「アベノミクス」による経済再生への手応えをつかんだ安倍普三首相は2月12日、官邸に米倉弘昌経団連会長ら経済3団体トップを招き、業績が改善してきた企業の賃上げを要請した。給料が上がれば消費に反映し、景気が活性化するとの期待に他ならない。実際、自動車産業などでは円安を追い風に、業績見通しを上方修正するケースが相次いでいる。

 一方、それに冷や水を浴びせる動きも出ている。リストラに名を借りた“人減らし”を余儀なくされた企業が続出しているのだ。
 民間の信用調査会社、東京商工リサーチがまとめた上場企業の早期・希望退職者募集状況調査(2月7日現在)によると、今年に入って具体的な内容を確認できたケースだけで26社(2935人)に及ぶ。調査対象が公表ベースのため単純比較は難しいが、年明けのほぼ1カ月だけで、昨年1年間(63社=1万7705人)の3分の1の件数に達した。一昨年(58社=8623人)との比較では、実に5割弱の水準に迫る。

 募集人員が最も多かったのは日本無線の650人、次いでローム250人、三陽商会230人、JUKI、タムラ製作所の200人、淺沼組、タカラトミー、双葉電子工業、エフテックの150人などと続く。
 まさに新年早々から、恥も外聞もない人減らしのオンパレードだ。円安効果が業績に反映するには企業や業種で温度差があることから、東京商工リサーチは「このペースで推移すると、4年ぶりに年間100社を超える可能性もある」と警告している。

 そして不幸にも、この予測は的中しそうだ。
 奇しくも東京商工リサーチが集計を発表した当日、富士通が9500人の人員削減に踏み切ったのである。不振の半導体事業をパナソニックと統合。この再編に伴って設立する新会社に4500人を転籍させるほか、国内外の社員5000人を早期退職優遇制度などで削減するという。
 この人減らし策に合わせて富士通は、多額の投資を必要とする製造部門を分離。台湾メーカーなどと製造会社を設立する。これぞ台湾資本を駆け込み寺にした揚げ句、足元を見透かされて迷走し続けるシャープの断末魔を彷彿とさせる。

 市場関係者は冷ややかだ。
 「富士通は何を血迷ったのか、4年前に当時の野添州旦社長を解任に追い込み、社内がガタガタになった。半導体への巨額投資が裏目に出たことが赤字の元凶と言っていますが、あんなドタバタ騒動があれば社員の士気に影響して当たり前。それが回り巡って財政を直撃し、優秀な技術者が早期退職に名を借りてテイよく追い出される図式ですよ」