ジャン・ヒョクジン

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 世界で活躍するアーティストを多数輩出しているK-POPの世界では、年間約100組がデビューすると言われており、その中から成功を掴みとれるのはほんの一握りであるのが現実だ。韓国で一度デビューをしたものの、様々な理由から第一線で活躍を続けられなくなったK-POPボーイズグループたちを再起させようという、新感覚リアリティサバイバル番組『Re:Born』(スペースシャワーTV/ABEMA)が9月27日からスタートする。

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 12組のボーイズグループたちのチーム対抗戦でありながら、K-POPの“ウラ側”にもフォーカスを当て、優勝グループには“正式日本デビュー”という特典が与えられるという、これまでのサバイバル番組とは一線を画す内容となっている。そこで番組立ち上げのきっかけから、この番組を通しての目標など、『Re:Born』の総指揮者であるジャン・ヒョクジン氏に話を聞いた。日本生活13年にわたる経験値や、これまでの知識を活かした戦略など、K-POPの様々な側面も垣間見える内容だ。(筧真帆)

■番組企画のきっかけとなったK-POPアーティストの格差への疑問

ーーまずはジャン・ヒョクジンさんのご経歴についてお伺いできますか。

ジャン・ヒョクジン:日本の大学院を出て、2003年ごろからは劇団四季で5、6年ほど働いていました。ステージとは何の縁もない人間でしたが、劇団四季のグローバルチームに配属されて、2006年に『ライオンキング』を1年間担当しました。韓国で『ライオンキング』を上演することが30代までの最大目標だったので、その目標が達成できた時点でもう未練がなかったんですね。ちょうどそのころに韓国系の企業から声をかけていただき、CJ ENMに2008年から昨年まで在籍していました。

ーー日本語が非常に堪能ですが、どのタイミングで習得されたのですか?

ジャン・ヒョクジン:私は昭和46年(1971年)の生まれで、中学、高校時代、日本カルチャーはアジアで強い影響力があり、当時韓国にいた私も日本のアニメを観たり、松田聖子さんや中森明菜さんの歌が大好きでよく聴いていました。大学在学中に将来に向けて何かを身に付けたいと思ったとき、文化的にも興味があった日本語を習得しようと決心して、経営学の専攻に加えて、3年生から日本語を副専攻しました。韓国の大学を卒業したあとに国費留学生として日本の大学院へ留学し、その後、劇団四季へ入社しました。韓国に戻ってから、2012年にCJ ENMの日本駐在員として来日し、(日本での生活は)13年ほどになります。

ーーそれでは『Re:Born』についてお伺いします。現在韓国では、オーディション番組が飽和状態とも言える状況ですが、その中で『Re:Born』を始めたきっかけを教えてください。

ジャン・ヒョクジン:私自身、日本で長く事業をやってきた人間として、K-POPアーティストの格差に疑問を持っていました。あれだけアーティストがいるのに、日本で認知度を上げて活発に活動しているのは、大手事務所のグループしかいないように感じています。逆に言うと、あれだけたくさんデビューしたアーティストはどこに行くのだろうと。そこで知人にヒアリングをしたところ、やはり大手所属ではない子たちは、ステージに立つ機会がなかなかもらえない。稀に奇跡のように成功するグループもいますが、多くは途中で消えてしまいます。またK-POPアーティストは、早ければ小学生から練習生を始めているので、当然ながら大学進学もできない。そういった意味で、アイドルをやめてしまうと本当に生計を立てることすら困る状況になるんです。新人を売り出す場合、普通はプロモーション予算をかけて大きく宣伝をしますが、韓国ではその成功率は5%と言われていてなかなか難しい。ならば、私の過去の経験を活かして、皆さんが熱狂するような魅力ある番組を作れば、(予算をかけて)プロモーションをするよりも認知度を上げられるのではと考えました。その手段として『Re:Born』が生まれたのです。つまり『Re:Born』の制作が目的ではなく、『Re:Born』を通して恵まれなかったアーティストたちが日本である程度の認知度を獲得して、ひとり歩きできるような土台を作ることが目標です。

ーーいつごろにこの企画が立ち上がったのでしょうか。

ジャン・ヒョクジン:2022年12月ごろに(構想を)話し始めましたが、実現までにかなり時間がかかりました。コロナ禍にデビューしたK-POPグループ約200組がほぼ全滅してしまったため、そのメンバーたちを復活させたいという思いがあって企画を始めました。しかし実現まで時間がかかってしまったこともあり、必ずしもコロナ禍のデビュー組だけではなく、次世代も含めて、チャンスがある子たちに幅広く機会を与えた方がいいんじゃないかなというところで、今回のラインナップとなりました。

ーー優勝特典が“正式日本デビュー”というところが新鮮です。K-POPアーティストにとって、日本デビューのメリットや魅力はどのようなところにあると考えていますか。

ジャン・ヒョクジン:まずひとつ言えるのは、韓国の音楽市場は小さいです。もちろんK-POPはグローバルでも需要がありますが、韓国市場だけでみると、日本の6分の1ぐらいなんですね。その中でさまざまなアーティストや事務所が競争し合うので、韓国国内だけだと十分な収益が得られないのが現状です。そのため、大手事務所も含めて、どのアーティストもいずれは海外を目指す必要があり、その第一歩が日本であることがほとんどです。その前提のうえで、『Re:Born』を通じて日本デビューの機会を提供することで、そこに至るまでの期間を短縮させるというメリットがあります。大手事務所の場合、日本デビューする前から日本のレーベルやマネジメントなどパートナーがいることがほとんどで、韓国でデビューをしたらすぐに海外へ行ける体制が組まれていて、海外デビューをするための検証プロセスがほとんど必要ありません。しかしその一方で、中小規模の事務所の場合、日本でのパートナーに会うために、デビューシングルが何十万枚売れたとか、MVの再生回数、ファンクラブ会員数などの数字をもとに、自力でその能力を検証しないといけません。これにはかなりの時間と予算が掛かってしまうため、『Re:Born』を通して、この検証期間を限りなく短縮しようというのが目的のひとつです。

ーーこうした企画は、ボーイズもガールズも含めて、アイドルシーンに一石を投じるのではないでしょうか。

ジャン・ヒョクジン:そうなればありがたいですね。日本と韓国で仕事している人間としても、大手事務所以外のグループも、自分たちの実力で愛される機会をもらえるドアを作っておきたいという思いが大きいです。今回うまくいった場合、今後大手事務所以外のグループは、この入口から日本デビューができるというひとつの選択肢として、いずれブランド価値がつけばよいなと思っています。

■アルバイトをしながらアイドル活動……中小事務所の現実

ーーそして番組ではK-POPの“ウラ側”にもフォーカスを当てるとのことですが、あえてウラ側に着目した理由を教えてください。

ジャン・ヒョクジン:K-POPアイドルは完成型で、日本のアイドルは成長していく過程を楽しむ進化型だという見方がありますよね。ある意味、それはすごく正しいと思っていて、特に大手事務所のグループの場合、最初からかっこいいビジュアルやパフォーマンスなど、完璧な姿を見せようとします。一方で、我々の意図は一度デビューしてうまくいかなかったグループに再度チャンスを与えることなので、そういう完璧性を求めるのは、番組趣旨とは合わないと感じているんです。もうひとつ、ファンがアーティストを好きになる過程では、ルックスやスター性だけではなく、性格だったり考え方だったり、内面に惹かれることも大きいと思うんです。『Re:Born』では、韓国のシーンではあまり見せたがらないそのウラの顔を積極的に出そうと、練っているところです。例えば出演チームの中には、本当に貧しくてアルバイトで生計を立てながら隙を見て練習したり、事務所の社長が夜に運転のアルバイトをしながら彼らを養うというケースもあるんです。保証されていない目標に向けて、ひたすら頑張って奮闘している姿が、人々を感動させ、応援していこうという気持ちを生むのではと考えています。もちろんそれはプライバシーに立ち入ることでもあるので、各事務所とよく相談をして、なるべく失礼や誤解のないようしっかり注意を払ってお届けする予定です。

ーーそれはこれまで見たことのない“ウラ側”なので楽しみです。また今回K-POPという括りではありますが、お話を伺ったようにバイトをしながらアイドルやっていたり、そういう部分を見せていくのは、ある意味日本の地下アイドルを思わせる、日本的なマインドをとても感じるのですが、このような番組内容になったのは、ジャンさん自身が日本での生活が長いことも影響を与えていますか?

ジャン・ヒョクジン:あるかもしれないですね。韓国の音楽ジャンルはとても偏っていて、(広く知名度を獲得しているのは)ほぼアイドルしかいない。それが日本の場合、市場規模が大きく、音楽ジャンルも広くて、アイドル好きな人もいればロックが好きな人もいて、音楽を聴く世代の広さを含めても世界最大級です。そんな土壌であれば、韓国の大衆には受け入れられなかった子たちでも、日本のファンには彼らが持っている魅力を見出してもらえるんじゃないかと思っています。私自身が日本の音楽シーンに興味を持っているからこそ、着目した企画かもしれません。

ーー日本市場の大きさだけではなく、日本リスナーの感度にも期待を寄せているということですね。一方でデビュー経験があるとはいえ、日本で認知度の低いグループを集めた番組となると、企画を通す際に苦労もあったのではないでしょうか。

ジャン・ヒョクジン:この番組を企画したとき、日本のK-POPファンは完成型アイドルに慣れているから、人間的な魅力のあるアーティストでないと成立しないのではないかという話が出ました。とはいえ、実力がないまま人間性だけで成功してほしいとは思っていません。大前提として高い実力は保証したうえで、各々の内面もより深く見せたい。そこに賛同してもらえるアーティストたちを集めることは大変でした。そのため出演チームは、デビューから間もない子もいれば、活動歴の長い子もいて、バラエティに富んでいます。

■“フォーマットのない番組”を支える豪華出演者たち

ーーMCにチャン・グンソクさんを起用していらっしゃいますが、その理由を教えてください。またジャンさんからご覧になって、チャンさんの日本での支持の広がりや人気獲得の過程は、ある種モデルケースのような感覚がありますか?

ジャン・ヒョクジン:視聴者から見ても納得ができる方に務めてもらわないといけないと思ったときに、チャン・グンソクさんの名前が挙がりました。韓国の俳優さんが、日本でここまでの地位に至るには、見えないところで本当に考えられないぐらいの努力を重ねてこられたと思うんです。その過程が、僕らが『Re:Born』に出演するメンバーに求めているものと完全に一致すると感じました。ご本人も今回の企画にとても賛同してくださっていて、これまで頑張ってきた経験やノウハウを示したいと、快く承諾してくださいました。今回はMCという立場ですが、きっと後輩たちに良い影響を与えてくれるだろうと期待しています。彼自身にとっても、日本の番組でのMCは初めてですが、先輩アーティストとして本気のアドバイスをする場面は、かなりの見どころだと思います。彼は本当に賢く、人に対する接し方も非常にうまく丁寧で、誰からも愛されるキャラクターだなと感じました。

ーーこれまでのオーディション番組では、キーマンとなる人の存在感が大きく注目されたケースが多々ありましたが、『Re:Born』でチャン・グンソクさんがキーマンとして期待できますね。ジャンさんはサバイバルオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』のチーフプロデューサーを務めておられましたが、同番組に関わるきっかけはなんでしたか。

ジャン・ヒョクジン:番組をプロデュースする前は、主に戦略担当で企画を組む側の人間だったのですが、今、日本に限らず、媒体が多様化されて、地上波がいちばん強かった時代から変わりつつありますよね。なおかつ、デジタル含めたメディアが台頭することで主導権が変わってきました。僕はチャンネルを運営していた人間ですが、ネクストビジネスではIP(知的財産)を持たないといけないと考えたとき、当時韓国のCJ ENMでやっていた『PRODUCE 101』という番組が、オーディションを通じてアーティストIPを獲得し、そのアーティストが各地域で活躍するという非常に優れたビジネスモデルだと思ったので、「日本でもやらせてください」と説得をして始めるに至りました。

ーージャンさんの働きかけで『PRODUCE 101 JAPAN』が始まったのですね。同番組を通じて感じた苦労した点や成功点、その経験が『Re:Born』に活かされている部分はありますか?

ジャン・ヒョクジン:『PRODUCE 101 JAPAN』は、シリーズを成功させた番組フォーマットがあったので、そのぶん守るべき制限もありました。日本で番組制作をする上で大きな試行錯誤があったかというとそうではなく、韓国での経験があったからこそ成立した面が大きいですね。ただ、今回の『Re:Born』は初めての企画なので、我々が想定できないさまざまなことが起きるのだろうと思っています。その都度どう対応していくかを今から考えているところです。フォーマットのない中でのスタートといえども、『SHOW ME THE MONEY』のホン・インテクプロデューサーや、ILLITを輩出した『R U Next?』のクリエイター陣など、オーディション番組の経験者たちが集まっているから心強いです。出演者たちも色々な方向性を試したあとだと思うので、当然ながら事務所と見せ方をしっかり議論しないといけないでしょうね。それぞれのメンバーが持っている魅力と能力を見た上で、コンセプト付けやストーリーテリングをしていければと思います。

ーーリアルタイムで楽しめるオーディション番組は、視聴者と番組の距離がぐっと近い気がしています。リアルタイムでSNSにコメントする視聴者もたくさんいると思いますが、そういったコメントはご覧になっていますか?

ジャン・ヒョクジン:もちろん目を通しています。これまでの経験として、SNSを通じてかなりコミュニケーションを取れていたと実感しています。特にK-POPが好きな方々は、ストレートなコミュニケーションよりも伏線を入れるほうが楽しんでくれるようで、怖いほどに非常に細かく見ているんですよ(笑)。我々がちょっとした手掛かりを出すだけで次を予想されてしまったり、「まさかこれはわからないよね」と思って投げれば、すぐに返事が返ってくるというコミュニケーションは、我々もすごくやり甲斐があって。この経験は『Re:Born』でも活かされると思います。

ーー最後に、この番組を通して視聴者へ伝えたいメッセージはありますか。

ジャン・ヒョクジン:見応えのある番組を作っていきますので、ぜひ観ていただきたいということと、各出演メンバーのアーティストとしての魅力だけではなく、それぞれが持っている“人間力”もしっかり見せるので、それらを総合して、本当の推しを見つけてほしいです。

(取材・文=筧真帆)