全員野球で巻き起こす乙訓旋風

 下馬評を覆し乙訓が優勝候補の福知山成美を破った。

 福知山成美の先発はエース左腕の石原 丈路(3年)。どちらかと言えば立ち上がりは良くない方だが、この日は初回を内野ゴロ2つと三振に打ち取る好スタートを切る。前回の登板では高めに浮いていた変化球が低めに決まり、カウント球でも結果球でも有効だった。その後も安定したピッチングが続き3回を4奪三振でパーフェクト。スタメン9人中、左打者が8人並ぶ乙訓打線を寄せ付けなかった。

 ただ援護したい打線も積極性はあったが3回までにヒットは1本。福知山成美打線の早打ちと、石原の好投によりテンポ良く進んだ試合はわずか25分で3回を終了した。

 静かな序盤戦から一転、4回からは緊迫した展開が続く。福知山成美は4回、先頭の2番・前田 涼太(3年)がレフトオーバーのツーベースヒットで出塁すると3番・西田 友紀(3年)がレフト前ヒットでチャンスを広げ、4番・西元 正輝(2年)がタイムリーヒットを放つ。いずれも早いカウントから振って行く攻撃を見せ、6球で先制点を奪うと、木村 典嗣(3年)の内野ゴロの間に1点を加えた。

 しかしその裏、石原が乙訓の1番・坂本渉浦(3年)に初ヒットを許すと2番・三木 郁弥(3年)をフォアボールで歩かせてしまう。乙訓は無死一、二塁と初めてチャンスを作ると3番・平石隼也(3年)が右中間へタイムリーヒットを放つ。

 無死一、三塁から4番・秋田嵐(3年)の打球はピッチャーの頭をワンバウンドで越えてセカンドベース付近へ。捕球体勢に入っていたセカンド・大村 凌(2年)がベースを踏んで一塁へ送球すれば併殺が完成するはずだったがこの打球を弾いてしまう。その間に三走・三木がホームに還り同点。

 バントで一死二、三塁と一打勝ち越しのチャンスを作ると6番・太田健裕(3年)の当たりはセカンドゴロ。ゴロゴーで突入した三走・平石を刺そうと大村はホームへ送球するがこれが大きく逸れる暴投となり平石に続き秋田までが生還。乙訓が敵失に乗じて試合をひっくり返した。

 追いつきたい福知山成美は5回の攻撃で先頭の8番・木村宗太郎(3年)がヒットで出塁。しかし、石原がバント失敗、大村が併殺打に倒れ無得点。2点のビハインドを背負ったまま終盤を迎える。

 7回には一死から木村典、中島 僚祐(2年)が連打を放ちチャンスを作る。木村宗のデッドボールで満塁になると石原がレフトへ犠牲フライを放ち1点を返す。更に二死一、二塁から代打・所 耕太郎(3年)が初球を捉えると乙訓のショート・西郷和志(3年)のグローブを弾くレフト前へのタイムリーヒットとなり同点に。二走・中島が生還を果たした時、監督も部長も選手も三塁ベンチの誰もが右手を突き上げていた。

 試合を振り出しに戻した福知山成美だが終盤は7回二死二塁、8回一死満塁、9回一死一、二塁とピンチの連続。それでもいい当たりをされながらもなんとか凌ぎ、試合は4対4のまま延長戦へ。

 10回は共に二死からランナーを出したが得点には至らず。福知山成美は11回に二死から中島がレフト前ヒットで出塁すると盗塁を決め得点圏に進む。待望の勝ち越しのチャンスに木村宗がレフト前にタイムリーヒットを放ち、4回の先制時以来となるリードを奪う。

 追い詰められた乙訓はその裏、代打・久保田祥太(3年)が初球をセンター前に弾き返すと続く西郷がストレートのフォアボールで歩く。9番・小林秀和(3年)が1球で完璧なバントをサード前に決めると同点のランナーが三塁に、サヨナラのランナーが二塁に進む。

 打順がトップに返ると2ボール1ストライクから坂本が狙いすましたかのようにストレートをフルスイング。打球は右中間への逆転サヨナラ2点タイムリーツーベースヒットとなった。

 劇的な勝利を飾った乙訓、ヒットは10本放っているが長打はサヨナラを決めた坂本の1本だけ。スラッガーがいなくとも全員がチャンスメーカーにもつなぎ役にもなれる打線は幾度となく好機を演出し、三木、上堀の継投も決まった。

 全員野球で勝利した乙訓は、これで京都成章、京都翔英、福知山成美と強豪を3タテ。第2試合で峰山が敗れたため、京都は龍谷大平安を除く全てのシード校がベスト8を前に姿を消す波乱の展開。最激戦区で旋風を巻き起こす乙訓が一気に優勝戦線へ名乗り出た。

(文=小中 翔太)