■ 枠内シュート

枠内シュート(= Shot on goal)とは、「ゴールの枠内に飛んだシュート」のことである。シュートは枠に飛ばさないと何も起こらないので、重要視される数値の1つであり、シュート数やボール支配率、イエローカードやレッドカードの枚数などと共に、テレビ中継の中でも、たびたび表示されるものである。

この「枠内シュート」に関して、その確率(=枠内シュート率)が南アフリカ大会の日本代表チームが、全32チーム中でトップだったことは、大会後に報道されたとおりである。4試合で放ったシュートは46本。そのうち27本が枠内だったので、枠内シュート率は59%だったという。

■ Jリーグの枠内シュート率

Jリーグあるいは日本人選手の課題と言われ続けてきたのが、「シュート精度」あるいは「キック精度」と言われるものであり、日本人選手がシュートをふかしてしまったとき、「海外の選手はこういった場面では、きっちりとシュートを枠に飛ばしてきます。この点が世界との差ですね。」と解説されることは多い。

しかし、この点は、南アフリカ大会で枠内シュート率がトップだったこととは少し矛盾してしまう。ということで、まず、J1とJ2の全37チームの枠内シュート数と枠内シュート率を調べてみた。数字は2010年シーズンのものである。結果は、J1が36.42%、J2が36.30%であった。

南アフリカ大会の日本代表には遠く及ばず、いかに南アフリカ大会の日本代表の枠内シュート率が高かったかが分かるが、意外なのは、J1とJ2で大きな差がないことである。J2の場合、基本技術でJ1よりも劣っているイメージがあるので、「枠に飛ばないシュートも多い。」ように思うが、数字上はほとんど変わらない。また、必ずしも上位チームの枠内シュート率が高いというわけでもない。


※ J1(2010年)
 シュート数SOG
名古屋42616839.44%
G大阪45219142.26%
C大阪47519140.21%
鹿島51117935.03%
川崎F51719036.75%
清水40315137.47%
広島42514333.65%
横浜FM48917034.76%
新潟36713937.87%
浦和45117639.02%
磐田39013534.62%
大宮38714236.69%
山形32411435.19%
仙台42714834.66%
神戸44415434.68%
FC東京44416136.26%
京都38811629.90%
湘南29910735.79%
 7619277536.42%


※ J2(2010年)
 シュート数SOG
48618738.48%
甲府47518538.95%
福岡45617538.38%
千葉49018237.14%
東京V42516137.88%
横浜FC40116440.90%
熊本35612936.24%
徳島36514238.90%
鳥栖42013331.67%
栃木39914636.59%
愛媛37411229.95%
草津37712733.69%
札幌32111736.45%
岐阜31212640.38%
大分36013537.50%
水戸32910732.52%
岡山2909934.14%
富山35912033.43%
北九州33911533.92%
 7334266236.30%


■ 海外リーグとの比較

それでは、J1が36.42%、J2が36.30%という数字は、海外リーグと比べてどうだろうか?

ということで、今度は、5大リーグ(プレミア、セリエA、リーガ・エスパニョーラ、ブンデスリーガ、リーグアン)の枠内シュート率を調べてみた。(数字は2010-2011年シーズンの途中までの数字である。リーグやクラブによって試合数が異なるため、総数についてははあまり意味がない。)

※ リーグごとの比較
 シュート数SOG
J17619277536.42%
スペイン4201152936.40%
J27334266236.30%
ブンデスリーガ3977142235.76%
リーグアン4093135733.15%
セリエA4539146932.36%
プレミア4990154230.90%


並べてみると、J1が36.42%で第1位。J2が36.30%で第3位。5大リーグと比べても非常に高い数字である。何となく、一流選手の集まるプレミアリーグやリーガ・エスパニョーラは枠内シュート率の数値も高いように思っていたが、このとおりで、J1、スペインリーグ、J2、ブンデスリーガはほぼ同じくらいで、プレミアリーグは他のリーグと比べて大きく劣っている。

当然、キック力やキック精度といった基本的な能力では、J2の選手とプレミアの選手は大きな差がある。普通に考えると、プレミア>>>J2となるように思うが、結果は逆になっている。

考えられるのは、意識の違いである。プレミアリーグの場合、攻守の切り替えの早い展開になることも多く、「中途半端な形でボールを失うと、相手のカウンターでやられる危険性がある。それならば、セーフティーにシュートで終わろう。」という意識が、各選手に強いのではないだろうか?また、シュートレンジの違いもあるかもしれない。

もちろん、ディフェンスのチェックが甘い場合、枠内シュート率は高くなるので、ディフェンスが激しいリーグは、「低め」になることは十分に考えられる。ということなので、セリエAの数字が低めなのは何となく理解できるが・・・。それにしても、ちょっと意外な結果である。

■ クラブ別での比較

最後はクラブ別。7つのリーグの中で、枠内シュート率が40%を超えたクラブだけを取り出してみた。相手チームのレベルも違ってくるので、リーグの区別をなくして比べるのは、あまり意味はないかもしれないが、とりあえず、40%を超えているチームだけを取り出してみた。

1位のバルセロナの数字はダントツであり、47.86%と信じられないような数字になっている。2位はボルシア・ドルトムント。この2チームは国内リーグでも首位を走っており、上位に来るのも納得できる。3位はG大阪。同じ大阪のC大阪も40%以上である。この4チームに共通するのは、ボールをポゼッション力が高く、主導権を握った状態で試合を進めたいタイプのチームであるということである。相手を崩すアイディアも豊富なので、無理なロングシュートも少ないのだろう。

それにしても、日本チームは健闘しており、大阪の2チームに加えて、J2の横浜FCとFC岐阜も上位に入ってきている。両チームには強力なストライカーはおらず、極端にポゼッション思考のチームという訳でもない。この2チームが高い数値であることの理由は「分からない。」というしかない。FC岐阜はクロス数が19チーム中19位、クロス成功率が19チーム中18位。このあたりが関係しているのかどうなのか。(ただ、横浜FCはクロス数が19チーム中9位、クロス成功率が19チーム中3位。関係ないか・・・。)

 シュート数SOG
バルセロナ28013447.86%
ドルトムント27912043.01%
G大阪45219142.26%
エルクレス1556541.94%
ホッフェンハイム24810241.13%
ハノーファー1686941.07%
横浜FC40116440.90%
ソショー2198940.64%
岐阜31212640.38%
ビジャレアル2439840.33%
レアル・マドリー28311440.28%
C大阪47519140.21%
エスパニョール2098440.19%


反対に低い方である。ビッグクラブの中では、インテルとローマの低さが目立ってしまう。日本のクラブでは、京都と愛媛の数値が低かった。MFディエゴが乱発していたイメージのある京都は納得できるが、愛媛は少し意外である。

 シュート数SOG
サンダーランド2596625.48%
ウエストハム2556525.49%
カーン1734526.01%
WBA2536927.27%
チェゼーナ1905227.37%
インテル2918027.49%
ストークシティ2506927.60%
ローマ2938127.65%
エバートン2868027.97%
ブレスト2306628.70%
バリ1815228.73%
ブラックプール2366828.81%
ボローニャ1825329.12%
レバンテ1755129.14%
アルル1855429.19%
トッテナム2968729.39%
フルハム2477329.55%
サラゴサ2136329.58%
カターニャ1995929.65%
ソシエダ1755229.71%
フライブルク1985929.80%
ザンクトパウリ2116329.86%
京都38811629.90%
ジェノア2246729.91%
愛媛37411229.95%


■ まとめ

もちろん、より大事なのは、「枠内シュート率」よりも「枠内シュート数」であり、また、同じ枠外シュートであっても、コースギリギリを狙った惜しいシュートと、宇宙開発と呼ばれるシュートでは意味は違ってくるが、まとめてみると、

 ・Jリーグの枠内シュート率は意外と高い。
 ・J1とJ2でそれほど差はない。
 ・課題は「キックの精度」よりも、少々、遠目でもシュートを狙う意識(=強引さ)なのかもしれない。

となる。


※ スペインリーグ
 シュート数SOG
アルメリア1886836.17%
ビルバオ2358435.74%
アトレチコ・マドリー2398535.56%
バルセロナ28013447.86%
デポルティボ1856736.22%
エスパニョール2098440.19%
ヘタフェ2147233.64%
エルクレス1556541.94%
レバンテ1755129.14%
マジョルカ2066431.07%
マラガ1866736.02%
オサスナ1825731.32%
ラシン2117937.44%
レアル・マドリー28311440.28%
ソシエダ1755229.71%
サラゴサ2136329.58%
セビージャ2208739.55%
ヒホン1926031.25%
バレンシア2107837.14%
ビジャレアル2439840.33%
 4201152936.40%



※ ブンデスリーガ
レバークーゼン2388636.13%
バイエルン2528332.94%
ドルトムント27912043.01%
ボルシアMG2409037.50%
フランクフルト2016833.83%
1FCケルン2006934.50%
ハンブルガーSV2197634.70%
ハノーファー1686941.07%
カイザースラウテルン2357431.49%
マインツ2127736.32%
ニュルンベルク2287131.14%
フライブルク1985929.80%
シャルケ1977638.58%
ザンクトパウリ2116329.86%
ホッフェンハイム24810241.13%
シュツットガルト2379037.97%
ヴォルフスブルク1806636.67%
ブレーメン2348335.47%
 3977142235.76%


※ リーグアン
 シュート数SOG
オセール2207232.73%
アルル1855429.19%
モナコ2016532.34%
ナンシー2417932.78%
ボルドー2337130.47%
ブレスト2306628.70%
カーン1734526.01%
ランス2136630.99%
リール2639234.98%
ロリアン2338235.19%
リヨン2537730.43%
マルセイユ2728932.72%
モンペリエ2628030.53%
ニース1886232.98%
パリSG28210838.30%
ソショー2198940.64%
サンテチエンヌ2347833.33%
レンヌ2147032.71%
トゥールーズ1746738.51%
ヴァランシエンヌ2087134.13%
 4093135733.15%



※ セリエA
 シュート数SOG
ACミラン27710939.35%
ローマ2938127.65%
バリ1815228.73%
ボローニャ1825329.12%
ブレシア2046732.84%
カリアリ1826234.07%
カターニャ1995929.65%
チェゼーナ1905227.37%
キエーボ2247734.38%
フィオレンティーナ2037536.95%
ジェノア2246729.91%
インテル2918027.49%
ユベントス2799734.77%
ラツィオ2457430.20%
レッチェ1987035.35%
ナポリ2418836.51%
パレルモ29010636.55%
パルマ2016130.35%
サンプドリア1866132.80%
ウディネーゼ2497831.33%
 4539146932.36%



※ プレミアリーグ
 シュート数SOG
アーセナル30010635.33%
アストンビラ2286930.26%
バーミンガム1846032.61%
ブラックバーン2096531.10%
ブラックプール2366828.81%
ボルトン2678732.58%
チェルシー31110935.05%
エバートン2868027.97%
フルハム2477329.55%
リバプール2578231.91%
マンチェスターシティ2317833.77%
マンチェスターU2659033.96%
ニューカッスル2077234.78%
ストークシティ2506927.60%
サンダーランド2596625.48%
トッテナム2968729.39%
WBA2536927.27%
ウエストハム2556525.49%
ウィガン2347331.20%
ウォルヴァーハンプトン2157434.42%
 4990154230.90%


関連エントリー

 2007/09/08  本当に「決定力不足」なのか?
 2007/09/15  「個の力」というフレーズにだまされるな!!!
 2009/09/30  データで見る最も空中戦の強いJリーガーは誰か? (2009年/J1編)
 2009/10/02  データで見る最も空中戦の強いJリーガーは誰か? (2009年/J2編)
 2009/12/18  MF佐々木勇人(G大阪)が全Jリーガーの中で?1だったある数値 (J1編)
 2009/12/19  MF佐々木勇人(G大阪)が全Jリーガーの中で?1だったある数値 (J2編)
 2010/01/19  「Jリーグ史上最強のチームはどこか?」を考える。
 2010/12/07  サッカー解説者やライターの順位予想はどのくらい当たっているのか?