当局の強引さが印象に残る事件

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 新宿・歌舞伎町のビルの一室を、「違法営業の裏カジノ店」と知りながら賃料を受け取っていたとして、警視庁保安課は、1月21日、ビル管理会社「リ―企業」の代表者ら2名を逮捕した。

 この事件が、今、貸しビル業者間に波紋を広げている。なにしろ、容疑が暴力団など反社会的勢力を対象とした組織犯罪処罰法違反だったからだ。

 繁華街に多数のビルを所有、風俗関係に店を貸すことも多い貸しビル業者が悩む。

「反社が『裏カジノや売春の拠点にするから』と、店を借りに来るわけがありません。そもそも経営者や店長はダミーで、誰がバックにいるかわからないことが多い。貸したことが違法収益になり、それで逮捕までされたら商売なんてできない」

ロボットカジノが初摘発

 今回の事件は、「初」が多い。

 そもそも今回の事件のきっかけは、2014年11月、ロボットがディーラーとなる「ロボットカジノ」の「アトム」という店が、常習賭博で摘発されたのがきっかけだった。そして組織犯罪処罰法による「大家」の摘発も全国で初めてである。

 ロボットが伸縮自在のアームを使ってカードを配るという意外性がウケて、この種の店が多くなり、それに目をつけた警察が摘発。事件は、「初物」ということで、マスコミに大きく報じられた。

 それがビル管理業者の犯罪につながったのは、従業員がビル管理会社の代表に、違法カジノの営業を疑っているメールを送り、それを代表が無視したのが原因である。家宅捜索の過程で携帯電話が押収され、メールが発見された。

 ただ、現実問題として、幾つものテナントを持ち、現場にいるわけでもない代表が、メールを見逃すか、「たいしたことはない」と放置することもあるわけで、それをもって「犯罪収益と認識していた」と、断定するには無理がある。

 あっさりと認めたのは、過去の事例から考えて、逮捕拘留までされるとは考えていなかったからではないか。

 もちろん、犯罪収益に加担したことは事実であり、「知らなかった」という言い訳は通らない。そして、法律が初適用され、逮捕にまで至ったということは、今後、他の貸しビル業者にも同じことがありうる。

 犯罪というなら、その入口の「違法業者」を見つけるノウハウをどう確立するのか。それに警察は手を貸すのか。

 今回の事件化で、新たな課題が次々に浮上してきた。

伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある