能代松陽がサヨナラ勝ちで決勝進出

 昨秋の県大会で準優勝し、今春の県大会で優勝している大曲工。田代 大智という好選手もおり、今夏、甲子園に近い位置にいる。対する能代松陽は、前身が2010、11年に甲子園に出場している能代商で、昨年度、女子校の能代北と統合して誕生した。能代商として最後の夏となった12年、能代松陽として初めての夏となった13年は、いずれも代表になった秋田商に敗れた。とはいえ、能代松陽は夏に強い印象がある。

 大曲工の先攻、能代松陽の後攻で始まった試合は序盤、投手戦となった。

 大曲工は4回まで能代松陽のエース・吉田昂希の前にヒットが出ない。1回表に先頭の佐々木 将が死球で出塁しただけで走者も出せなかった。一方、能代松陽は走者を出しながらも得点に結びつけることができず、0-0で試合は進んだ。

 5回表、大曲工は1死から5番・飯塚翔太がセンター前ヒットを放ち、出塁する。続く7番・佐々木貴弘がエンドランを決めてライトへヒット。1死1、3塁とし、8番・三浦昌也がライトへフライを打った。三走・飯塚がタッチアップ。しかし、9→4→2と中継がつながり、ホームでタッチアウト。先制とはならなかった。

 その裏、能代松陽は1死から1番・清水徳馬が右中間へ二塁打を放つと、 2番・小林俊己への2球目が暴投となり、三塁へ。場面は1死3塁となり、小林の打球は内野で大きく弾み、ライトへ抜けていった。待望の先制点が能代松陽に入った。

 7回、大曲工の打線が爆発する。この回、先頭の4番・高橋康太が中安を放ち、盗塁で二塁に進むと、5番・武田龍成のライトへのヒットで同点。武田は送球間に二塁に進むと、6番・飯塚が犠打を決めて1死3塁。7番・佐々木貴はライトへのタイムリーを放ち、8番・三浦が中安で続いた。9番・中邑一生への初球が暴投となり、1死2、3塁から中邑の打球は左中間を割って2人がホームに返った。大曲工が一挙、4点を奪って逆転。第1シードの意地を見せた。

 ところが、能代松陽もこのままで終わらない。8回裏、この回、先頭の2番・小林俊が一、二塁間を抜くヒットで出塁すると、3番・高田将太が犠打を決めて二塁に進む。4番・保坂柊平の一ゴロで2死3塁となった。点差は3点。ノーアウトの走者がいても、得点にならない可能性があるのが野球である。

 しかし、能代松陽に風は吹いた。5番・石山凌が四球で歩くと、6番・藤田健志の打球はセカンド後方、ライトの前にポトリ。三走・小林俊がホームを踏み、1点を返すと、2死2、3塁から7番・村上久仁がレフトへヒット。2人が生還し、同点に追いついた。

 9回は無得点に終わった両者。試合は4-4で延長に入った。

 10回表、大曲工は1番からの攻撃だった。1番・佐々木将がレフトへのヒットで出塁すると、2番・鈴木健太が犠打を決め、3番・田代がセンターへフライを放って二走・佐々木将は三塁へ。4番・高橋が四球で歩き、2死1、3塁から5番・武田龍の打球は三遊間を破って大曲工が勝ち越した。大曲工は裏を締めれば、昨秋、今春に続いて決勝進出が決まり、悲願の甲子園へ王手をかける。

 10回裏、大曲工のエース・佐々木貴は1死からストライクが入らなくなり、2者連続で四球を与えた。能代松陽は1死1、2塁から、8番から登板していた9番・野呂田遼太郎に代打・芳屋快を送る。緊張の打席。芳屋は何度も肩で息をする。見逃しと空振りで2ストライクと追い込まれたが、3球目をファウルした。そして、4球目をセンター前にヒット。この打球に、大曲工のセンター・田代が慌てたのか、打球を前に落とし、この間に村上がホームへ。同点に追いついた。

 1死1、3塁。1人返れば、能代松陽のサヨナラ勝ちだ。ここで、大曲工が動く。エース・佐々木貴に代えて、なんと、センターを守っていた田代をマウンドへ送った。スタンドもざわめいた。

 投球練習を終えて、プレー再開。2球、ボールが続いた後、1ストライクをとったものの、1番・清水に四球を与え、場面は1死満塁となった。迎える2番・小林俊はこの試合のキーマンとなっていたが、レフトファウルフライに打ち取った。2死満塁で3番・高田。スタンドは1球、1球に固唾をのむ。

 1ストライクの後、2球ボールが続き、4球目はファウル。5球目がボールとなり、フルカウントとなった。そして、6球目。134キロの直球は高めに外れた。サヨナラ押し出し四球。

 何が起こったのか、という感じで呆然とするマウンドの田代。各ポジションでうずくまる大曲工の選手たち。打者・高田は一塁へ走り、三走・石川がサヨナラのホームを踏んだ。

 大曲工の選手たちは動けず、ベンチからも出てこない。おそらく、佐藤仁志部長や阿部大樹監督に促されて、やっとベンチから出てくる。レフトは三塁塁審に起こされ、センターはライトに抱えられて、ようやく整列した。

 試合に勝敗は付き、明暗が分かれたが、両者の諦めない姿勢が詰まった好ゲームだった。

(文=高橋 昌江)