投票したい党がない国民…関心は「政治より景気回復」|田原総一朗コラム
11月25日、政府が公表した11月の月例経済報告で、景気の基調判断を「個人消費などに弱さがみられる」とする一方で、「緩やかな回復基調が続いている」と維持した。
また、個人消費の回復が遅れていることを踏まえ、景気下押しのリスクとして新たに「消費者マインドの低下」を指摘した。安倍内閣による消費税先送りは、こうした個人消費の低迷が背景にあるだろう。
そして、アベノミクスの効果も不安定だ。今年4月の消費増税でも、消費の落ち込みは予想以上に大きかった。これを受けて東京株式市場は低迷し、10月には日経平均株価が一時的ではあるが1万5000円を割り込む結果となってしまった。
日銀は「デフレマインドからの転換が遅れる懸念がある」として、10月31日に追加の金融緩和策を決めた。長期国債の買い入れを30兆円増やすという大規模なもので、これにより日経平均株価は一挙に1万7000円を突破した。もっともこの高株価が長く続くわけではないことは、政府はわかっている。
また、内閣府が11月17日に発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値も年率換算で前期比1.6%減となり、想定よりもはるかに悪い2期連続のマイナス成長であった。
アベノミクスは失敗だったのか?だから、国民としては、「こんなに景気が悪いのに、選挙などやっている場合か。景気対策を優先しろ」と思うのが正直なところだろう。
一方で、安倍首相も経済を第一とし、内閣改造によって次の手を考えていたはずだ。しかし、小渕優子議員や宮沢洋一議員らの「政治とカネ」の問題が噴出してしまい、対応に追われたことは計算外だった。
さらに、14年秋の国会では、集団的自衛権のほか来年の消費増税問題や法人税減税、カジノ法案、労働者派遣法など議論されるべきことが山積していたのに、解散によってすべてダメになってしまった。
また、アベノミクスの「第三の矢」である「成長戦略」に必要な改革も不明瞭だ。この第三の矢を具体的に実行していくための施策をしっかり打ち出し、景気を回復させていくことを国民は望んでいたのに、「政治とカネ」問題ばかりだ。
国民が飽き飽きしていたところに、「今のうち解散」となり、第三の矢の目玉としていたカジノも、解散で法案が流れてしまった。これでは、国民の心が離れてもしかたがない。どこに投票していいかわからない国民も多く、今回の投票率も下がってしまうのではないだろうか。
一方で、政界自体も急速に変化している。たとえば若い人たちと話していると、自民党の「派閥」を知らないことが多いのだが、これは、「今どきの若者は、派閥も知らない」ということではない。是非は別として自民党の存在感が弱まっているのだと思う。
しかし、僕は今の政治や政治家が劣化しているとは思わない。そもそも経済について言えば、僕が子ども時代を過ごした戦前戦後は今とは比べものにならないくらいひどかったし、戦争の爪痕も生々しく残っていた。そんな時代を経験しているから、「今の時代は悪い」とは考えていない。
もちろん課題はたくさんある。「消費税は反対か」と聞かれれば、みんなが反対するに決まっているが、では「日本の財政が破綻してもいいか」と聞かれれば、それもイヤだと答えるだろう。
それに、「増税する」と言ったのに実施しなかったら、日本政府の力が弱まったり、アベノミクスに成果が出ていない証拠だと世界中に知らしめることになる。
原発も同じで、本当はないほうがいいけれど、では電力がなくてもいいかと聞かれれば、そんなことはない。
このように、課題は山積しているのに、なかなか結論が出ない。だからこそ、世の中は面白いのだが。
これから与野党はどのような選挙戦を見せるのか。まずは、国民が魅力を感じる具体的かつ合理的な経済政策が求められる。
田原総一朗(たはらそういちろう)1934年滋賀県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、岩波映画を経て、東京12チャンネル(現テレビ東京入社)に入社。撮影中にインタビュアーの求めに応じて性行為に及ぶなど「突撃取材」で名を馳せ、水道橋博士から「日本で初めてのAV男優」と評される。原発報道をめぐって会社と対立、退社後はテレビ朝日系『サンデープロジェクト』(惜しくも終了)、『朝まで生テレビ!』のほかBS朝日『激論!クロスファイア』などで活躍。著書や共著も多く、『日本人と天皇 - 昭和天皇までの二千年を追う』(中央公論社)、『80歳を過ぎても徹夜で議論できるワケ』(角川書店)、堀江貴文氏との対談『もう国家はいらない』(ポプラ社)のほか百田尚樹氏との対談『愛国論』(ベストセラーズ)も14年12月に発売予定。
(撮影/佐倉博之)