【艦これ】護衛、戦闘、偵察…最も働く駆逐艦の一隻『初霜』のルーツ
【ほぼ週刊艦これ通信】
『艦隊これくしょん』(以下、『艦これ』)では数多くの「駆逐艦」が登場する。見た目は幼く擬人化されていても、立派な軍艦。彼女たちも大きな責務を担っていた。
今回はその駆逐艦の一隻『初霜』を取り上げつつ、彼女たちの本質に迫ってみたい。
そもそも駆逐艦とは?巨大戦艦が海の王者であり、国力の象徴だった時代のこと。各国海軍は競い合って戦艦を造ろうとしたものの、何しろ金がかかる。
当然、官僚や政府は渋い顔をする。現代に例えるなら、福祉も教育も景気対策もすべて後回しにして、大して使い道もない巨大建築物ばかり造ろうとしていたようなもの。
ならば同じ戦艦以外で敵国の戦艦に対抗する方法はないか? それも、身も蓋もない言い方をすれば安上がりに……その命題に対するひとつの回答が、駆逐艦による魚雷攻撃――雷撃だった。
雷撃だけを任務とする艦種には「魚雷艇」「水雷艇」と呼ばれるものもあるが、そちらはあくまで近海用。はるばる遠洋にまで出かけていく能力はない(元々駆逐艦は、魚雷艇などを「駆逐」するための艦が起源でもあるし)。
中部太平洋で艦隊決戦が起こる、と想定していた当時の海軍は、主力である戦艦と一緒に行動できるだけの性能を駆逐艦に求めていた。
航続力はできるだけ欲しい、敵の砲撃をかいくぐれる速力も欲しい、魚雷も強力な物を積めるようにしたい、でも国際条約は守ってね――という無茶な要求に対して、設計する側も試行錯誤。アニメ版『艦これ』で主役を張っている『吹雪』(のモデルになった吹雪型)に代表される特型駆逐艦を基に、さらなる性能強化を模索した。それは初春型・白露型・朝潮型と二転三転した後、陽炎型・夕雲型・秋月型といった新時代の駆逐艦へと繋がっていくのだが……。
結果として彼女たち駆逐艦は、何でも屋になってしまう。戦艦と一緒に行動できるなら、その護衛を務めるには最適。戦艦の護衛ができるなら、ほかのフネ――空母や輸送船などの護衛もできるはず。それぞれを護るには、対潜水艦戦・対航空機戦もこなす必要がある。ああ、偵察や警戒にも、脚が速くて数の多い駆逐艦は便利……とまぁ、おおよそ作戦において必要とされた任務はすべてこなすハメになった。
主力として温存される戦艦や空母を尻目に、ありとあらゆる局面に投入された、艦隊における最も働き者――それが駆逐艦なのだ。
戦艦『大和』最後の戦いで獅子奮闘さてそんな駆逐艦の一隻『初霜』は、初春型4番艦として昭和9年9月27日に浦賀船渠で生まれた。
戦時中はキスカ島沖で霧にまかれ、同じ初春型の『若葉』にごっつんこ(艦首をぶつけた)という話もあるようだが、彼女の名が歴史に刻まれたのはやはり、坊ノ岬沖海戦――戦艦『大和』最後の戦いだろうか。
奮戦虚しく『大和』が敗れた後、『初霜』は残り数隻にまで減ってしまった僚艦たちと救助に奔走。本来なら全滅するはずだった艦隊の将兵を、数多く佐世保へ連れ帰ったという。
考えてみれば上記のキスカ島沖における事故も、孤立した味方の将兵を救いに赴く任務中のこと。彼女は建造時に求められていた様々な戦闘任務よりも、「救命」という行為で最も活躍をみせたのだ。
『艦これ』原作ゲーム中における『初霜』の代表的なセリフ、
「一隻でもひとりでも、救えるならば私は、それで満足なの」
に、その生き様が集約されているように……。
(取材・文/秋月ひろ)