カナダ政府は重要鉱物資源に対する外国資本の投資に神経をとがらせている。写真はバイタル・メタルズが採掘権益を持つネチャラチョ鉱区(同社ウェブサイトより)

中国企業が購入することになっていたカナダ産レアアースの契約が、カナダ政府の介入により破棄されたことがわかった。

オーストラリアの鉱山開発会社バイタル・メタルズは6月17日、同社が採掘権益を持つカナダのネチャラチョ鉱区の(過去に採掘した)レアアース在庫を、カナダの「サスカチュワン研究評議会」に総額300万カナダドル(約3億4488万円)で売却すると発表した。

同社はもともと、このレアアースを中国の盛和資源(シェンフー・リソーシズ)に売却する契約を2023年12月に交わしていた。価格は総額260万オーストラリアドル(約2億7218万円)。サスカチュワン研究評議会はそれより27%も高い対価を支払い、盛和資源への売却を阻止した格好だ。

重要鉱物への投資審査を強化

盛和資源は四川省成都市に本社を置き、中国内外でレアアースの鉱山開発、加工、リサイクルなどを手がけている。一方、サスカチュワン研究評議会はカナダのサスカチュワン州政府に属する公的機関だ。

バイタル・メタルズの発表によれば、サスカチュワン研究評議会との取引はカナダ天然資源省の後押しにより成立した。なお、同評議会が買い取るレアアースの具体的な数量は公表されていない。

今回の動きは、カナダ政府が自国の重要鉱物資源に対する外国資本の投資に介入した最新の事例だ。

ここ数年、カナダ政府は国家安全保障上の懸念を理由に「カナダ投資法」の改正を重ね、重要鉱物資源に対する外国資本の投資の審査を強化し続けている。2021年3月には審査の対象範囲を大きく広げ、銅、ニッケル、コバルト、リチウム、レアアースなど31種の鉱物を追加した。

さらに2022年10月、カナダ政府は外国資本による新規投資の阻止だけでなく、既存の契約も強制的に差し止められる法改正を実施。それに基づき、リチウムの開発権益を持つカナダ企業に出資していた中国企業3社に対して、資本の引き揚げを命じた。


盛和資源は中国内外でレアアースの鉱山開発、加工、リサイクルなどを手がける。写真は同社の社屋に展示されたレアアースのサンプル(盛和資源のウェブサイトより)

カナダ産レアアースの購入を阻まれた盛和資源は、バイタル・メタルズの株式の9.9%の保有する筆頭株主だ。実は問題の購入契約は、盛和資源が2023年12月に590万オーストラリアドル(約6億1765万円)を投じてバイタル・メタルズの株式を取得した際、同時に合意したものだった。

採算取れず開発ストップ

注目すべきなのは、バイタル・メタルズのレアアース鉱山は事業性に問題を抱えており、これまでに何度も開発がストップしていたことだ。


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同社の2023年の開示資料によれば、バイタル・メタルズはネチャラチョ鉱区のレアアースの採掘と選鉱に関するフィージビリティ・スタディを実施。その結果、「キャッシュフローの黒字化が見込めない」としてレアアース加工施設の建設を中断していた。

バイタル・メタルズが盛和資源の出資を受け入れ、レアアース在庫の売却契約を結んだのは、事業を継続するための資金繰りに窮し、外部の投資家にすがらざるをえない状況に追い込まれていたからなのだ。

(財新記者:盧羽桐)
※原文の配信は6月19日

(財新 Biz&Tech)