(写真:編集部撮影)

全国で、コメ不足が深刻化している。8月1日に東京・高円寺のスーパーを見て回ったところ、西友はコメの棚の半分ほどが空で、コメ袋を積んであるところも少なめ。「入荷状況が不安定なため、品薄や欠品が発生」、とおわびの紙も貼ってあった。

業務スーパーにはそこそこ積んであったが、オーストラリア米やカリフォルニア米も置かれていた。アキダイは8割ほどコメ袋が置かれていて供給は足りているようだった。各社の報道によると、購入制限をかける、価格が上昇している店もあるという。

1993年は1年続いたコメ不足

要因は、昨年夏の酷暑やインバウンドの急増などが伝えられている。しかし、こぞって買い占めに走ると、社会的混乱に陥りかねない。1993年の平成コメ騒動がまさにそうだった。

当時の状況を整理した『週刊東洋経済』2011年9月10日号の記事によれば、騒動は1993年秋から翌年初夏まで続いたが、1994年夏に猛暑で早めに大量の新米が市場に出回ると、嘘のようにコメ不足が解消した。

一方、日本が突然大量にコメを輸入したことで国際相場が大きく上がり、備蓄米を日本へ提供したタイのコメを嫌って捨てる消費者が続出し、タイの人々を大いに傷つけたなど、反省点は多い。

あわてて騒動を起こすのは避けたいが、やがては落ち着く、と楽観視できる状況でもないかもしれない。

コメはここ数年、人気者だった。ロシア-ウクライナ戦争で小麦価格が上昇し、質が上がっていた米粉がブームになった。昨年、ぐるなび総研の「今年の一皿」に「ご馳走おにぎり」が選ばれるなど、おにぎり専門店が各地に増え、おにぎりブームが起きていた。

が、足元のコメ不足を受けて、おにぎり専門店などでは卸売業者などと定期的な契約をしている店でも、4月からコメ不足を感じており、中には今月に値上げする店も一部出てきそうな状況だと、おにぎり協会の中村祐介代表理事は語る。

「猛暑で品質の低下も起こっていることもあり、別の品種に切り替える、炊飯に工夫を凝らすなど、臨機応変に対応しおいしさを担保する努力をしている店もあります」(中村代表理事)

コメ不足を助長する4つの要因

背景にある「コメの需給バランスについては、今年は転換点と言えそうです」と中村代表理事は語る。

そのポイントは4つ。1つは長く続いた減反政策の影響が今も残り、作付け面積が減少していたこと。2つ目は生産者の高齢化で、コメの生産に携われる人が減っていること。ところがコロナ明けで、外食・中食の需要が増加し、インバウンド客の急増も加わって、消費が増加していることが3つ目の要因だ。4つ目は輸出が増えていること。生産は減っているが、需要は増えているのだ。

農林水産省が発表した6月末時点での2024年産主食用米の作付け意向調査によれば、16道県で前年実績より作付け面積が増加する。

「とはいえ昔と違い、コメは価格が低迷し、生産者にとって利益が低い商売になってしまっています。近年は飼料用米のほうが需要もあり、補助金なども多かったんです。今は一部見直しされましたが、今需要があるからといって、生産者がすぐ単純に主食用米に転換しよう、とはなりづらいかもしれません」(中村代表理事)

増産の見通しが楽観視できないのは、近年新規参入者が増えた野菜生産と異なり、「生産・流通がかなりシステマチックなコメは、野菜のように付加価値をつけにくい。稲作単一経営であれば、生産規模を大きくしていかないと、利益を取りにくいんです。現実的には広い水田を確保しづらいので、多くの農家は複合経営になっています」と、中村代表理事は補足する。

「足りない」のはコメだけではない

また、近年は具材のバラエティが豊かになったおにぎり以外にも、現代的にアップデートされ、脚光を浴びる和食は多い。しかし、和食に不可欠な他の食材でも、生産者の高齢化や気候の不安定化で不足が問題になっている。

おにぎりでコメの相棒とされる海苔も、不作で価格が上昇している。食品新聞3月27日付の報道によれば、主産地の有明海で2年連続不作だったことが要因で、主だったメーカーが値上げに踏み切る。

同記事は不作の要因を、海水温が高いうえ雨が少なく、プランクトンが海中の栄養塩を食い尽くしたこととしている。栄養塩とは、海中の植物が栄養源にする、窒素を含む硫酸塩やリンを含むリン酸塩などを指す。

中村代表理事はこの点についても、「海苔養殖は海の環境で生産量や質が決まるので、気候変動の要因は大きい。しかしそれだけでなく、海苔の養殖漁師も高齢化が進んでいます。漁業は新規参入がしづらい産業だということも相まって、収穫量が減少する問題に向き合うための、リソース不足も問題です」と話す。

実は、海苔を取り巻く厳しい環境は、もっと前から始まっていた。2015年2月12日付の朝日新聞によると、瀬戸内海で栄養塩が減り過ぎる貧栄養化が、1990年代から問題になっていた。2年後の12月2日付の日経新聞でも、栄養不足で海苔生産量が落ち込んでいる、とある。

どちらの記事も、高度経済成長期の赤潮による富栄養化対策として、排水処理能力を上げ過ぎたことを問題視し、各地の漁協が処理能力を下げたことも伝えていた。栄養塩を増やしても、今は不作なのである。日経は合わせて海水温の上昇も要因の1つとしていた。

昆布やカツオ、サンマの不漁も、たびたび報じられる。昆布については、産経新聞ウェブが3月18日、国産昆布生産の約9割を占める北海道で、ここ20年で生産量が半減したと報じた。要因は漁業者の高齢化や昆布の減少で、海水温の上昇も、要因の1つではないかとしている。

梅も今年は暖冬などが原因で、不作が報じられている。さらに豆腐や納豆、醤油、味噌といった和食の核になる食材の大豆も、自給率が長年1割を切っており、農水省も生産量を増やす取り組みをしているが、輸入に頼らざるを得ない状況は続く。

暑さに強い品種で対応する生産者も

このように、コメ以外にも和食の要となる食材の多くが、不足する状況が続いてきたのだ。もちろん、すでに対策を打っている現場もある。

コメについては7月30日放送の『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(テレビ東京系)で、暑さに強い品種の作付けを増やした生産者が紹介されている。おにぎり協会の中村代表理事は「地球温暖化にとどまらず、さまざまな需要に対応した生産効率が高い品種が生まれています」と話す。

持続可能な社会を築き、来るべき未来の食料難も防ぐことが、SDGsの目標の1つである。環境意識が低いと言われる日本の私たちも、すでに足元まで迫った食料難時代を前にひとごとのように構えてはいられない。改めて、自分たちに何ができるか、これから何を食べ続けたいのか、考えなければならないのではないだろうか。

(阿古 真理 : 作家・生活史研究家)