ステージ4・末期がん夫が語る「明るい入院のコツ」
ベッドの上で、タブレットを観ながらのランチタイム(手のむくみがすごい)(筆者撮影)
ロスジェネ世代で職歴ほぼなし。29歳で交通事故にあい、晩婚した夫はスキルス性胃がん(ステージ4)で闘病中。でも、私の人生はこんなにも楽しい。なぜなら、小さく暮らすコツを知っているから。
先が見えない時代でも、毎日を機嫌よく、好きなものにだけ囲まれたコンパクトライフを送る筆者の徒然日記。大好評の連載第16回(後編)です。
都心に住めば、いざ病院のお世話になるようになっても、家が近いため荷物が少なくて済むこと、主治医とソリが合わなくても交代してもらえるなど、メンタル的にもメリットがあることを、前編の記事ではお伝えさせていただきました。
後編では、「入院の達人」となった夫に聞いた、「明るく快適に病院で過ごす」ための工夫をご紹介します。
入院費用の節約まで楽しむ、入院の達人となった夫
最近の夫は「入院費用の節約」に楽しみを見いだしています。本人曰く、入院生活のコストを下げつつQOLを上げるための秘密兵器はタブレットだそう。
病室のベッドの横にはテレビがあるのですが、テレビと冷蔵庫の使用料が1日税込1,100円するのです。入院当初は「病院ではテレビと冷蔵庫を使うのが普通」と思っていたのですが「テレビと冷蔵庫は使いません」と宣言すれば、2週間で約1万5,000円のコスト削減となります。
【画像13枚】「テレビは不要、冷蔵庫も不要」「ケチらないほうがいいのは…」 大都会での入院はこんな感じ
だからといって我慢しているということはまったくないそうで、タブレットのテレビ見逃し配信サービスやら、だいたいのバラエティ番組やドラマは観られます。民放なら「ティーバー」、NHKも専用の配信サービスがあります。
さらに我が家はアマゾンのサブスク「アマゾンプライム」に契約しているので、動画配信サービス「プライムビデオ」や音楽配信「ミュージックプライム」、書籍読み放題の「プライムリーディング」などのサービスを使うことで、暇つぶしはバッチリです。
タブレットとノイズキャンセリングイヤホンで充実の入院ライフ
そこそこ体調がよく体を起こせる時は、タブレットで動画鑑賞や読書をして過ごします。
夫は病床で海外ドラマの一気見をして、妻は自宅で人気アニメの一気見をする。入院中はお互いに好きな番組を好きなだけ観るという、普段はなかなかできない贅沢な時間の使い方です。
ドラマ「アンナチュラル」を観て、登場人物の口癖を使いまくる私たち(筆者撮影)
それぞれが同じ番組を観て感想を言い合うこともあります。この原稿を書いている現在進行形で夫は入院中です。隔離されて会えなくても大丈夫。同じドラマを観て、お互いに主要キャストの口癖をメッセージアプリで連呼すれば、一体感を味わえます。
体調が芳しくなく、ほぼ寝たきりのような時は好きな音楽をBGMに。クレイジーケンバンドやプリンスを聴いて気分をあげたり、オリビア・ニュートン・ジョンを聴いてほっとしたり。体調や心情にマッチした曲を聴きながら過ごします。
力説していたのは、イヤホンをノイズキャンセリング機能付きにすること。耳に装着することで雑音を軽減させる効果があるため、同室の患者さんのいびきが気にならなくなり、大部屋の夜も快適に過ごせます。
細かいポイントとしては、充電コードは長めのものを用意すること。充電しながらタブレットを観られるので、電池の減りを気にしなくてよくなります。スマホを楽天モバイルにして、タブレットにテザリングすれば、データ制限がないためギガの消費を気にすることなく見放題・聴き放題です。
入院費用を最も削減できるのは有償ベッドを使わないこと。入院時に受付センターみたいなところで手続きをする際に無料の部屋を希望しても「無料の部屋に空きがない場合は有料になりますがいいですか?」と、同意書にサインを促されるのです。
ここで同意書を突っぱねるのは申し訳ない気もするし、なんだか恥ずかしい。でも勇気をもって「同意書にはサインしません。差額ベッド代は支払えないため、無料の部屋のみ希望します」と告げるだけで差額ベッド代を請求されることがなくなり、入院費用が大幅に節約できます。
ベッド横の棚は、テレビと冷蔵庫の一体型(筆者撮影)
病院が小さい場合は人間関係もこぢんまりしています。「ヒソヒソ……あの患者差額ベッド代支払わないってゴネたらしいよ……」と、スタッフの噂になったりすると、居心地が悪くなってしまう可能性もなきにしもあらず。
夫のかかりつけの病院だと事務の人も手慣れたもので、「はいそうですか」という感じです。差額ベッド代の支払いを断ったことで、治療を受けるうえでの不便を被ったことは今のところありません。
ちなみに私が以前手術入院した個人医院は、10床ほどしかなくスタッフも少なかったため、患者が差額ベッド代の支払いを拒否した際は、院長や看護師どころか入院患者にまで知れわたり、スタッフにいびり倒されていたので、ケースバイケースだとは思います。
入院食はしっかり食べる
ある日のランチ。パスタとサラダとフルーツ(筆者撮影)
筋金入りの節約マニアであっても、どうしても払わなくてはいけないもの、それは食事代です。1日3食で約1,400円。パッと見ると高い気がしますが、冷静に考えると夫の食事代は入院していなくても毎日それぐらいはかかっているので問題ありません。
個人的には栄養計算がされた食事が1日1,400円と考えると逆に安いぐらいです。夫曰く病院食のクオリティも高くて味もおいしいそう。
病院食の相棒たち。ふりかけやテイクアウトの時に余った調味料、お土産でもらったわさび味噌などを持ち込みます(筆者撮影)
メインディッシュの肉や魚は温かく、サラダや豆腐やフルーツは冷たい状態で提供されます。主食もお米とおかゆとパンから選べて、いたれり尽くせりです。
ただし薄味のため、薬の副作用で味覚障害のある夫には物足りない。ソースやしょうゆ、タルタルにふりかけなど、小袋入りの調味料による味の足し算はかかせません。
妻は妻で1人を満喫。夫の入院中、ケンタッキーとハイボールで1人晩酌(筆者撮影)
電話の話題はもっぱら食事の感想です。「今日のおかずはハンバーグでデミグラスソースがかかっていておいしかった」とか「ヨーグルトが出たから嬉しかった」とか。そのなかでも一番嬉しいのは「残さず食べられた」という報告。私にとってそれが何よりのごちそうです。
グッチのローファーで入院する
節約に勤しむ夫の唯一の贅沢、それは高級ブランド「グッチ」のローファーです。プレゼントとしてメルカリで新品未使用のものを購入したものの、スニーカーのほうが歩きやすいらしく、普段はまったく履いていないのですが、入院中は「グッチ」一択なのです。
赤い靴下とチェックのビットローファーという足元だけセレブなコーディネート(筆者撮影)
実はこれも節約の一環で、入院用の靴を買わずに家にあるもので間に合わせているだけ。病室でのスリッパ使用が禁止されているので、夫が唯一持っているスリッポンタイプの靴である「グッチ」を持参しているのです。
ヨレヨレのTシャツとスウェットパンツに、派手なローファーをコーディネートした姿は、なんともファニーで愛らしい。ピカピカのローファーで屋上庭園を散歩する夫を「おしゃれな靴履いちゃって!」とからかうと、「入院するとグッチが履けるからいいね」とニコニコ返事してくれます。
2024年1月の退院時の1枚。帰宅後犬は大喜びでずっとくっついていました(筆者撮影)
できないことに目を向けるのではなく、できる範囲で自分を楽しませる方法を探す、そんな夫を尊敬せずにはいられません。
前編の記事はこちら:「末期がん闘病」2年してわかった病院選びのコツ こんなにもある「都心で闘病」のメリットとは
【その他の画像も!】「テレビは不要、冷蔵庫も不要」「ケチらないほうがいいのは…」 大都会での入院はこんな感じ
(大木奈 ハル子 : ブロガー・ライター)