全米リコール騒動のタカタで苦境に立たされた女帝
エアバッグ大手・タカタの大量リコール(回収・無償修理)問題が、ついに全米に波及。米道路交通安全局(NHTSA)は、11月26日、リコールを全米に拡げるように命じた。
「フロリダ州など高温多湿地域のみのリコールが適当」
とするこれまでのタカタの立場が崩れたことで、同社の経営に甚大な影響を与えることになった。
売上高5600億円の東証一部上場企業タカタは、自動車会社に部品を供給するメーカーなので、一般的な知名度は低いが、世界20カ国に生産拠点を持ち、4万3000人の従業員が働く売上高5600億円の東証一部上場企業である。
1933年創業の繊維メーカーで、戦中はパラシュート材料なども作っていたが、創業者の高田武三氏が、戦後、渡米して目にしたシートベルトに着目、10年にも及ぶ研究開発の末、1961年、製品化に成功した。
以降、タカタは、シートベルトの普及に続いてエアバック、チャイルドシートと、自動車安全部品のトップメーカーとして君臨、世界の自動車メーカーに供給してきた。
「命を救う装置が、命を奪う装置になるなど許されない!」
11月20日に米議会で開かれた公聴会では、議員らからタカタへの批判が集中。そうした情勢を受けての全米リコールとなった。
タカタの急成長を支えたのは、創業者の長男に生まれ、1974年から社長として牽引してきた高田重一郎氏と妻の暁子氏である。重一郎氏は2011年に死去。後は、夫妻の長男・重久会長が継いだが、暁子氏は、かつて常務として経営に関与したことから、今もアドバイスを送るという。
対外的な活動も活発に行っており、暁子氏は、「交通事故の犠牲者ゼロ」を目指すタカタ財団理事長。また、チャイルドシートの普及に尽くしたのも暁子氏で、2000年に道路交通法が改正される際、チャイルドシートの産学官の連携組織「チャイルドシート連絡協議会」が結成され、代表幹事に就いた。
そんなことから「タカタのゴッドマザー」と評される暁子氏だが、安全普及のための製品が「危険部品」と認定されたことに、心を痛めているのは想像に難くない。
また、リコールで既に800億円を投じ、全米に拡がったことで1000億円以上の追加対策費が必要となり、経営が揺らぐ事態となったことも厳しく受け止めていよう。
私は、タカタ広報室を通じて、取材依頼をしたが「お答えできる状況にない」と、取材は叶わなかった。
先行きが見えないなか、発言を自制しているのはわかるが、交通安全対策の専門家として長年、取り組んできた暁子氏の今の意見を聞きたいと思っている人は少なくないはずだ。
伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。『「欲望資本主義」に憑かれた男たち 「モラルなき利益至上主義」に蝕まれる日本』(講談社)、『許永中「追跡15年」全データ』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)など著書多数