「無料旅行」招待、厚遇すぎる「海外就職」、偽装「お見合いツアー」…海外の「特殊詐欺拠点」におびき出す手口、今こそ知っておきたい“基本”とは
前例に学ぶ
昨年12月にカンボジアへ渡航した福岡の大学生が、そのまま消息を絶ち現在も帰国していないことが明らかになった。福岡県警によれば、県内では同様の事案が約10件確認されており、いずれも海外の特殊詐欺拠点と関連している可能性が高いという。
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この件が注目された数日後、カンボジアの首都・プノンペンでは、特殊詐欺に関与したとみられる日本人15人が拘束された。これまでも多数が特殊詐欺の容疑者として日本に移送されているが、日本大使館によれば、特殊詐欺の拠点から逃げ出して大使館に駆け込む事例も増加しているという。

一体なぜ、彼らは海を渡ってしまったのか。実のところ、中国・香港・台湾・韓国などではかなり以前から、似たパターンでの失踪事件が多発していた。失踪者の行き先はカンボジアやミャンマーの特殊詐欺拠点。そこで詐欺の片棒担ぎや身代金目的の人質、激しい暴力の対象とされることから、それぞれの政府は2022年夏頃から対応を積極化させている。あわせて、注意喚起や報道も日本より頻繁で詳細だ。
騙されて出国すると、到着後にパスポートを没収される。現地で保護されても、日本では特殊詐欺の容疑者となるケースがほとんど。騙す側からすると、飛行機に搭乗させた時点で“半分勝ち”なのだ。怪しさに早く気付くためにも、これまで海外で報じられた手口を知っておくに越したことはない。
「海外で高額報酬」の甘い誘い
海外へのおびき出しに用意される一般的な“エサ”は「高額報酬の海外仕事」である。いまでは古典的でもあるが、経済的に困窮する人が増えたコロナ禍終盤以降は効果てきめんだった。2022年夏に香港・台湾の両政府が救援に本腰を入れた際も、保護された人の大半がこのエサに食いついていた。
海外就職すべてが詐欺ではないが、駐在員や現地採用として海外での就業経験がある人ならご存じの通り、「海外で合法的に日本人を雇う」という行為はそれなりに複雑な手続きが必要となる。「体ひとつで気軽に」できる海外就職はそもそもあり得ない。
それでもネット上では、怪しい海外求人広告がばら撒かれている。闇バイトではない“普通の海外求人”としてだ。香港警察の注意喚起サイトによれば、主な掲載先はSNS。広告に美しいオフィスや労働契約書の画像を使い、マトモな企業であることをアピールする場合もあるという。
怪しい求人広告のサインも多くのサイトや書籍で紹介されている。多く挙げられている定番ワードは「男女問わず」「経験不問」。日本でも「未経験者歓迎」はブラック企業的な意味で要注意ともいわれるが、海外就職では厳重警戒ワードだ。未経験者に対し、外国人の就業に必要な諸手続きをやってやろうという企業は珍しい。
怪しさを増すキーワード
解説サイトによれば、「男女問わず」「経験不問」に以下の要素が追加されていると、怪しさがさらに増す。
〇「高給」「昇給あり」「宿泊施設あり」「航空券と宿泊施設を提供」などやけに厚遇
〇職務内容と勤務地が漠然としているのに「18〜30歳まで」「タイピング能力必須」など求めているものが具体的
〇「データ入力担当者」「海外カスタマーサービス」「ゲームPRアシスタント」「投資アドバイザー」などよくある職位を提示
求人に応募すると、特殊詐欺集団はチャットなどで“面接”を行う。マトモな海外求人でもよくある過程だが、特殊詐欺集団の場合は雇用契約書や事業登録書などを提示して、会社の合法性や安全性をアピールすることが多いという。香港警察のサイトによれば、偽のエージェント会社が航空券や空港送迎を手配した例もある。
面接官は考える時間を与えないように即座の渡航を促しつつ、親しみやすいキャラクターで信頼関係を築く。信頼関係には怪しさを中和させる効果があるからだ。これを恋愛関係に応用したのが「ロマンス詐欺」だが、「会いに来て」と呼び出して拉致する「ロマンス拉致」のパターンも確認されている。
知人・友人から「高額報酬の海外仕事」を紹介されるパターンも、信頼関係を悪用している。2025年1月にミャンマーで保護された日本人少年は、オンラインゲームで知り合った29歳男から家出を促されていた。男は少年が悩みを打ち明けるような信頼関係を築いた上で、「面倒みてあげるから来れば」とそそのかしたという。
信頼関係が怪しさをかき消す
「無料旅行」も信頼関係を悪用する古典的な手口だ。香港メディアは2025年1月、20代女性2人が別々に渡航したタイで消息を絶ち、身代金で解放された事件を報じた。女性たちをおびき出したのは32歳の女。2人とそれぞれ別のバーで出会い、食事などに誘って信頼関係を築いた上で、「タイ通貨を運べば高額報酬が得られる」と騙して旅行に招待した。
カンボジアで消息を絶った福岡の大学生は、友人が“SNS上の知人”に誘われた「無料旅行」に同行していた。この友人も音信不通となっているが、“SNS上の知人”と一定の信頼関係を築いた上で誘われた、あるいは上記の香港のパターンだった可能性も考えられる。
中国での「無料旅行」は、格安または無料ツアーでまとまった人数を連れて行くこともあったという。近年は特殊詐欺拠点の摘発や中心人物らの逮捕、処刑といった報道が増えたことで注意喚起の効果が高まり、大人数が一度に引っかかる例は報じられていない。
報道が増えたことで人々の警戒心が養われているのは、香港や台湾も同様だ。被害者がゼロになったわけではないが、総数は減少傾向にある。対して特殊詐欺集団は、手口やターゲットを細かくアレンジし続けている。
手を替え品を替え
台湾は手口の変化に敏感だ。2024年2月には、30〜40代の男性をターゲットにした「国際結婚の斡旋」が報じられた。気に入った女性がいなければ偽装結婚の相手になることで高額報酬が得られるという“オプション”を用意して、タイへのお見合いツアーを催行。そのままミャンマーの特殊詐欺拠点に送り込むという手口である。
2025年1月にも、台湾メディアは高齢者を狙った「無料旅行」を報じた。だが、高齢者たちは特殊詐欺拠点でPCの操作方法が分からず、身代金目当てのストレートな誘拐に切り替えられたという。
前述の「高額報酬の海外仕事」は、俳優や伝統芸能のパフォーマーを“一本釣り”するケースが確認されている。2025年1月、タイで消息不明となり後にミャンマーで救出された中国人俳優も、海外進出のチャンスを求めて渡航していた。この事件の前後、中国では同様のパターンで消息を絶った俳優やモデル、台湾ではパフォーマーに関する報道が相次いだ。
おびき出された先が日本だったケースもある。2025年12月、台湾の外交部(外務省)は日本で闇バイトに関与し、逮捕される台湾人が激増していることを明らかにした。2024年は5人だったが、2025年は50人と10倍に達している。撒かれたエサは「無料旅行」や「高額報酬の海外仕事」だった。
デイリー新潮編集部
