【戸塚啓コラム】両翼が見せた3−4−3の可能性
カズのゴールが心地良い余韻を残した3月29日のチャリティーマッチで、日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督はひとつのテストを行なった。新たなオプションとして、3−4−3にトライしたのだ。
システムの肝は「4の両翼」である。Jリーグ選抜と対戦したこの日なら、右の内田と左の長友だ。彼らが3バックに吸収される時間帯は、試合の主導権を譲っていることを意味する。サイドバックではなくサイドハーフとして機能するのは不可欠で、できるだけ高い位置を保つのはもちろん、高い位置でイニシアチブを握れるかどうかが重要だ。
別表は、前半のボールタッチ数である。後半はメンバーがほぼ入れ替わったので、前半のみの集計とした。
全体的な傾向としては、いつもに比べるとタッチ数が少ない。コンディションが万全でないJリーグ選抜にミスが目立ち、攻守の入れ替わりがそのまま決定的なシーンへつながっていた。遠藤の総タッチ数がチームで6番目という事実が、シンプルな攻撃を示唆している。手間をかけるまでもなく崩しきれていた、という表現が当てはまる。
自陣でのボールタッチ数は、3バック中央の今野と同右サイドの吉田が最多30回で並ぶ。3位には内田の名前があがり、4位は長谷部である。右サイドが攻撃の起点となり、ボールの落ち着きどころになっていたことがうかがえる。敵陣でチーム最多のタッチ数を記録した本田も、プレーエリアは右サイドがメインだ。
試合後のザックは、「吉田と伊野波がイニシアチブをとって、ゲームを進めることが大切だ」と説明した。「イニシアチブをとる」との表現には複数の意味が込められていると推察するが、彼らが主体的にゲームに関わっていく、つまり守備ではなく攻撃の局面でボールに数多く触れることを、ザックは求めているのだろう。Jリーグ選抜が相手だけに参考資料の域を出ないが、その意味ではまずまずといったところだろうか。
内田のボールタッチ数は、敵陣より自陣のほうが多い。ただ、プレーエリアはミドルサードに集中する。敵陣でのタッチ数が少ないのは、チーム全体のバランスに理由を求めるべきだ。前半の日本は、左サイドからの攻めが多かったのである。
果たして、左サイドの長友は内田と正反対のデータを残している。敵陣で記録した16回のボールタッチ数は、自陣の倍以上となっているのだ。1トップの前田と同サイドの岡崎を上回り、チーム2位タイである。
アタッキングサードでは積極的に仕掛けた。8分、10分とタテへ抜け出してクロスを供給し、19分には左サイドからカットインして右足シュートを放つ。23分にはカットインから再びタテヘ持ち出し、ファーサイドへクロスを送った。
クロスかシュートでプレーを終えているのは、彼が主導権を握っていた何よりの証明である。マッチアップした同サイドの選手はもちろん、日本代表というチーム内においてもだ。
ちなみに、16回という数字は、南アフリカW杯の全4試合を上回る。グループリーグの3試合はすべてひと桁で、延長戦までもつれたパラグアイ戦でも、敵陣でのボールタッチ数は11回に止まっていた。W杯とのシステムの違いはもちろん大きいが、イタリア移籍後の変化がデータにも表れていると言えるだろう。
3−4−3がオプションになりうるかどうかの判断は、いましばらくの見極めが必要だろう。それでも、「4の両翼」の二人が、とりわけ長友が見せたプレーは、この新たなシステムに期待感を持たせている。
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自陣でのボールタッチ数は、3バック中央の今野と同右サイドの吉田が最多30回で並ぶ。3位には内田の名前があがり、4位は長谷部である。右サイドが攻撃の起点となり、ボールの落ち着きどころになっていたことがうかがえる。敵陣でチーム最多のタッチ数を記録した本田も、プレーエリアは右サイドがメインだ。
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内田のボールタッチ数は、敵陣より自陣のほうが多い。ただ、プレーエリアはミドルサードに集中する。敵陣でのタッチ数が少ないのは、チーム全体のバランスに理由を求めるべきだ。前半の日本は、左サイドからの攻めが多かったのである。
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クロスかシュートでプレーを終えているのは、彼が主導権を握っていた何よりの証明である。マッチアップした同サイドの選手はもちろん、日本代表というチーム内においてもだ。
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1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している