ミス応酬の中、勝敗分けた「意欲」の差

走塁でも魅せた先発・田窪 龍馬(大手前高松)

 春は県大会準優勝で初の四国大会出場。今夏香川大会においても初甲子園まであと1アウトまで迫った新鋭・香川県大手前高松。対するは、今年4月に丸亀市立飯山中・香川大学付属坂出中で軟式野球部を全国大会に導いた丸亀OBの長尾 健司監督が就任し、古豪復活への歩みを進めつつある高松商業。

 高松市内の新旧強豪対決は、双方失策5つずつ。8対5で香川県大手前高松に凱歌が上がった試合云々よりも残念な内容だった。

 とはいえ内容を精査していくと、やはり結果は妥当であったことがわかる。如実だったのは走塁面の差だ。香川県大手前高松は「個の力は高松商のほうがあるので、向こうを受身の状態にしてしまおう」と指示した山下 裕監督の意図通りの盗塁9個。「脱進塁」は新チームでも敵を席巻している。

 中でも、1回表二死一・三塁から一走の6番・田窪 龍馬(2年・投手・左投左打・178センチ70キロ・高松市立紫雲中出身)と、三走の5番・木村 翔(1年・左翼手・右投左打・高松市立太田中出身)が普段の練習から試みているダブルスチールで奪った3点目。そして9番・宇良 翔太(2年主将・中堅手・右投右打)による8点目のスクイズにつなげた7番・長嶋 拓哉(1年・右翼手・右投右打・高松市立太田中出身)の二盗は試合を決定付けるものとなった。

 また、投手陣も左腕の田窪を先発とし、手元で押し込めるストレートを持つ門内 快航(1年・右投右打・高松市立桜町中出身)を中に挟み、最後は最速137キロの快速球で勝負する香川 瑞貴(2年・右投右打・180センチ68キロ・高松市立紫雲中出身)で締める「打たれる前に交代させていく」ベンチワークが奏功。5失策でも5失点で留める要因となった。

安西 翼(高松商)

 ただ、香川県大手前高松の戦い方は戦前から予見できたもの。それを防ぎきれなかった高松商業は、春に向けて大きな課題を残す敗戦となった。

 能力の高い選手はいる。高松市立太田中2年時に全日本軟式野球選手権ベスト8進出の原動力となった大熊 達也(1年・投手・右投右打)は8回から登板し最速135キロをマーク。この日は三塁手で出場し2回には大会11号ソロを放った5番・酒井 元己(2年主将・三塁手兼捕手・右投右打・171センチ71キロ・綾川町立綾南中出身)もパンチ力と強肩を備える。

 となれば、この冬にはこれらの能力の「発揮の仕方」を鍛える必要があるだろう。代表例は1番を打つ安西 翼(1年・中堅手・右投左打・170センチ56キロ・高松市立玉藻中出身)である。

 昨年の第44回ジュニアオリンピックで100m走に出場。1回戦では5打数4安打と躍動した安西だが、この試合でも初回の二盗・遊ゴロでの三進は、俊足の片鱗を十分に見せるものだった。その瞬発力は、昨年の中学陸上短距離王者・佐野日大1年・五十幡 亮汰(右翼手)とも十分に伍して戦える。

 しかしながら、その後の打席は一塁ゴロ・犠打に外野フライ2つ。現時点でインコースを突かれた時、脚を活かす術を持っていなかったのは残念だった。

 ただ、これも経験である。全力疾走を続けられる体力・精神力と、脚を活かし切る打撃・守備・走塁の技術力が備われば、安西は選手として「全国のてっぺん」を取れる可能性が大いにある。それだけは断言しておきたい。

(文=寺下 友徳)