リスクでしなかい危険ドラッグの摂取

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「吸引運転」による交通事故が連日のように報道されたり、包丁で自分の腹を切って腸を引っ張り出し、挙句の果てに両親を殺害したり……。2014年はまさに「危険ドラッグ元年」ともいうべき年だった。各地で吸引後の運転による事故や、精神錯乱状態による事件が相次いだ。これに伴い、死傷者も数多く出ている。

 規制されては成分を変える“いたちごっこ”が続く中、2014年9月までの9カ月間で、危険ドラッグ使用による死者は全国で74人にも及んでいる。薬物に詳しいA氏が語る。

「合法ハーブと呼ばれていた5〜6年前のモノは大麻と同じような効き方で、こう言うのも変だけど“安心”できたんだ。でも規制に次ぐ規制で、第6世代以降のネタは、もはや何が入っているかわからない。とてもじゃないが怖くて手を出せないよ」

嘔吐が4時間続き、翌日は無断欠勤してクビに

 自身も危険ドラッグを使用していたというA氏曰く、「覚せい剤や大麻のほうが安心」だというから恐ろしい。

「俺がやめたのは2年前のこと。あるドラッグを吸った直後、猛烈な吐き気に襲われ、やばいと思って洗面所で嘔吐しまくった。薬物を分解しようと水に大量の砂糖を入れて飲んだけど、なかなか吐き気が収まらない。そんな状態が4時間ほど続いてね。ふと見ると、太ももや腕に蕁麻疹ができていた。少し落ち着いてきたのでパソコンに向かったら、画面のブツブツ(ドット)がはっきり見える。鏡を見たら、目が真っ赤になり、しかも瞳孔がパックリと開いちゃってたんだ」(A氏)

「このままでは死ぬかもしれない」と思いながらも、事が事だけに救急車は呼べない。「大丈夫だ、オレは死なない」と言い聞かせ、必死に耐えること8時間。朝になり、ようやく“効き”が抜けるものの、仕事先に連絡する気力さえなく無断欠勤。翌日もだるさは抜けず欠勤、そのままクビになったという。

鼻血が4日続き、やめた今でも耳鳴りに悩まされる

 どんな症状に見舞われるかわからないほど危険であるにもかかわらず、使用者が後を絶たない理由の一つは「セックスがいいから」だという。彼女との性行為で2年ほど使用していたという別の人物、B氏が続ける。

「気分が高揚した上、皮膚感度も上がるため全身が性感帯になります。男はなかなか達しなくなるんです」

 B氏いわく、タバコのフィルターを切り、逆側の葉を捨てて、そこにハーブを詰め込んで火をつけるのが吸引法だとか。何度目かの規制を受けた半年前、新たなドラッグを3種類買ってきたという。緑の葉に白い粉がまぶされたもの、赤い異物がまざったものなど「初めて目にするタイプ」だったが、気にもしなかったそうだ。

「普通は1分ぐらいでボーっとしてくるんですが、1つ目のハーブを吸っても感覚が変わらないので、2つ目のハーブを少し多めに吸引、さらに3つ目と立て続けに吸いました」

 次の瞬間。ポタポタ、と彼女の顔に赤い液体が落ちた。鼻血であった。

「慌ててタオルで押えましたが、みるみるうちに出血量が増えて、タオルはすぐに真っ赤になりました。ネットで鼻血の押さえ方を読み、上を向いて目と目の間を押したら、どうにか止まりました。ふー、と一息ついたら、またもやドバドバと出てきて……。布団が血で真っ赤になるし、でも救急車は呼べないし……。我慢して一夜を過ごしたんです」

 “効き”を脱した翌朝も鼻血は続き、ようやく治まったのは4日後のこと。今度は耳鳴りに襲われ始めた。引き続き、B氏の証言。

「キーンという音が両耳からするんです。医者に行きましたが、原因を聞かれても言うに言えず、今も耳鳴りに悩まされています。たまに偏頭痛もします。危険ドラッグは2年ぐらい前からまるで効かなくなってます」

 性行為に関しても、快楽を得るどころではないとか。

「正直、セックスどころじゃありません。ブルブル震えてクローゼットに閉じこもったまま出てこなくなった女のコもいたし、全裸のまま半狂乱で家を飛び出そうとしたコもいました。また、(効きが)キレた後はすごくダルいし、眠りも浅いし、気力がなくなります」(B氏)

 一時の快楽を味わうために払う代償は想像以上に大きい。相次ぐ規制で常習者さえ服用しなくなった今、危険ドラッグは文字通り「危険」であり、絶対に使用してはならない薬物なのだ。

(取材・文/稲垣 翼 Photo by Alpha via Flickr)