淡々とした試合運びの中、テンポづくりが一枚上手の蕨が延長戦を制す

犠被を放つ山崎(蕨)

 試合内容は非常に淡々としたものだった。延長10回を終え、スコアボードに並べたゼロの数は両チーム合わせて20個。両校の投手の好投もあるが、ランナーが出るも、返すことができずに攻撃が終わる。そうでなければ、ただ三者凡退が続く試合であった。

 試合が動いたのは延長11回表。蕨は、1番中野からの好打順。その中野は、淡々とした雰囲気を晴らすような一二塁間を破る安打で出塁。この一打で、ここまできっちり投げ抜いてきた朝霞西のエース小島(光)は投球リズムを崩したのか痛恨のボーク。これにより、無死二塁のチャンスとなると、2番小島はしっかりと犠打を決め、蕨は無死三塁とさらにチャンスを広げることに成功する。

 続く3番山崎の中前への当たりを、朝霞西の中堅手吉原がダイビングキャッチを試みるが、僅かに及ばず、適時打に。三塁走者・中野は喜びを噛み締めながらの生還し、蕨がついに投手戦の均衡を破り1点を先制する。

 そしてその裏、蕨の木下が朝霞西の攻撃をしっかりと抑え、延長戦を制した。

 蕨がこの決勝点を生み出すことができた理由―。11回裏をきっちりと押さえることができた理由はなんであったか。それは、流れを引き寄せる上手さがポイントとなっていると考えられる。

エースの木下(蕨)

 10回裏の蕨の守備に注目してみると、しっかりと3人で朝霞西の攻撃を終わらせていた。その回、蕨エースの木下は、朝霞西の先頭打者石黒にカウント3-0と有利なカウントを作ってしまった。

 しかし、その回まで投げ抜いてきたエースは落ち着いていた。続けざまにしっかりとストライクを取ると、迎えたカウント3-2からの6球目で打者を見事外野フライに打ち取った。その後の打者二人も打ち取り、結果は三者凡退。カウントを悪くしながらも、落ち着いたマウンド裁きで流れを引き寄せたうえで、11回表の攻撃へと繋いだのである。

 また、11回裏の蕨の守備では、先頭打者に四球、次の打者には犠打を許しまう。しかし、そこで内野全員がマウンドに集まり、一呼吸おく場面が見られた。これによって、崩れかけた試合の流れを自分たちの力で取り戻したのである。結果としては、残りの打者を凡退させ見事勝利を手にすることができた。

 延長戦にまでもつれ込む試合であったため、両チームの実力は均衡。ただ一点、『試合の流れ』というものを相手よりも上手くつかんだチームが勝利しただけであった。

 この勝利で県大会出場を決めた蕨。今夏、粘り強い野球で準々決勝に進出した蕨。再び旋風を起こすことができるのか注目してみたい。

(文=編集部)