犯罪に欠せない使用者不明のトバシ携帯

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 警察庁は12月1日、2014年10月までに起きた振り込め詐欺(※母さん助けて詐欺)の被害額が過去最悪の約293億9000万円に達したことを発表した。一向に減る気配を見せない、振り込め詐欺。こうした詐欺のみならず、危険ドラッグの売買など犯罪に使われているのが、通称「トバシ携帯」だ。

 トバシ携帯とは、第三者が契約し、売却することで使用者の身元がわからなくなった携帯電話のこと。身元不明の携帯電話のため、しばしば犯罪で使用されている。そのトバシ携帯を安定供給は非常に難しいのだが、昨今、新たな「供給源」が勢いづいているという。

「それはペーパーカンパニーを使った『法人系トバシ』ですね」と語るのは、詐欺組織関係者のHだ。その内情をこう話す。

「これまでトバシ携帯を作るのには基本、名義人役者を使った個人契約でした。でも、最近は詐欺組織も手がこんで来た。出資して休眠会社を起こし直し、この法人名義で携帯電話を契約するわけです。個人に比べて一度に多くの回線を契約できますからね。でも、この回線を現場の人間が使うことはありません。多くは『稼業携帯』といって、詐欺組織の関係者が横の連絡に使う用に作られます。まあ、警察の捜査までに時間のかかるタイプの投資系詐欺や、高額商品の『送りつけ商法』には使われますけどね」

 法人代表になるのは、ホームレスなどの名義人役者。初回20万円の謝礼と月々5万〜15万円ほどの名義使用料金を払うという。それほどのコストをかけてでも、トバシ携帯は裏稼業人には必要というわけだ。

レンタル携帯業者を設立してしまう『仕込みレンタル』

 また『法人トバシ』とは別に『仕込みレンタル』という手法も、今のトバシ携帯を作り出す方法として主流になりつつある。通常、詐欺組織は偽造免許証などを使って騙し、レンタル携帯業者から携帯回線を借りて詐欺行為を行う。「仕込みレンタル」はそのレンタル携帯業者自体を自分たちで出資し、作ってしまうというものだ。

「当然、その電話回線が詐欺に使われば、レンタル業者にも警察の捜査の手が伸びますが、表向きはレンタル業者も、詐欺行為に使用された“被害者”なわけです。これが仕込みのレンタル業者だったとしても『騙されて契約されてしまった』と言えば、警察もそれ以上、判別するのは難しい。捜査に時間もかかるというわけです」(H)

 このタイムラグの間、仕込みレンタル業者が貸与した電話回線は、継続して詐欺などの犯罪行為に使用が可能。これは、大量のプレイヤー(詐欺店舗の現場要員)を使って一気に短期間で詐欺を仕掛けるような場合に描かれる絵図なのだ、とHは言う。

「詐欺の店舗からすると、トバシは安定供給が必要な一方で、できるだけ削りたい経費のひとつ。だからこそ、これまで関係していた道具屋(トバシ携帯などを仲介販売する裏ツール業者)も足下を見た商売をしてきた。そんななか、大きな資本をもった詐欺組織ほど、自腹でトバシを確保するようになってきているんです」

 これも、冒頭で述べたように、巨額の詐欺事件で詐欺組織が大儲けしているからこそ。資金力にモノを言わせた犯罪組織の暗躍は今後も続きそうだ。

鈴木大介「犯罪をする側の論理」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心に取材活動をつづけるルポライター。著作に、福祉の届かない現代日 本の最底辺の少年少女や家庭像を描いた『家のない少女たち』(宝島社)『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)、『家のない少年たち』(大田出版)『最貧困女子』(幻冬舎)などがある