住宅市場の流れは、人口に連動したお金の流れそのものである。空き家の多い地域は、そこが高級住宅地といわれたところで買わないほうがよい(写真:タカス/PIXTA)

住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。

不動産市場の変遷や過去のバブル、政府や日銀の動向、外国人による売買などを踏まえ、「これからの住宅購入の常識は、これまでとはまったく違うものになる」というのが、新聞記者として長年不動産市場を研究・分析してきた筆者の考え方だ。

新刊『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』では、「マイホームはもはや一生ものではない」「広いリビングルームや子ども部屋はいらない」「親世代がすすめるエリアを買ってはいけない」など、新しい不動産売買の視点を紹介。変化の激しい時代に「損をしない家の買い方」をあらゆる角度から考察する。

今回は、住宅購入で失敗しないための3つのマクロ的な視点を紹介する。

この後、マンション価格はどうなる?


住宅価格の変動には、株価の影響が無視できない。

株式市場の大崩壊後、しばらくして不動産相場が同様に暴落することは、これまでの歴史から学べる。

今回も、高値止まりしたマンション価格の調整は十分にあり得るだろう。

年内にそれが始まっても不思議ではない。

バブル時の株価のピークは1989年末の3万8915円。

しかし2000年年明けから株価は暴落し、1年半から2年をおいて不動産の値下がりも本格化した。

日銀の利上げや不動産業界等への融資規制もあり、不動産市場も大暴落につながったのだ。

また、2009年9月のリーマン・ショック後も、不動産は大きく値を下げた。

これは個人投資家が多い資産市場が、株式と不動産であるためだ。

株価が上がれば、投資家は「自分は豊かになった」と判断し、その資産効果で不動産価格も上がる。反対に不動産相場の大幅下落もまた、株価暴落に起因して起きることが多い。

8月5日の日経平均価格の下げ幅は、1987年の米株式相場の大暴落「ブラックマンデー」を超える過去最大幅だった。

不動産市場への影響がゼロということはあり得ないだろう。

今回は、絶好の買い場」が来るかもしれない今後の不動産市場において、知っておかなければならない「3つの視点」について解説する。

「人口減少」でどうなる?

1つ目の視点は、「人口減少」という脅威だ。

まず、2020年と30年後の2050年の日本の人口を比べてみよう。

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、日本の総人口は2050年に約1億468万人となり、2020年より約2146万人も減少する。

内訳を見てみよう。

★2050年には、65歳以上の老齢人口は約285万人増加し、全人口の37.1%を占める

対して生産年齢人口(15〜64歳)は約1968万人減少する

★若年人口(0〜14歳)は、約462万人減少する

★日本の人口は2056年には1億人を下回り、2100年には約6277万人まで減る

★総人口のピークは2008年の約1億2808万人だから、2100年には半減することに


上記は死亡・出生の中位推計だが、悲観シナリオとされる下位推計では、2100年には約4956万人と5000万人を割り込む数字もある。

今後の日本では、生まれる子どもより死んでいく人が多い多死社会が加速する。

そうなると、不動産市場はどうなるのだろうか?

人口減少、少子高齢化は、日本の住宅の売り方と買い方を一気に変えていく。

現状を見ても、出生数は減少しているのに、新設住宅着工数はそれに見合った落ち方をしていない。

このことは、今後地方や郊外のみならず、都市部でも想像もできないような空き家地獄が始まることを意味している。

「昔ながらの高級住宅街だから、今後も値下がりすることはない」と古い価値観から離れられない人は、10年後、20年後は負け組になってしまうかもしれない。

親に教わった考えや、不動産業界が提示する数字や知識を振りかざしていては、損失を受け持つ役回りに甘んじてしまうのだ。

人口減少で鉄道やバスの便数も減り…

2つ目の視点は「人口減少にともなう環境の変化」だ。

たとえば、人口減少が激しい郊外では、鉄道やバスの便数は減らされる。

さらに人口減が続くと、通勤電車は都心に近い主要駅での折り返し運転となる。

特急、快速、急行、準急といった停車駅の違う列車を走らせることが難しくなり、普通か急行の2本立てになるだろう。

小中学校の統廃合は珍しくなくなったが、これからは通勤駅の機能の統廃合が始まる。

これまでは「駅力」などとして特急停車駅がもてはやされたが、人口減少でそうした時代も終わる。

東海道新幹線でいえば、急行型の「のぞみ」だけとなり、後はすべて「こだま」となるイメージだ。

のぞみが止まらない駅の地価の下落率は、当然高くなる。

人口が半減する時代には、職住近接が主流となり、職住分離はナンセンスだ。

郊外のベッドタウンは消えていく。

そこに仕事がない限り、若者は仕事を求めて移動していく。

残されるのは、ベッドに横たわる老人だけかもしれない。

空き家の多い地域は、そこが高級住宅地といわれたところで買わないほうがよい。

過去のブランド効果で、まだ十分に値段が下がっていない場合がほとんどだからだ。

地方・郊外はどうなる?

3つ目の視点は「地方・郊外の衰退」だ。

これから亡くなっていく80代、90代の高齢者は、高度成長時代にフルに享受したため、金融資産をたくさん持っている(失敗したのは住宅投資ぐらいだ)。

したがって、地方や郊外の高齢世帯が抱える現金は、いずれ子どものいる都市部に向かう。

少なくとも、都市部の金融機関に預け替えられる。

定年後、実家が空き家になりそうなので、Uターンを検討する60代も多い。

しかし人口が減り、スカスカになった故郷で暮らせば、年をとるほど困難に直面するだろう。

「これからは地方の時代です」というウソほど、残酷なものはない。

政府、日銀による超金融緩和が長く続いた結果、これまで都市部のマンションは値上がりし続けた。

しかし冒頭で解説したように、株価の下落にともなう不動産価格の下落が、まもなく起こるかもしれない。

マクロで「お金の流れを考える」ことがカギ

ただ、今後日本の総人口はますます減り、空き家も急増する。経済も好調とはいえないなか、世界最悪水準の政府債務を抱えている。

現在の日本では、家計と企業には預貯金があり、政府には大きな債務が存在する。

解決困難な人口問題や巨額政府債務、それに円通貨の信頼性を裏打ちする日銀の資産の中身やバランス・シートが「国債まみれ」の危うい現実に拍車がかかれば、財政の持続性がさらに懸念される状況に陥る。

そして「円の信用」が大きく落ちれば、激しい物価上昇(インフレ)につながりやすく、実物資産である不動産も優良物件だけが買われていく。

預金や債券など円ベースの金融資産の価値がインフレで落ちるため、資金が一握りの優良な不動産や株に向かって逃げ出すためだ。

こうしたお金の流れを押さえておくことが、何より重要だ。

不動産が証券化・金融化された結果、住宅価格は日々変動しうる時代に入った。

それに加えて街の様子や住環境も、人口減や再開発などによって、10年後、20年後にはまったく違うものになるかもしれない。

住宅市場の流れは、人口に連動したお金の流れそのものである。

このことを知らないと、将来後悔する物件のローンを何十年も払い続けることになるかもしれない。

しかし、多くの消費者は過去の「常識の延長」で買ってしまう。

「残念なマイホーム購入者」の数が高止まりにならないよう、切に願う。

(山下 努 : 不動産ジャーナリスト)