土曜日、等々力で川崎対清水を見た。といっても、90分間全て見たわけではない。なんと、試合開始時刻に間に合わなかったのだ。遅刻してしまったのだ。

東横線で武蔵小杉駅に到着すれば、駅周辺にはサポーターらしき姿はなし。一瞬、嫌な思い出が頭を過ぎった。

何を隠そう、僕には試合日を間違えた経験が何度もある。試合日ではない日に、スタジアムに出かけて行ってしまったことが。日本だけではない。チャンピオンズリーグでも一度やらかしている。

自分の馬鹿さ加減に呆れ果てる瞬間だ。

また、やってしまったかな。武蔵小杉駅に到着した瞬間、これまでに経験した悪夢がデジャブーのように蘇った。

iPhoneで、試合日程をチェックすれば13時と出ていた。時は13時12分。
僕はキックオフ時間を14時だと間違えていたのだ。

すかさず駅前でタクシーを捕まえ、スタジアムへ。

タクシーの運転手は「今日はお客さんがよく入ってるよ」と言っていたが、スタジアムに到着するや、その理由がよく分かった。というか、僕が、等々力にやってきた理由を改めて思い出すことになった。

メディアはいま、横浜入りした中村俊のことをしきりに報じている。今季の目玉選手として扱っているが、彼は岡田ジャパンで、これまで何十試合も出場しているので、Jリーグに復帰したからといって、特に目新しさは感じない。川崎に今季から加わった稲本も同様。日本を長い間離れていた気はあまりしない。

だが、小野はそうではない。目の前で見るのは本当に久々で、その分だけ、新鮮に映った。その分だけよく見えたのかも知れないが、とにかくそのプレイは本当に巧かった。機能している、していないはともかく、ボールタッチ、ボール操作、視野の広さ等々、Jリーグのレベルを凌駕する秀逸な個人技を随所に見せつけてくれた。お金を取れるプレイと言ってもいいかもしれない。

中村俊、稲本、中田英、そして小野。ジーコジャパンの初戦、対ジャマイカ戦で、ボックス型の中盤を形成したこの4人には、それぞれ多くのファンがついている。「俺はヒデ派なんだよね」とか「俺は俊輔派なんだよ」とか、サッカーファンの大抵は、その中の誰かに少なからずシンパシーを抱いていた。まさに「中盤天国」ニッポンを象徴する4人だと言えるが、中でも技巧派の中村俊と小野に対しては、好みが真っ二つに割れていた。

俊輔派か、小野派か。何を隠そう僕は小野派だ。中村俊が嫌いだからと言うわけではない。僕の感性には小野の個人技の方が響いたという話だが、この日のプレイを見て、その思いはより深まった気がする。

サッカーは相手の裏をかくスポーツだと言われる。悪く言えば、騙しあうスポーツ。その点で中村俊は素直な選手に見える、小野の方が悪そうに見える。悪戯心が勝っている良いに見える。

中でも「あっち向いてホイ」のプレイが僕は気に入っている。目線と全く違う方向に出すパスだ。といえば、ロナウジーニョを思い出すが、小野も捨てたモノではない。「自然さ」に関しては、小野の方が上だ。

この日も、あっち向いてホイを何度か披露してくれた。味方をさえも欺くシーンもあった。ヨンセンは明らかにビックリし、トラップを乱していた。

日本人の中盤選手のレベルは総じて高いとはいえ、小野に迫る選手は現れていない。相変わらず彼は、1人別次元を行っている。見る価値、お金を払う価値は十分あると思う。岡田ジャパンでは見れないだけに……。

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