だしを取らないけど「毎食みそ汁は飲みたい」飛田和緒の冷蔵庫に必ず入っているもの

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夏休みが終わった飛田さん、9月になって仕事を再開。テレビに雑誌、ウェブ連載と毎日大忙しです。

9月も中旬になってさぞ新米を楽しんでいるのかと思ったら、今年は米不足の影響か「やっと食べたところ」だと言います。

「いつもなら残っている寿司や炊き込み用の古米が、今年は底をつきそうで、そちらのほうが焦っています」。米不足の状況は飛田さんにも何かと影響があるようです。

ごはんが大好きな飛田さんにとってもう1つ大事なのが「おみそ汁」です。小さい頃からカレーライスにも、なんならパン食の時も、というくらい、みそ汁は欠かせないもの。みそ汁偏愛? なのかもしれません。

今は離れて暮らす娘が一番好きなみそ汁は、なんと“具なしみそ汁”だったそう。これは、だし汁にみそを溶いただけのもの。薬味も入れません。いかに飛田家のだしがおいしいかを物語っています。

「始末の料理」連載の第17回は「水だし」。

「だし汁」「だしを取る」と聞いただけで、「うちはムリムリ」という声が聞こえてきそうですが、家庭科の教科書にあるような「だしの取り方」を毎食できる人のほうが、今はレアなのでは。

料理家 飛田さんといえど、お湯を沸かして、かつお節をひとつかみ入れて……なんてやり方はしていません。かといって、だしパックやだしの素を使う訳でもない。なのに、いつでもおいしいみそ汁や、だしのきいた料理が出てくるワケは、冷蔵庫の中の「水だし」にありました。

だしの素をやめたワケ

飛田さんが「だし」を意識するようなったのは、結婚して料理をする回数が増えてから。それまでは、いわゆる粉末の「だしの素」も使っていました。

「実家では、かつお節を毎日かいてだしを取っておみそ汁をこしらえていましたから、だしを取るのは、“あたり前の風景”でした。でも、東京で一人暮らしになると、だしの素やだしパックのようなものを使っていました。手軽で、便利で安価ですから。

だしを意識するようになったのは、結婚してからでしょうか。毎日のごはんのほかに、夫の仕事仲間、私の友だとなどがよく集まり、簡単ですがもてなし料理を作っていました。

料理をする機会が増えたことで、だしの素の味がとても気になり出しました。たしかにかんたんに“おいしく”はなるけど、具を変えても、みそを変えても、おみそ汁の味も煮物の味も同じになる。気になり出したら、使えなくなっていました」(飛田さん、以下同)

だしは煮出さない。水を注ぐだけ

その頃から、「ちゃんとしただしを取らなくては」と教科書通りのだしを取るようになっていたと言います。

初めての料理本を出版したのも、同じ時期だったでしょうか。もしかすると、肩に力が入っていたのかもしれません。

そんな飛田さんのやり方が変わったのは、おいしい昆布をいただいたのがきっかけでした。

「ちゃんとだしを取ろう! と思うようになってからは料理の教科書通りに作っていました。ちょうどそのころ、北海道の知人が真昆布を届けてくれるようになり、それを使い始めたのです。おいしい昆布は、だしもやっぱりおいしい。

鍋ものをやるときは、鍋に昆布と水を入れてしばらくおいてから火にかける。これを繰り返すうちに、“これって浸けておくだけでおいしいじゃない!”と気がついたんです。

すし用のごはんを炊くときも、昆布を浸水させている間に十分に昆布のうまみが出ている。それで水に浸けておくだけでいい、となったわけです。いろいろ試してみると、ひと晩(6時間ほど)はおいてゆっくりと時間をかけることが大切です。

最も簡単な方法ですが、いただいた昆布をおいしく食べるには、一番いいやり方と、それから“水だし”に落ち着きました」

だし素材を水にじっくりと浸けておく水だしの良さに気がついた飛田さん。何より手軽にできるから続けられます。

「まずは昆布水、昆布の水だしからのスタートでした。それから昆布以外もいけるのではないかと、煮干し、かつお節、しいたけと試してみたら、これがとても使い勝手がよくって続けることになりました。

水だしのよさはなんといっても、手軽にできること。保存容器に入れて、水をジャージャー入れればいいのですから」

最後は煮出してとことん使いきる

だし素材にはだし昆布、かつお節、煮干し、干ししいたけなどが知られています。飛田さんは旅先で見つけた飛魚を干した“あご”なども使うこともありますが、水だしに向く素材、向かない素材はあるのでしょうか。

「向かない素材は基本的にないです。どれも水だしでOK。水だしは煮出したものよりも香りが薄いので、慣れるまでは少し物足りなく感じるかも。特に昆布だしは“これがだし?”と思うくらいですが、うまみはたっぷり出ているはず。薄味に慣れないうちはかつお節との合わせだしにするといいですよ。

我が家での使い道はおみそ汁のことが多いので、昆布、かつお節、煮干しを飽きないように順繰りに入れてあります。香りが強い干ししいたけは、時々ですが、今年の夏は、“干ししいたけだし”でそうめんをよく食べましたので、だしを取ったあとのしいたけで煮ものや炒めものもよく作りました」

水だしはどんな料理に合うのでしょうか。

「干ししいたけだしは、みそ汁に使うことはありませんが、昆布やかつお節だしとミックスして汁ものに使ったりします。そうめんつゆもかつお節や昆布のだしだけだと飽きるので、しいたけだしでめんつゆを作ります。

あとはそんなに気にせず使っています。中華料理にだって水だしを使うことも。たとえば、麻婆豆腐やえびチリ、八宝菜などに少しだけ水分を加えるときは水だしで十分。中華料理はどれもパンチがある味なので、水だしでもおいしくできますよ」

水だしはどれくらい日持ちするのでしょうか。途中で継ぎ足してもよい?

「水だしはどれも2〜3日間で使いきります。一回使い終わったら、もう一度同量の水を注ぎ入れます。ただし2回目は1回目よりはうまみは薄くなります。それでもおうちのみそ汁や煮ものに使うなら十分と私は思っています」

水だしをとったあとのだし素材は捨ててしまう?

「いえいえ、水だしを取っただし素材は鍋に入れ、水を2〜3カップ加えて煮出します。これが私にとっての二番だし。沸騰したら弱火にして5分ほど煮ると、多少は濁りますがまだ十分うまみは出ます。だし素材はそれなりにお金がかかりますから、元をとるまでとことん煮出します」

「煮出した煮干しはもうカラカラになるので捨てますが、昆布、かつお節はこのあともまだ使えます。肉と炒めたり、刻んで野菜の即席漬けに混ぜたり。昆布はラップで包んで冷凍保存おき、ある程度量がたまったら佃煮も作れます。かつお節は空炒りしてしょうゆやみりんで味をつけてふりかけに。お弁当のごはんに散らすといいですよ」

昆布やかつお節がなくてもだしは取れる

だしを取るには、これまで紹介しただし素材だけではありません。実はどんなものからでもだしは出ているのです。濃い、薄いはありますが、野菜にも昆布と同じグルタミン酸が含まれていますから。飛田さんがやっているのが野菜の皮や根、ヘタなどの捨ててしまう部分で取る野菜だし(ベジブロス)です。

「基本的にどんな野菜もOKで、特にねぎ類やにんにくやしょうがなどの香味野菜の皮が入ると香りよく、全体がまとまります。ただししゴーヤの種やワタ、かんきつ類の皮や種はたくさん入れると苦みが出ることもあるので量は加減して。1つだけ避けたいのがじゃがいもの皮。緑色になった部分があるとソラニンという天然毒素を含む可能性があるのでおすすめしません」

「野菜だしをおいしくするには、ある程度の量が必要です。下ごしらえなどでも、それほど量が出ない時は、いったんざるに広げて乾燥させるか、冷凍してストックしておきます。量がたまったら鍋に入れ、かぶるくらいの水を注いで火にかけます。沸騰したら弱めの中火で15分ほど煮出し、こしてでき上がり」

野菜だしは、どんな野菜を使ったかで毎回味が少しずつ変わるそうですが、「それもまた楽しい」と飛田さん。だしを取ったらどんな味になるか、塩、こしょうをして味わってみましょう。

「シンプルに野菜だしだけでスープもいいですし、炊き込みごはん、ピラフを作ることもあります。または水だしとミックスとして汁もの、煮もの、鍋のベースに使います。野菜だしだけだとあっさりし過ぎるというときは、はがした鶏皮や鶏手羽、ささ身、鶏ひき肉と合わせるとコクもうまみも濃くなります。お試しください」

フードスタイリストのKさんも水だし派ですが、使うのは“かつお節のアラ”だそうです。かつお節を削るときに出た血合いの多い部分や骨などで、かつお節専門店で購入。冷凍で売られているそう。

「いろいろ試してみたけど、今はこれに落ち着いています。みそ汁にも、煮ものにも使っています」

好みのだし素材が見つかるといいですね。

後編「水を注ぐだけ?飛田和緒が野菜を豪華な「ご飯のおかず」にする”水だし”レシピ」では、水だしの取り方と、だし汁を使った料理を紹介します。

取材・文:相沢ひろみ

水を注ぐだけ?飛田和緒が野菜を豪華な「ご飯のおかず」にする”水だし”レシピ