「ホテルニューオータニ」新しい顔はアイデアマン
1964年の東京オリンピック開催に際し、同年9月に開業したホテルニューオータニ(撮影:尾形文繁)
国内系屈指の名門ホテル「ホテルニューオータニ」(東京都・千代田区)で22年ぶりに総支配人が交代した。同ホテルを長年支えてきた清水肇氏(68)が退き、郄山剛和氏(52)が7月16日付で就任した。今年9月の開業60周年という節目を前に、5代目の総支配人が誕生した。
ニューオータニは「帝国ホテル 東京」「オークラ東京」と並び、「ホテル御三家」に数えられる。1474の客室を設け、37軒のレストランを構えるなどホテルの規模は都内でも最大級だ。
総支配人はホテルの宿泊、宴会、レストランなどすべての部門を統括するホテルの「顔」といえる存在。20年以上にわたり舵取りしてきた前任の清水氏は、ホテル・イン・ホテル(ホテル内で運営する別ブランドのホテル)の「エグゼクティブハウス 禅」を導入するなど、業界では言わずと知れた名物総支配人だった。
ナイトプールの立ち上げなどを担当
他方、郄山氏はニューオータニの「アイデアマン」として知られる。直近では、ホテル業界で初となる結婚紹介所事業を立ち上げた。成婚すれば、ニューオータニでの挙式につなげることもできる。郄山氏によると「結婚相談所への新規入会、成婚ともに順調で、当ホテルでの挙式にもつながっている」。
ほかにも多くのホテル業界初の取り組みに関わってきた。
1998年に高級洋菓子ブランド「ピエール・エルメ・パリ」の世界第1号店がニューオータニ内にオープンした。その際にピエール・エルメ側と連携し、ブランド発信など販売促進を務めた。郄山氏は、「ファッションのように季節に合わせて(スイーツの)新作コレクションを発表した。当時のスイーツ業界では画期的なことだった」と振り返る。
1999年にはナイトプールの立ち上げを担当した。ニューオータニはナイトプールを初めて営業した「元祖」とされる。「海やリゾートではないけれど、仕事帰りに日焼けをせずに楽しめるものとして始めた」(郄山氏)。
ニューオータニの「GARDEN POOL」でのナイトプールはすっかり定着した(記者撮影)
名物総支配人から引き継ぐバトンが重いことは間違いない。だが、これ以上ないタイミングでの交代になったといえる。
ホテル業界を窮地に陥れたコロナ禍は一区切りがつき、ホテル御三家の業績は急回復している。運営会社のニュー・オータニの業績は、御三家の中でも目を見張るものがある。
2023年度は売上高が679億円(前年度は528億円)、営業利益は82億円(同2億円)となった。営業利益率は12%とコロナ禍前の9%を超えている。競合と比較しても、帝国ホテル、ホテルオークラを上回る水準だ。
収益性向上を牽引するのが宿泊部門だ。コロナ禍以降、ニューオータニは客室価格を引き上げている。コロナ禍前と比較すると、単価は3万5000円と約3割上昇した。その分、稼働率は70%から65%と下がったが、それを補えるほど収益性が向上した。
開業当時の建物を継承しつつリニューアル
郄山氏はニューオータニを今後どのように舵取りしていくのか。
ホテルニューオータニの5代目総支配人となった郄山剛和氏(撮影:尾形文繁)
本業であるホテルでは、客室や宴会場など既存施設の改装を進めるという。同ホテルはザ・メインとガーデンタワーの2つの建物を中心に客室や宴会場を有している。
今年はメインの宴会場「パラッツォ オータニ」をリニューアルする。同宴会場の特徴は、日本庭園に面していることにある。今年の春から日本庭園の夜間ライトアップを始めているが、さらに「最大限活用していく」(郄山氏)。
ガーデンタワーでは、836ある全客室の改装を行っている。直置きだったテレビを壁掛け55インチへと入れ替えるほか、客室の鍵をシリンダーキーからカードキーへと変更する。
一方で、業界を見渡せば国内系ホテルは建て替えラッシュを迎えている。御三家でもホテルオークラが旗艦ホテルの「オークラ東京」を2019年に建て替え、再開業をした。「帝国ホテル 東京」も2024年度から2036年度にかけての建て替えプロジェクトが立ち上がっている。
ニューオータニは開業当時の建物が今も健在だ。建て替えの可能性について郄山氏は、「まったく否定はしておらず、これまでも検討してきた。だがホテルニューオータニの景観を支持してもらっていることもあるので、当面はこの建物をどれだけ継承できるか、ということに挑戦をしていく」と語る。
IPを収益性向上のドライブに
また注力する事業として挙げたのが、知的財産(IP)の活用だ。これまでも食品大手とコラボ商品を出している。ケロッグのグラノーラや明治の冷凍グラタンでは総料理長などが監修を務め、パッケージでは「ホテルニューオータニ監修」などとアピールしている。
「料飲事業やスイーツに力を入れてきたので、IPを収益性向上のドライブにしていきたい」と郄山氏は意気込む。接客ノウハウを活用した教育・研修事業やコンサル事業への展開も示唆した。
今年2月の東洋経済のインタビューで前任の清水氏は、「ニューオータニは、オーナー(創業家である大谷家)がチャレンジすることに対して非常に前向き。そこに、ニューオータニの『ニュー』のアイデンティティがある」と述べていた。
郄山氏はアイデアマンの総支配人として、どのような「ニュー」を生み出すことができるのか。
(星出 遼平 : 東洋経済 記者)