NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』が好評だ。ヒロインの天野アキ(能年玲奈)をはじめ、登場人物は基本的に東北訛りで話すのが特徴で、中でも「じぇじぇじぇ」という方言は全国的に知られてきた。子どもたちが真似るなどして流行しそうな勢いだ。その『あまちゃん』の脚本を手がけた宮藤官九郎が、NHKの生活情報番組『あさイチ』に出演してドラマにまつわるエピソードを語った。宮藤も東北出身であり、脚本に関しては方言にこだわったという。ところが彼は世間で話題の「じぇじぇじぇ」について、当初は意味が分からなかったというではないか。

東京で暮らしていた女子高生の天野アキが故郷の岩手県三陸海岸にある町に戻り、祖母のあとを継いで海女になろうとする。そのアキの母親、天野春子を演じるのが小泉今日子で、若い頃はアイドルを目指していたという設定だ。そんな母の影響もあってか、やがてアキは再び東京へ出てアイドルグループを結成する。

ドラマ『あまちゃん』の脚本を書いた宮藤官九郎が、5月24日の『あさイチ』にプレミアムトークのゲストとして生出演した。宮城県出身の彼がドラマの題材を求めるうちに、偶然行き着いたのが同じ東北の岩手県久慈市・小袖海岸の「北限の海女」や三陸鉄道北リアス線の町おこしだった。

宮藤は「特にこだわったのが方言」だという。朝ドラ(朝の連続テレビ小説)の歴史で会話の字幕を出したのは、彼が初めてであった。「方言でしか表現できないニュアンスがある。完全に意味が分からなくても、なんとなく伝わればいいかなと思った」と宮藤は語ると、逆にこれまで朝ドラを手がけた先輩たちが「字幕なしで地方色を伝えてくれたのに感心する」というのだ。

そんな宮藤官九郎が、脚本の下調べで初めて岩手県久慈市を訪れた時のことだ。「おばさんたちの会話を聞いて、僕も東北出身なのに半分くらいしか分からなかった」というのである。そんな時に“じぇ”という言葉が耳に残った。聞いてみると『びっくりした時に“じぇ”って言う。もっとびっくりしたら“じぇじぇ”って増えていく』らしい。「これは、面白いと使わせてもらいました」といったいきさつで、あの「じぇじぇじぇ」の台詞が誕生したのである。

また、時代背景のモデルとなった1980年代という設定は、三陸鉄道北リアス線が開通した1984年だったことに関連しており、宮藤が14歳の頃になる。昭和の歌謡曲全盛の時代で、当時のヒット曲を取り入れたのも彼のこだわりだ。特に宮藤が斉藤由貴のファンだったこともあり、ドラマ中でも彼女のヒット曲「卒業」を小泉今日子演じる春子や町の人々が口ずさむシーンがある。

その天野春子役の小泉今日子といえば、当時“キョンキョン”と呼ばれて大人気だったアイドルだ。そのため宮藤は歌謡曲の場面に彼女を出すわけにはいかなかった。「キョンキョンだけがいない当時の世界を作らねばならず、不思議な気持ちになりましたね」と苦労を明かす。しかし彼はストーリーとして、天野春子(小泉)が楽曲『潮騒のメモリー』(作詞・宮藤官九郎、作曲・大友良英)をカラオケで歌うシーンを実現させたのだ。

彼は「キョンキョンが歌うまでに1週間引っ張りました。個人的な願望というか、聞きたいんですよね」とようやくドラマ中で小泉に歌ってもらえた感慨を語った。彼が詞を書いた『潮騒のメモリー』には「ジョニーに伝えて、千円返して」や「寒さこらえて、波止場で待つわ」、「三途の川のマーメイド」といったヒット曲のエッセンスが散りばめられている。

この日の生放送中には視聴者から1500枚を超えるFAXが寄せられた。「宮藤官九郎さん、あなたは天才だと思う」といったものや、宮城県に住む女性からは「最近、子どもたちが恥ずかしがって方言を使わないので寂しく感じていたが、『あまちゃん』で方言が注目されて嬉しいです」といったメッセージもあった。

ドラマではこれから能年玲奈演じる天野アキが地元で人気者となり、町おこしに奮闘する様が描かれる。後半に入るとアイドルを目指して東京へと活動の場を移すのだが、宮藤は「この時代に、吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』がヒットしているので、それともリンクしている」と歌謡曲とドラマの関連を明かした。彼の頭の中では何がどうつながっているのか分からない。「あなたは天才だ」と評価されるのも納得である。
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)