2011年09月24日配信の「しみマガ」より抜粋

 「彼は1対1に弱い選手」――。
 
 いちばん最初にケルンの練習に参加したとき、槙野は現地メディアからこのように酷評されました。
 
 ドイツサッカーは、伝統的に1対1の強さを重要視します。それを最もよく現しているのが、ドイツの有名なサッカー紙「kicker」のマッチレポートです。記事のデータ欄には、ゴール数やファール数、ポゼッション率といった世界共通のデータと共に、『1対1の勝率』が掲載されています。文字通り、1試合の中で1対1の勝負にどれだけ勝ったのかを示す数字です。他の国のサッカーメディアで、このようなデータを見かけることはありません。ドイツがいかに1対1を重んじているのかを読み取ることができるでしょう。
 
 そもそも、この『1対1』という概念ですが、我々日本人とドイツ人では思い描くイメージに違いがあります。日本人が『1対1の勝負』という表現を使うときは、たとえば原口元気がドリブル突破を仕掛けるようなシーンを示すことが多いのですが、ドイツ人がイメージする『1対1の勝負』とは、そのようなおしゃれなシーンばかりではありません。
 
 フィフティーフィフティーのボールを奪い合ったり、あるいは空中にフラフラと上がったボールに対して「バチーン」とお互いの体をぶつけて競り合う、このようなプレーもドイツでは『1対1』とされます。近年のドイツの若い選手は、足技も美しく、ゲルマン魂と呼ばれたころのドイツ代表とは趣が変わってきましたが、彼らの根っこにある『1対1の勝負に必ず勝つ』というメンタリティーは今も昔も変わりません。
 
 そのドイツ人たちから、「槙野は1対1(接触プレー)に弱い」という評価が下されたわけです。
 
 しかし……。
 
 それは、槙野がケルンで試合に出られない理由として、確信を突いた回答とはいえません。
 
 なぜなら、それくらいの特徴はフィンケが最初から分かっていたこと。体が大きいドイツの選手に対して、まともに当たれば日本人選手が後手に回ることくらい、僕でも移籍する前から想像がつきます。槙野が試合に出られない“本当の”理由は、別のところにあるのです。
 
 その点について、片山氏(ドイツサッカー協会指導者ライセンス保持者)はこのように分析しています。
 
 「選手には誰しも長所と短所があるが、クラブが選手を獲得するときは、必ず長所を見てオファーを出しているはず。槙野が接触プレーに弱いセンターバックだとしても、そういった短所は、フィジカルの強いセンターバックとコンビを組むことで解消することもある。
 クラブは、槙野のどこに注目して彼を獲得したのか? フィンケは浦和の監督を務めていたとき、対戦相手の槙野の攻撃参加を高く評価していたはず。たしかに1対1に弱いのは槙野の短所だが、ここまで試合に出られないのは、そもそもフィンケが槙野を獲得した理由である『攻撃面でのアピール』ができていないからではないか」

続きは「しみマガ」にてどうぞ!