強まるEVへの逆風「グラフで見る」テスラの苦境
驚異的な成長を遂げたテスラに逆風が強まっている。輝きを取り戻せるのか(写真:テスラ)
“EVの申し子”の苦境が浮き彫りとなった。
テスラが7月23日に発表した2024年度第2四半期(4〜6月)決算は、売上高が前年同期比2%増の255億ドルだった。しかし、営業利益は前年同期比33%減の16億ドルとなり、営業利益率は9.6%から6.3%へと大幅に悪化した。
2%の増収は、エネルギー事業の躍進などによるところが大きい。柱の自動車事業(クレジットを除く)に限ると、売上高は前年同期比9.5%減の189億ドル。欧米を中心にEVシフトが鈍化しており、テスラの4〜6月の世界販売台数は前年同期比4.7%減の44万3956台だった。
車両の平均単価は右肩下がり
販売台数の減少率(4.7%減)より、自動車事業の売上高の減少率(9.5%)が高いことからわかるように車両平均単価が低下している。自動車事業の売上高を販売台数で割った車両平均単価は4万1738ドルで、1年前からは5%下落、2年前からだと20%超下落している。
EVの需要が伸び悩む一方で競争は激化。比較的EVが底堅い中国では安価EVを強みとする新興勢力が台頭しており、テスラも値下げを余儀なくされている現実が見て取れる。
台数減と単価減のダブルパンチで自動車事業の粗利率は1年前の18.1%から14.6%へと低下。2024年1〜3月期からも1.7ポイント悪化した。ピークの2022年1〜3月期(30.0%)からは半分以下になった。
決算発表翌日の株価は12%の急落
稼ぐ力が低下したことや、期待されていたロボタクシーの発表を10月に延期したことを受け、テスラの株価は急落。7月23日の終値246.38ドルから翌24日は12%安となる215.99ドルで引けた。
苦しい状況下でもAIや自動運転領域の研究開発投資の手を緩めてはいない。研究開発費は4四半期連続で10億ドルの大台を超えている。第2四半期には、構造改革などで6億ドル超の費用が発生した。それでもなお6%台の営業利益率を保っているテスラはやはり驚異的という見方もできる。フォード・モーターが7月24日に発表した第2四半期決算は、EV事業のEBIT(利払い前・税引き前利益)は11億4300万ドルの赤字だった。
ただし、テスラの業績が急回復する見込みは立たない。アリックスパートナーズは、2024年の世界の新車販売台数に占めるEVの割合を13%と予測している(2023年は11%)。EVは2ポイント増えるともいえるが、増加分の半分強はテスラが苦戦を強いられている中国市場だ。
トランプ氏は反EVを掲げる
共和党のドナルド・トランプ候補は現行のEV普及政策を廃止する方針を掲げる。2022年8月に成立したIRA(インフレ抑制法)では、一定の要件を満たす場合、EVの購入者が最大7500ドル(約115万円)の税額控除を得られる。11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利すれば、EVに冬の時代が到来する可能性は高い。
現状「モデル3」「モデルX」「モデルY」が税額控除の対象となっているテスラ。イーロン・マスクCEOはIRAが廃止された場合の見通しについて、「テスラに多少の影響はあるだろうが、競合他社には壊滅的だろう。長期的にはIRAの廃止はテスラにとって助けになると思う」と強気の姿勢を示すが、税額控除が打ち切りとなれば短期的な打撃は免れない。
足元では最大のライバルである中国BYDに迫られている。四半期ごとのEV販売台数では両社の差はほとんどなくなった。BYDはEVの他にPHV(プラグインハイブリッド車)も手がけている。そのPHVの販売が好調なこともあり、総販売台数ではBYDが圧倒している。
新型車やロボタクシーに期待
今後を左右するのは新型車の投入。2025年前半に安価モデルを含む新型車の生産を開始する予定だ。この新型車は、次世代プラットフォームと現行プラットフォームの両面を利用し、現在の車両ラインナップと同じ生産ラインで生産することができるという。予定通りに投入できるか、期待通りに売れるか、ともに未知数だ。
発表延期となったロボタクシーも、株式市場から熱い視線を向けられている。マスクCEOは4月に、X(旧Twitter)で8月8日にロボタクシーを発表するとしていたが、現在は10月10日まで延期することが示されている。マスクCEOは延期の理由について、「車両を改善する重要な変更を加えたかったから」と決算説明会で説明した。
PwCコンサルティングは、完全自動運転タクシーが生み出す収益が、現状のほぼゼロから2035年には世界で約70兆円に拡大すると予測している。技術的制約や安全性の課題も多そうだが、いち早く実現化にこぎ付ければ先行者利益を得られるだろう。
テスラに対する株式市場の熱狂は冷めてきている。とはいえ、予想PER(株価収益率)は90倍近くあり、依然として期待先行といえる。創業期から長く続いた赤字期間や量産立ち上げの「生産地獄」を乗り越えてきたマスクCEOとテスラは、逆風の中、再び舞い上がることができるのだろうか。
(村松 魁理 : 東洋経済 記者)