作品「蒲田行進曲」の大部屋俳優・ヤスではないか。この田野の演技が、体のキレといいセリフ回しといい頭一つ抜けていて、上演中ずっと目が離せなかった。田野は昨年、「トロイメライにさよなら」で初舞台にして初主演を務め、今春には宮本亜門演出のミュージカル「ウィズ〜オズの魔法使い」にも出演しているだけに、さすがと思わせる。

動きでいえば、壬生尾土高校のザコキャラ「瓜坊」を演じた西野未姫もおかしかった。AKB48でのダンスが全力すぎるとファンのあいだでは有名な西野は、今回の舞台でも終盤、ガッツたちに捕まる場面でヘンテコな動きを見せ笑いを誘っていた。

壬生尾土はその名のとおり新選組のパロディになっている。ちょっとコメディリリーフっぽい部長の近藤を中西智代梨、副部長で洗練された雰囲気を持つ土方を永尾まりや、それからなぜかアルフィーの高見沢風ルックスの沖田を岡田奈々が演じた。このうち永尾は一昨年の「横山剣 大座長公演」以来すでに何度か舞台経験を持つ。岡田も、昨年同じくアイアシアタートーキョーで上演された「AKB49〜恋愛禁止条例〜」に出演している。このほか前出の小嶋真子と大和田南那、大島涼花・梅田綾乃・川本紗矢・飯野唯・谷口めぐも同作に続く出演ということになる。

これに対して主演の横山は今回が初めての舞台出演。松井も昨年、兼任していた乃木坂46の「16人のプリンシパル」で初舞台を踏んではいるものの、一つの役をずっと演じるのはこれが初めてとなる。

とはいえ、松井は今年公開の映画「アイドルの涙 DOCUMENTARY of SKE48」でSKE48加入以前に劇団に所属していたことを告白しているし、また高校の文化祭で演劇部の公演で演技に開眼したと、前にある雑誌のインタビューで語っていた。ちなみに文化祭で演じたのは、「普段はぶりっこだけど、ゴキブリを見ると感情が爆発して凶暴になる女の子」の役だったとか(「FLASH」2013年4月30日増刊号)。ゲキカラもまた、普段は感情を見せず無口ながら、いったんキレると豹変し、高笑いしながら暴力を振るうというキャラだから、高校時代の松井が演じた役はまるでその原型のようだ。

今回の作品では、ゲキカラがなぜ感情を普段見せなくなったのか、彼女の生い立ちを描きながら解き明かされる。そのなかで0から100へと爆発する感情を表現したり、現在と幼少期で声のトーンを変えたりと、人格を演じ分ける松井には鬼気迫るものがあった。

ひょっとすると松井玲奈は、映画やテレビドラマ以上に舞台向きなのではないか。ここはぜひ、外部の舞台に出演する彼女も見てみたい。そう思わせるに十分な今回の公演だった。エンディングでのメンバーのあいさつで、ほかのメンバーが素に戻るなかで、松井だけはまだゲキカラを演じ続けるかのようにキリッと前を見据えていた。その姿はまるで何か決意をしたかのようにすら感じられた。いや、SKE48全体のファン(いわゆる箱推し)の私としては、非常に複雑な気持ちではあるが……。

48グループでは、ここしばらく舞台公演があいついで行なわれてきた。3月には「AKB49〜恋愛禁止条例〜」が、出演陣をすべてSKE48のメンバーに変えて名古屋の中日劇場で再演された。4月には東京の明治座での「HKT48 指原莉乃座長公演」の第1部で、劇作家・演出家の横内謙介が書き下ろした博多少女歌舞伎「博多の阿国の狸御殿」がHKT48のメンバーによって演じられている。このうちSKE48の「AKB49」は私も初回公演と2日目の午前の公演を観たのだが、初日は緊張もあってか固かった演技も、2日目にはアドリブさえ飛び出す余裕が生まれていて驚いた。芝居を観るなら、できれば初日と真ん中と千秋楽と3回観ておきたいとはある俳優の言葉だが、私はその意味をアイドルから教えられたのである。

ところで、SKE48のメンバーにより名古屋で再演された「AKB49〜恋愛禁止条例〜」に対し、今回の「マジすか学園〜京都・血風修学旅行〜」はいずれNMB48メンバーによって大阪か京都か関西で再演されるのではなかろうか。劇中で流れる曲にNMB48のナンバーが目立ったのもそのためではないか……と私はにらんでいるのだけれども、はずれたらごめんなさい。
(近藤正高)