久保建英、王者レアル・マドリードを相手に「あと一歩」今季ベストゲームで存在感
――レアル・マドリードで華々しいキャリアを送ったあなたから見て、久保建英はいつかレアル・マドリードで成功できますか?
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のBチームを率いていたシャビ・アロンソ(現レバークーゼン監督)にインタビューで訊ねたことがあった。当時、久保はレアル・マドリードに入団し、マジョルカでレンタル1年目をスタートした頃だ。
「『才能はあるか?』と聞かれたら、『間違いなくある』と答える。ただ、"戦える選手かどうか"は、これからピッチに立って、久保自身が証明するしかない。チームを勝たせる貢献ができるか。そこがカギになる。"違いを出せる選手"ではあるから、焦らず、じっくりと、少しずつ前に進むべきだ。彼が持っている才能をピッチで出せるようになったら、自ずと結果は出るだろう」
マジョルカ時代から、久保は目覚ましい成長を遂げている。違いを出し、戦える選手であることを証明した。結果、市場価値は数十倍に跳ね上がり、移籍違約金の6000万ユーロ(約96億円)は伊達ではない。プレミアリーグのリバプールなどは相応の移籍金や年俸を提示していたとも言われる。"才能をピッチで出せる"ようになったわけだが......。
現在、レアル・マドリードは久保に関しては、「売却時のオプションを所有」と言われる(2022年夏、ラ・レアルへ650万ユーロ/約10億4000万円で完全移籍)。すなわち、優先権を持っているわけだが、彼らは買い戻しに動いていない。
世界に冠たるレアル・マドリードを相手にした一戦は、久保にとって特別なはずだった――。
レアル・マドリード戦にフル出場した久保建英(レアル・ソシエダ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
9月14日、ラ・レアルは本拠地にレアル・マドリードを迎えている。結果から言えば、善戦も及ばず、0−2と敗れた。試合内容で言えば、勝ってもおかしくなかった。いくつもの決定機をポストや体を張ったブロックで防がれ、ふたつのPKで失点。そのPKも、2本目はファウルの有無について意見が分かれるところだった。
「議論を呼ぶ勝利」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、バルサ系だけに、見出しで煽っている。選手の採点も、ラ・レアルの選手がほとんど星ふたつ以上なのに対し、レアル・マドリードの選手は星ひとつが多かった。
【完璧な技術、適切な判断で存在感】
では、久保のプレーはどうだったのか?
件の『エル・ムンド・デポルティーボ』紙は、両チームで最高の三つ星をつけている。
右サイドでボールを受けると、相変わらず、ほとんどボールを失わない。そしてドリブルに入ると、そのたび戦慄を走らせていた。何度もクロスに成功。同じサイドのヴィニシウス・ジュニオールが劣勢にイラつき、ボールを叩いた後の久保に体当たりし、ブーイングを浴びていたほどだ。
そして前半24分、久保らしいプレーが出る。
敵陣内でのプレッシング、左サイド奥でアントニオ・リュディガーがボールを持ったところ、久保はサイドのフェルランド・メンディをケアする様子を見せながら、縦パスに反応し、見事にカット。リュディガーの軽率さ、傲慢さも計算したのか。ボールをコントロールしてひと足早く前に出て、フェデリコ・バルベルデを引きつけると、フリーのルカ・スチッチにパス。だが残念ながら、左足シュートはポストを叩いた。
戦術面の優秀さ、駆け引きのうまさ、完璧な技術、適切な判断で、久保は存在感を示していた。
38分に押し込んだ場面では、久保はエリア内で味方のシュートをアシスト後、そのこぼれ球を拾う。すかさず左足を振ったが、惜しくも相手DFのブロックに遭う。
久保は試合を通じ、攻撃を引っ張っていた。プレーの連続性は特筆に値した。今シーズン、不振が続いていたラ・レアルとしてはベストゲームに等しく、久保がチームを牽引していたのも間違いない。だが......。
「メンディが、久保と対峙する難しい試験をパス」
スペイン大手スポーツ紙『アス』はむしろメンディの健闘を称え、久保にはひとつ星しかつけていない。これは『マルカ』紙も同じ。レアル・マドリードの選手がこういう評価のされ方をすること自体、久保が高い評価を受ける裏返しだろう。
レアル・マドリードが低調だったのは間違いない。しかし、勝ち続ける者たちの分厚さも感じさせた。得点にはならなかったが、キリアン・エムバペの切り返しからのシュートは超人的だった。アルダ・ギュレルの天才性、ルカ・モドリッチの戦術眼、バルベルデの強度など、いずれも超一流。白いユニフォームを身に纏う選手たちは特別だ。
欧州のビッグクラブは、各国の王者たちでひと括りにされるが、レアル・マドリードは王者の中の王者である。チャンピオンズリーグ優勝回数は断トツの15回(ちなみに2位がミランの7回)。リバプールも、マンチェスター・ユナイテッドも、バイエルンも、ユベントスも、王者の風格としては足元にも及ばないのである。
「マドリードでプレーすることは簡単ではない」
ラ・レアルでプロキャリアをスタートさせ、リバプール、レアル・マドリード、バイエルンでプレーしたシャビ・アロンソの言葉は重い。
「周りの要求はすごく高い。他のクラブと違って、どれだけ勝っても満足してもらえることなんてないからね。重い責任を背負い続けながらプレーできるか。そのメンタリティが必要だ」
久保は、レアル・マドリードを相手にあと一歩まで迫った。それはレアル・マドリード以外のビッグクラブなら届いた一撃かもしれない。彼が"そこまで来ている"ということが、日本サッカーの希望だ。