今回のフードコートは、中野マルイにある「はらっぱ」。「100年に一度」の大規模な再開発が進む街のフードコートはどんな場所(筆者撮影)

時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。

本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化な「フードコート」を巡り、記録しながら、魅力や楽しみ方を提唱していく。

今回は、東京都中野区にある商業施設「中野マルイ」のフードコート「HARA8(はらっぱ)」を訪問する。

「100年に一度」の再開発が進む街、中野

中野マルイの最寄り駅である「中野」は、JR中央線と中央・総武線に加え、東京メトロ東西線が乗り入れる駅であり、JR東日本が発表している情報によると、1年の乗降客数は、同社管内の駅として16位(2022年度)。1日平均で12万人弱が利用している。

中野駅周辺では「100年に一度」ともいわれる大規模な再開発事業が進んでおり、少しずつその姿を変えつつある。

【画像45枚】JRやメトロが通る中野駅「マルイ」にあるフードコート「はらっぱ」。レストランが主体、一風変わったその様子

中野という街の大きな特徴が、転出入の多さだ。中野区の広報誌「nakano」によると、2022年から過去10年での転出入者平均は、それぞれ約3万人。2022年1月1日時点での人口が33万2017人であることを考慮すると、あくまでも単純計算ではあるが、およそ11年で区民がキレイに入れ替わる計算である。


再開発が進む中野を歩く(筆者撮影)

確かに近辺には明治大学や帝京平成大学のキャンパスがあり、都心部にキャンパスを持つ大学にもアクセスが良いことから、学生にとっては初めての一人暮らしを始めるのにうってつけの街といえそうだ。

それだけでなく、そもそも巨大ターミナルの新宿駅まで中央線で1駅5分ほどと好立地であり、飲食店が集積していることから、学生だけでなく社会人になって上京した人が選ぶ理由もある。

ビジネスマンだけでなく、お笑い芸人も多く居住している街としても知られる。さらに、外国人も多い。同広報誌によると2022年1月1日時点での全人口に対する外国人率は5%。内訳もバラエティー豊かで、国籍は110超にも及ぶという。


2024年に移転を果たした新区庁舎(筆者撮影)

こうした点から、同区では2018年8月に「中野区パートナーシップ宣誓」制度を実施し、多様な生き方観を受け入れる地域の実現を目指した取り組みを進めている。

街並みも多様性に富んでいる

街に住む人の多様性を反映してか、それとも街そのもののカオスさが多様な人を呼んだのか、駅近辺を歩くだけでもいろいろな景色が見えてくる。

まず南口を出て目に入るのが、2024年春に開業した「ナカノサウステラ」。もともとこの地には東京都住宅供給公社による中野住宅があり、再開発の末、オープンした。


再開発の一環としてオープンしたナカノサウステラ(筆者撮影)

これだけ見ると、通り一遍な再開発に思えるかもしれないが、ちょっと歩いた路地には欧州的な雰囲気を感じる「中野レンガ坂」があったりする。100メートルほどの区間にこじゃれた飲食店が並んでおり、外国人も多く見受けられた。


2002年に誕生したレンガ坂(筆者撮影)

中野通りに沿ってガード下を抜けると、見えてくるのが中野サンプラザ。中野のアイコン的な施設であるが、再開発に伴って2023年7月に閉館した。この地には地上61階・262メートルの超高層ビルが建つ予定らしい。

もう少し線路寄り、左手に見える黒塗りの建造物はNTTドコモのビルだ。高さは115メートルで、異様な存在感を示している。さらに奥には明治大学、帝京平成大学のキャンパス、早稲田大学の寮がある。


惜しまれつつ閉館した中野サンプラザ(筆者撮影)

より線路沿いでは再開発の目玉といえる、橋上駅舎と思われる工事風景。リニューアルによって、線路上空に駅舎と一体の南北自由通路が通り、駅の印象は大きく変わるだろう。確かにこれまでの中野駅は、利用者に対して駅舎がやや貧弱に思えたので、これは良い再開発かもしれない。

街の多様性を意識した? 特殊なフードコート

フードコート・はらっぱへ。中野マルイは駅南口の中野通り沿いにあり、はらっぱはその5階にある。

はらっぱは2020年6月にオープンしたフードコートであり、多様性の街・中野らしく「『わたしにぴったり』がきっと見つかる」をコンセプトにしている。


一般的なフードコートと違い、イートイン可能な各飲食店が席を囲んでいる(筆者撮影)

どういうことかというと、単なるフードコートではなく、レストランとフードコートとテイクアウトが混在しているのである。というか見た感じレストランが主体であり、各レストランが提供しているフードコート用メニューを注文すれば、フロア中央にあるフリー席で食せる、といった形式だ。


そのためか、珍しいラインアップである(筆者撮影)

したがってはらっぱはフードコートであり、レストラン街でもある。これまた中野らしい多様性、カオスな設計といえる。

本連載の初回では溝口マルイを訪れ、ここでも軽くはらっぱに触れているが、「フードコートらしからぬ? ラインアップ」だとお伝えしていた。どうやら、マルイはフードコートで個性を出したいらしい。

さて、中野のマルイである。営業しているテナントは結構珍しく、チョコレートケーキで知られる「トップス」の「トップス キーズカフェ」、天ぷらの「つな八 凜」、あとは牛たんに焼肉、と高級系が多い。店頭に掲示しているフードコート用メニューを見ても1500〜2000円台のものが普通にある。

故郷の味と、東京の味

うーん、何にしよう。一通り見て回った結果、今日は牛たんの店「仙台 牛たん 青葉」とトップスを選択。仙台から上京して働き始め、ボーナスももらってちょっとお金に余裕が出たので、地元の味と、東京の味を楽しむか――そんな感じ。


楽しみ方も多様なフードコートである(筆者撮影)

青葉であるが、ジェネリックねぎしみたいな店だ。牛たんにとろろ、麦飯とスープが基本セットであり、ご飯のおかわりも無料。ただ、それはイートインだけなのではないか、という疑念が生じた。

白米大好き人間にとっておかわり無料の有無は最重要事項である……。恥を忍んでレジで聞いたところ、フードコート客も対象であるとのこと。僥倖。牛たんとチキングリル定食を注文する。


青葉の牛たんとチキングリル定食と、トップス名物のチョコレートケーキで、名付けて「仙台望郷セット」(筆者撮影)

トップスではチョコレートケーキを注文した。

そういえばトップスってどこの国のブランドなのだろう、と何となく気になったので調べたところ、実は1964年に東京・赤坂でオープンしたレストランにルーツを持つ国産ブランドらしい。チョコレートケーキのイメージが強かったので、レストランがルーツなことも意外である。

ケーキはすぐ到着、座して牛たんを待ち、注文から10分弱で到着した。さっき聞いたのに、提供時に「おかわり無料です」と念押しされ、微妙に恥ずかしい気持ちになる。

茶碗を持ち、立ち尽くす

まずは定食から。牛たんは網の焦げが付いているが、なんだかちょっと冷めている。一方で鶏肉は皮パリで肉が驚くほど柔らかい。こっちのほうが米が進む。スープには具が入っているが、テール肉ではなく、謎の団子。うーん、ジェネリック。しかし、そこもまた乙である。

それにしても米が進む。鶏肉2切れ、牛たん2切れ、とろろ100%を残しておかわりへ。青葉の前へ向かうと、あいにく店員さんがイートイン客の対応をしており、レジ待ちの客もあり。空の茶碗を持ってひたすら立ち尽くす。フードコートでこんな体験はなかなか味わえまい。

一応、後ろ手に茶碗を持って、おかわり待ちではない、ただのレジ待ち客を装う。しかしその努力もむなしく、店員さんが先客の会計をさばきつつ、私に向かって「ご飯のおかわりですよね?」と問いかけてきたので、おとなしく茶碗を白日の下にさらした。すぐさま真っ白い2杯目が提供された、何だろうこの感じ、給食でおかわりしたときの席までの帰り道のような、ちょっぴり恥ずかしい気持ち。

席に戻って、まずは温存しておいたとろろでご飯を楽しむ。とろろの中にご飯の粒立ちを感じてうまい。牛たんと鶏肉で2杯目も平らげ、仕上げにチョコレートケーキをいただく。大満足のセットでも2000円ほど。ちょっとしたぜいたくに適したフードコートかもしれない。


正午を過ぎ、にぎわいが出てきた(筆者撮影)

到着したのは昼前だったが、正午をまわって着々と席が埋まってきた。とはいえ、フードコートよりもレストランのほうに客足が向いているように感じる。この日が土日ということも影響しているかもしれない。

カオスが煮詰まった名物施設「中野ブロードウェイ」

なお、この日は「中野ブロードウェイ」も訪問した。

この記事の序盤で、中野サンプラザを中野のアイコンと表現したが、双璧をなしているのがこの施設である。日本初のショッピングセンターと集合住宅からなる施設とされ、地上10階建てのうち地下1〜地上4階までが商業施設として営業している。


サブカルの街の総本山、中野ブロードウェイ(筆者撮影)

中野ブロードウェイは、多くの人が中野に対して思い浮かべる「サブカルの街」の総本山といえ、かつ中野のカオスさを凝縮した施設といえるだろう。まず、それなりの施設のはずなのに、何だか薄暗い。

また、サンモール側から入って現れるエスカレーターが2階ではなく3階へ直行する。なぜ、2階に行かせてくれないのか。さらに3階へ入ると天井が青空を模している。そのサービス精神があるのなら、まず1階から2階へエスカレーターを通すべきではなかったか。


突如現れる、謎の青空(筆者撮影)

入居しているテナントもカオスである。核となるテナントは古書店におもちゃ、セル画にゲームなど多種多様な中古品を販売しているまんだらけであるが、それ以外にはそれなりの高級感を放っているブランドショップがあるかと思えば、雑多にリュックを売っている店がすぐ近くにある。

1〜3階は端々まで人気があるのに、4階の北側はシャッター街。人影まばらで、不気味さを覚えるほどである。天井が急に低く圧迫感もあり、時折まんだらけの宇宙人のモニュメントが突然置いてあったり、営業しているのかわからない内科があったり、ハッキリいって昼間でもなんか怖い。


4階は急に人が消える一角がある(筆者撮影)

無事2階に降りると激渋な飲食店が多く営業している。本当に渋い店ばかりで、中をのぞくとなぜか外国人客が多い。インバウンドのリサーチ力、恐るべしである。


中華料理「東北」(筆者撮影)

地下には生鮮食品の店があったり占いの店があったり、はたまた立ち食い寿司に100円ショップと、このフロアもカオスが極まっている。まったくどういうコンセプトでテナントを誘致したのか。

フードコートも中野ブロードウェイも、多様性にあふれている。中野という街の魅力をふんだんに堪能する一日となった。

【画像45枚】JRやメトロが通る中野駅「マルイ」にあるフードコート「はらっぱ」。レストランが主体、一風変わったその様子

(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)