生活保護受給日の朝の様子(写真はイメージです)

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 前回の記事では、党派を問わず地方議員が生活保護受給申請に同席するなどし、暗に行政にプレッシャーをかけるかのような実態を報告した。

受給申請の決定・却下……明暗を分ける理由とは?

 だが、神戸市で福祉行政を担当するA係長は、「どこの地方行政でも、いくら政治家が同席しようとも電話をかけて来ようとも、それにより生活保護受給の決定が左右されることは今でなくなった」と話す。

 むしろ、生活保護受給申請時に地方議員を同席させるほうが、市職員からは「議員を同席させなければ受給が認められない何らかの理由」があると判断し、徹底して受給を認めない理由を探す。財源が厳しい時代、当然の措置だ。

 生活保護受給世帯は、ここ10年でみても右肩上がりで増え続けている。2000年には100万世帯を切っていた受給世帯数は今年2014年には約160万世帯にまで増えた。受給者総数でみれば約216万人だ。日本の全人口当たり約1.7%(以上、厚生労働省調べ)、100人に1人か1人が生活保護受給者という割合である。ちなみに全国でも生活保護受給世帯・者数が多いといわれる大阪市では約20人に1人という割合だ(大阪市調べ)。

 では、生活保護受給を申請する人たちとはいったいどんな人たちなのだろうか。神戸市のほか京都市、大阪市のの市役所福祉行政担当職員の体験を基にその様子を再現する。

ケース1:刑務所出所後間もない申請者

――刑務所出て、世話してくれるNPOに頼んでアパートも借りたよって、保護、出してや。もうすぐ50代で懲役帰り。働き口もあらへんわ。今月中に頼むで!

市職員 生活保護というのは自立を促す制度なんです。ずっと保護するというわけにはいきませんが……。いま、働けない理由は何ですか?

――病気や! 働かれへんちゅう病気! アル中やし体、弱いねん。

市職員 この前、刑務所から出たばかりやないですか? そないにお体悪いんですか?

――悪いゆうたら悪いんじゃ。お前、市民に対する口の利き方知らんのか? 上司呼べ。わいは創価学会にも入ってるねんで。保護通るやろうが。公明党の議員先生通せばお前の首なんか一発や!

市職員 創価学会さんも公明党の先生も関係ありませんよ。働けない理由を伺っているのです。

――保護は国民の権利やろが! 銀行が企業に融資するんと一緒とちゃうか?

 およそこんなやり取りから、市職員は何とかこの申請者にとっていい方向に持っていこうと知恵を絞る。受給を認める要件が整っていれば認め、整っていなければ他の行政サービスや各種施設の紹介も検討する。

 なお生活保護申請をする者が、創価学会や公明党、共産党の名前を出し生活保護受給決定を迫るのは、いわば常套句。彼らが実際にこれら団体に入っているかどうかもわからない。仮に入っていたとしてもそれによって行政側が便宜を図ることは、「一切ない」(神戸市A係長)。また創価学会、公明党、共産党も、この手の話にはいずれも迷惑を被っている現実がある。

 結局、この申請者は目ぼしい資産がないこと、現段階で就職口が決まっていないなどの理由から、生活保護受給決定に至ったという。

ケース2:夫のDVから逃げてきた元外資系航空会社のCA

――子どももおります。夫のDVが酷く、もう限界です。今、私がとても働ける状態ではないので。何とかお助け願えないでしょうか……?

市職員 失礼ですが預貯金などの資産はお持ちでしょうか?

――はい。1000万円ほど貯金がありました。でも、それは主人が通帳も印鑑も持っていて。お恥ずかしい話ですが、それだけの貯金が今あるかどうかもわからないのです。

市職員 現実的には、離婚して頂いて、預貯金ゼロという証明がなければ生活保護は認められません。まずは預貯金などの資産状況を証明して頂けますか?

――今、私が家に戻ると、主人から殺されるかもしれません。それができないからここにやってきたんです。両親ももう他界し、友人の家にお世話になり続けるわけにもいかないので。

市職員 あなたの場合は、まず資産状況が生活保護の要件を満たしていないので現状では受給は無理です。DVの相談窓口を紹介させて頂くのでそちらに行って頂けますか?

――このまま今日は帰れと仰るのですね……。お手間取らせました。申し訳ございません。

 顔や体の痣がなければ、化粧をすれば美人だろうなというこの元CAは憔悴しきった様子で生活保護担当の窓口を後にした。婚姻継続中で、現状では別居状態といえども本人名義の資産も1000万円近くあり、またDVによる精神疾患を証明する診断書もこの日は持ってこなかった以上、生活保護受給の要件を満たしていない。なので、この日は受給には至らなかった。

 もっとも行政からみれば、この元CA女性ならいくらでも働き口があると判断する。このケースでは実際に生活保護受給が認められることは極めて困難というのが現実だ。

預貯金・資産なし、精神障害……資格さえ整えれば生涯受給が可能

 複数の市の福祉担当者と生活保護受給者の話を総合すると、生活保護受給とは“資格”が整っていれば誰でも受給は可能だ。生活保護の手厚い庇護に守られるには、まずその資格を取得する必要がある。

「預貯金ゼロ、持ち家など資産なし。病院でうつ病などの診断書を取得、できれば精神障害者2級まで揃えれば、もう生涯、生活保護受給が受け続けられます。自立のために就職したり、生活保護費を貯金したり……そんなことをすると資格剥奪となる。生活保護からの抜け出しです。抜け出そうとする人はほとんどいないのが現実です」(神戸市A係長)

 本当に福祉の網にかからなければならない人が、その網から洩れ、網から洩れるべき人間が福祉の恩恵を被る。これが日本の福祉の現実だ。どこかおかしいと思わずにはいられない。

(取材・文・写真/秋山謙一郎)