北陸新幹線スペシャルサイトより

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 昨年、東海道新幹線が開業50周年を迎えた。その様子は当時の新幹線開業フィーバーを懐古するとともに、今もってつづく新幹線人気の根強さを改めて感じさせた。

 新幹線は昭和39年に東京-新大阪間を嚆矢として、その後も全国に路線を拡大したが、今年3月に北陸新幹線が金沢駅まで延伸開業する。

 北陸新幹線は1997年に長野駅まで先行開業している。これはオリンピックの開催を契機に整備されたものだが、17年の歳月を経てようやく“北陸”までの開業に漕ぎつけた。新幹線の延伸開業に対して、地元では期待する声が多く聞かれる。

 金沢では東京からの観光客増加を見込み、富山では企業の誘致が活発化している。新幹線を望んできた地元にとって、新幹線は長年の悲願だった。

 しかし、そこまでの道のりは決して平坦ではなかった。北陸新幹線の停車駅を巡っては、江戸時代から北陸の主要都市として栄える金沢と高度経済成長期以降に工業都市として発展してきた富山との間で利害関係が対立し、一悶着あった。

 観光客を呼び込みたい金沢は航空機よりも短時間で移動できることをアピールしたいので東京-金沢間の停車駅はできるだけ少なくしたい。対して、富山は東京との利便性向上をアピールしたいので、富山にはできるだけ多くの本数を停車させたかった。

 それらに加え、これまで終点だった長野市の思惑も交錯する。

「北陸新幹線が延伸開業して長野市が通過駅になってしまえば、長野市経済の凋落は明らかです。善光寺の観光客増を期待する声もあるけれど、日帰り客が増えても、そんなに経済効果はないです。それよりも、金沢・富山に観光客を取られるマイナスの方が大きい」(長野市の業界団体関係者)

 これまで、長野県は県都・長野市と城下町・松本市と争うように発展してきた。北陸新幹線の延伸開業で長野市が通過駅になる危機感から、経済の軸が松本市に移ってしまうのではないか? という不安も地元経済界にはある。

2022年までに福井県敦賀駅まで延伸開業

 他方で、延伸開業を目前に控えた金沢も安穏とはしていられない。このほど、政府・自民党が2025年開業予定としていた北陸新幹線の福井県敦賀駅までの延伸開業を3年前倒しして2022年までに開業させる方針を発表したのだ。

 通過駅になれば、その経済効果は薄れてしまう。すこしでも長く経済効果を享受したい金沢にとって前倒し案はとうてい容認できるものではない。福井県はすこしでも早く新幹線に来てほしい。新幹線をめぐる新たな駆け引きが勃発しているのだ。鉄道雑誌編集者はこう説明する。

「北陸新幹線は東京―新大阪を結ぶ路線として計画されたものですが、福井県敦賀以南はまだどこを走るのか決まっていません。2006年から在来線の北陸本線・湖西線が京都・大阪方面に直通化するようになり、敦賀駅から京都・大阪方面へのアクセスが飛躍的に向上しました。通勤需要も出てきています。敦賀は完全な関西圏であり、北陸新幹線が敦賀まで開業して東京とつながってもその効果は薄い。果たして東京まで行くかな? と疑問です」

 近年、日本は人口減少社会が深刻化している。その中で、滋賀県は京都・大阪のベッドタウンとして急速に人口が増加している。滋賀に住み、京都・大阪に通勤する“滋賀府民”が増えているのだ。敦賀市は福井県だが、前述したように北陸本線・湖西線の直通化で経済圏は関西方面を向いている。

 北陸新幹線はいまだ敦賀―新大阪間のルート選定中。そのため、北陸新幹線が新大阪まで乗り入れるのは、とうぶん先の話になる。仮に3年前倒しで開業しても北陸への経済効果は乏しく、むしろ金沢の経済効果が薄れてしまうデメリットばかりが目立つ始末なのだ。

 そうした事情から、前倒し開業は無意味との声も囁かれている。それどころか、開業が遅くなってもいいから一気に新大阪まで開通させてしまった方がいいという意見まである。 前倒し開業に関して、国土交通省は慎重な姿勢な姿勢を保ったままだが、地元の声次第ではどうなるかは未知数だ。

 北陸新幹線の全線開業には、もう一波乱二波乱あることが予想される。

(文/小川裕夫)