なぜ日本経済は成長できないのか…日本から「天才たちが逃げる理由」を「ライドシェア解禁見送り」から解説します!

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日本の成長よりも「タクシー会社」が好きな国

日本版ライドシェアを巡って有力政治家の間で盛んな議論が行われてきましたが、最終的に岸田文雄首相による裁定で、解禁は見送られました。

前編「なぜ日本は没落するのか…その理由を岸田首相がやっちまった「ライドシェア解禁見送り」という「世紀の愚策」から解説しましょう!」で解説してきたように、今回の記事では、なぜ日本経済が成長できないのかをライドシェア問題を切り口に解説したいと思います。

ライドシェアは海外でもう長い間、使われてきた仕組みで、ウーバーのアプリも70ヵ国で導入されてきました。ライドシェアを導入するとどのような問題が起きるかも、その対処方法をどうすればいいかもわかってきています。

そしてトータルではモビリティの生産性を上げて経済を押し上げることもわかっています。

岸田内閣は経済が最重要だという看板を掲げています。

ライドシェアを解禁すれば経済成長することがわかっている政治家たちが、推進派として動いています。そして今回起きたことは、推進派と反対派がエネルギーを使って議論を続けたうえで、最終的に総理が「今はやらない」と決断したということです。

「あたりまえじゃないの?」

「既存のタクシー会社に及ぼす影響も大きいからな」

と日本人はこの議論のプロセスを当然だと感じています。

ここが実は日本経済が成長できないポイントです。説明しましょう。

スマホは、なぜ「イノベーション」だったのか

実は経済学では「何をやれば経済が持続的に成長できるのか?」については解明できていません。

これはノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授が経済学の教科書の中で語っている話で、1970年から80年代にかけてのアメリカ経済の悩みとして解説されています。

経済に関しては、ざっくりと言えば投資を増やせば成長するだろうということは言えるのですが、日本のように長期的に国債で借金をして公共工事投資を増やしている国が先進国の中で低成長が続いています。投資には経済成長につながるものと、それほど貢献しないものがあるのですが、その分かれ目がはっきりとはわからないのです。

メカニズムとしては投資をした結果、イノベーションが起きて、生産性が上がれば経済は成長します。具体例で言えば、スマホが生まれて、いろいろな企業がさまざまなアプリに投資をしたところ、生活者のタイパがよくなったという帰結であれば投資が経済を成長させます。

逆に、イノベーションが起きなければ投資をしても経済成長は大きくはありません。

公共投資で、夜中に道路を掘り起こして早朝に道路を埋める作業を続けていたとします。雇用は守れるのですが、生産性は上がらないのでたいして経済は成長しません。このように「何をやれば経済が成長できるのか?」は、やってみて、イノベーションが起きるかどうか次第なのです。

「日本の未来」を選ばない日本の首相

さて、この経済成長の問題に関してわかっていることがもうひとつあります。経済の成長を止める政策はわかります。簡単に言えば、経済活動を止める政策を打ち出せば、経済は停滞します。

物凄くわかりやすくするために、実際には起きないような例をあげましょう。

国が土日や深夜は、車は通行してはいけないと決めたら経済がどうなるかは想像がつくでしょう。ないしは商店は夜19時に閉店、20時には飲食店も閉店だと決めたらどうなるでしょうか。容易に想像できるように経済は停滞します。飲食店の例はコロナの時期に実際にそうなることがすでに検証できていますよね。

つまりライドシェアの場合で言うと、

1. イノベーションを起こさない

2.タクシーがつかまらない状況を劇的には改善させない

ということを首相が決定した。

だから経済成長が起きないということがわかります。

実はこの絵柄にはもうひとつ要因があるのですが、それは後半で別の形で説明します。

日本の「成長戦略」は、順序が逆だった…

日本経済の構造という点で、この構図をさらに俯瞰させます。

日本では「成長会議」のような政府の諮問組織がもう何十年の間、何回も招集されています。そのたびに議論になるのが規制緩和です。具体的に財界から、これを緩和してくれ、あれを緩和してくれと要望があり、部分的に少しずつ規制を緩和して経済を活性化させる試みが続けられました。

日本人はこの状況に何の疑問も感じていないのですが、よくよく考えてみると、規制を緩和するために大物の財界人、大物の経済学者、優秀な官僚と勢いのある政治家が顔を合わせて長々と会議をしている図こそ、生産性に逆行しています。

世界で成長している国々では、順序が逆です。まずやってみて、イノベーションが起きます。もちろんよくないことも起きて、その後でえらい人たちが集まって後から規制を議論します。生成AIはそのような手順で欧米での規制が始まっているというと、理解しやすいですよね。

日本人は世界の中でも少数派の「イノベーションを起こしていいかどうかを会議で決める」民族です。この作法を当たり前だと思っている限り、日本ではイノベーションは起きません。

日本の頭の良い人たちが「優先してしまうこと」

さて、日本の政治家はそんなこともわからない人たちなのでしょうか?

実はここが本質なのですが、実際にお会いして話をしてみるとわかるのは、多くの政治家は非常に頭がよくて優秀な方ばかりです。

官僚もその意味では同じです。

しかし、問題はその頭の良さが経済を発展させることを目的にはしていません。

票につながるかどうかの方が優先されます。規制があると陳情が起きる。陳情に応えると票につながる。だから規制は権力の基盤です。これは官僚も同じで、常にどのような法制を敷けば権限が拡大するかを優先して考えます。

みんな頭がいいのです。

ライドシェアはウーバーが誕生したところから数えてももう15年の歴史があります。世界各国でモビリティの課題を解消してきました。やれば経済が成長することはわかっている政策のひとつです。それをやらないだけでも日本経済の停滞問題が理解できるのですが、ここにもうひとつ別の問題が潜んでいます。

タクシー会社に許された「知財の濫用」

海外のライドシェアの仕組みは知恵のかたまりです。

需要に応じて供給が増えるのは、先述したダイナミックプライシングのおかげです。そしてそれ以外にも工夫があります。国土交通省が表向き一番気にしている安全の確保に関しては、ユーザーがドライバーを評価することで、安全に問題があるドライバーが淘汰される仕組みが海外では機能しています。

呼んだ車はアプリで現在地がGPSでスマホ上に表示されるので、今どこを走っていて、あと何分で現地に到着するかはすぐにわかります。タクシーと違って最初に料金が決まるので、会計も明朗です。つまり需給が自然に調整され、安全が自然に確保され、ユーザーにとっての利便性はよくなる。このイノベーションで、社会全体でモビリティが活性化されます。

もうひとつの問題とは、これらの知恵に関わる知的財産の問題です。政府は日本版ライドシェアを推進しているのですが、客観的に言えばタクシー業界がこれら海外の知財をパクることを容認しています。中国のライドシェアと同じです。これが隠れた3つめの問題です。

20世紀と違って、21世紀のビジネス環境では会社を成長させる最大の資産は知的財産です。工場の設備よりも、それを統括するITの方が価値が高く、他社が持っていないノウハウは競争優位につながります。

優秀な人が日本から逃げる「本当の理由」

今、アメリカの企業と日本企業でエリート社員の給与格差が広がっていることを、日本人は漠然と理解していると思います。それを社会風土の違いだと勘違いしているのですが、そうではありません。アメリカ企業は競争のカギとなる「無形資産」である人に巨額の投資をしているのです。

一方で日本企業や日本社会は、無形資産はパクってもいいと考えがちです。誰でも発明できそうなアイデアはパクるのが当たり前だと考えます。特許でも力関係で召し上げるのはやっていいと考える企業もあります。

ドラマの『下町ロケット』を見ればそのあたりの社会風潮はよくわかります。

問題はこの社会風土では、アイデアが経済成長につながらないのです。

資本主義が発展するための大前提は、私有財産が守られることです。日本では有形財産は守られます。会社の倉庫から勝手に在庫を盗む人は犯罪者以外にいませんし、取引先が勝手に金型を持って行ったりすることもありません。

しかし、無形財産は守られないケースが有形資産よりもはるかに多い。このことがイノベーションを起こせるようなアイデアを思い付いた若者がまず、海外に出ようと考える風潮につながるのです。

政治家がイノベーションを止めている

このように俯瞰して眺めると、ライドシェアが解禁されない問題は、日本経済が成長できない問題の象徴的な例だということがわかります。たとえライドシェアが解禁される日がいつか来たとしても、つぎはリニアモーターカーで、その次はドローンや生成AIです。

政治家がイノベーションを止める権限を持っている国。そして知的財産を守りにくい国。それだけの構造で今の日本の停滞は説明できるのです。

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